第18話 初進化
「ルカね、進化できるようになったよ!」
俺はその言葉を聞いて、思わず目を見開く。
人や魔物は、魔物を倒すことで強くなる。
原理は解明されていないが、『相手の魂を吸収することで生物としての格が上がる』というのが最有力の仮説だ。
例を挙げよう。
毎日筋トレをしてゴリマッチョだけど、一度も魔物を倒したことがないAさん。
ヒョロヒョロで強くなさそうだけど、魔物を百匹倒したBさん。
この二人が戦えば、よほどの相性差があったりしない限りBさんが勝つ。
このように、強くなるためには自主トレーニングも大切だけど、それ以上に魔物を倒すことが重要なのだ。
そして魔物の場合、一定まで魂を吸収して強くなると『進化』が可能になる。
進化すれば、生物としての格が一段以上、上のステージへと引き上げられる。
魔物を倒した時よりも大幅に強くなれるのだ。
「おめでとう、ルカ!」
「クロムお兄ちゃん、喜びすぎだよ。ルカよりも喜んでない?」
「……ヤバい。嬉しすぎて泣きそう」
「よしよし。いい子だから泣かないの」
俺は涙腺を引き締めてから、ルカに尋ねた。
「進化って今するのか?」
魔物の進化は基本的に一分もかからない。
早ければ数秒で終わる。
だけど、それは普通の魔物の場合だ。
キメラという特殊な魔物であるルカはどうなのだろう?
「ん、十秒くらいあれば終わりそうだから今するね」
「分かった。俺が周囲の警戒するから、ルカは進化に集中してくれ」
「りょーかい!」
元気よく返事したルカが淡い光に包まれる。
進化を間近で見る機会なんてないから気になるが、俺は周囲の警戒に集中する。
ルカの言った通り、十秒ちょっとで淡い光は消え去った。
「進化完了!」
ルカの外見に変化は見られない。
だけど、進化前よりも格段に強くなっているのが分かった。
ルカの種族はファイアウルフからプロミネンスウルフへ。
ランクはC-からB-へ上がっている。
それだけじゃなく、強力なエキストラスキルまで獲得していた。
「ルカはすごいな。今夜はいいお店でご飯でも食べよう。祝勝会だ」
「やったー!」
無邪気にはしゃぐルカの横で、俺は自分の体を見る。
「……やっぱり」
俺も強くなっている。
【キメラ作成】の効果には、『配下が強くなった時に付随して主人も強くなる』というのがあった。
だからだろう。
ルカが進化したことで、俺もまた格段に強くなっていた。
ルカと一緒に魔物を倒した時も強くなったのを感じたけど、今回はそれ以上だ。
今なら進化前のルカやナイトメアノワールとも正面から互角に戦えるだろう。
「さてと。討伐証明部位を持って帰ろう」
討伐証明部位とは、文字通りその魔物を討伐したことを証明する部位のことだ。
例えば、ゴブリンなんかは右耳が討伐証明部位になる。
「ナイトメアノワールは足の爪だったな」
色や形状が特徴的だから、足の爪を見せればすぐにナイトメアノワールのものだと分かるそうだ。
「よし、採取完了」
後はこれを村長に見せるだけだ。
完了した旨を依頼書に書いてもらって、それをギルドに持っていけば依頼達成になる。
「帰るか」
俺は踵を返そうとして……ルカに呼び止められた。
「……そういえばさ、【キメラ作成】ってどうなの?」
「ちょっと待ってな」
俺は【キメラ作成】を意識する。
自分のスキルだからか、現在の状態がハッキリ分かった。
「……使えるようになってる」
ルカの進化に伴って俺が強くなったからだろう。
一度だけなら、【キメラ作成】を使えそうだった。
「どうする? 使っちゃう?」
ルカがワクワクした様子で聞いてくる。
きっと、仲間が増えるのが楽しみなのだろう。
【キメラ作成】は仲間がたくさんいるほど真価を発揮するスキルだ。
さすがにルカみたいな高位生命体を生み出すにはコストが足りないだろうけど、使う価値は充分にある。
「【キメラ作成】!」
俺は【キメラ作成】を発動した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます