第40話

 翌日、朝食を食べ終わりすぐに運動場に集まった俺たちアイディールズは今日の討伐に向けて準備をしていた。


「おーい早瀬」


 俺は現在やることがなくなってしまっている弓部隊の早瀬を呼び出した。


「なにかありましたか?」


「ちょっと今日から弓部隊に新しい武器の練習をしてほしいんだ。資料を作ってきたから見てくれ」


 そうして俺は、今日の朝用意した棒手裏剣についての資料を渡す。


「これは、串?ですか?」


「棒手裏剣というものらしい。他の支部でこれを使ってスキルアップに成功した部隊がある。これに似たものを武器科で今大至急作ってもらっているから、俺たちが討伐に行っている間、これを練習しておいてほしい。投げ方についてはネットに載っていた記事を印刷したものもこの資料に入れてある。昼にはMDUから棒手裏剣が届くそうだから、それが届いたらそっちで練習してくれ」


「わかりました!討伐頑張ってくださいね!」


 早瀬はそう言って弓部隊の隊員達を集めて、資料の説明を始めた。早瀬はすごく頼りになるな。


「省吾ー!みんな準備終わったよー!」


 隊員の準備が終わったことを新庄が大きな声で知らせてきた。そろそろ出発だな。


 俺たちはいつもの幌付きトラックに乗り込み、討伐に向けて駐屯地を出発した。




「今日の討伐は基本的に自分達で戦ってもらう。もちろん危ない場面に遭遇する場合もあるだろう。そういう時は俺と新庄もサポートするし、できれば隊員同士でサポートし合えるのが望ましい」


 俺は隊員達に今日の討伐内容について説明した。かなりの急ぎ足だが、早めに1人で戦えるようになってほしかった。


「まあ今の時点でモンスターにやられるようじゃ、大型モンスターに遭遇した時にすぐ死んじゃうかもしれないからねー。みんな頑張ってね?」

 

「お前なあ……そんなに脅すなよ。……まあ新庄の言う通りでもある。今から苦戦してたらこの先生きて残れない。気合い入れていけよ?」


 新庄が隊員達に厳しいことを言ってしまったが、実際それは事実ではある。2週間後までにスキルアップだけじゃなく、戦闘技術を上げないといけない。

 戦闘技術にスキルアップのよつな上限は無いんだからな。今まで倒したモンスターが自分の糧になる。

 

 俺たちを乗せた幌付きトラックはしばらく街に向かって走り続けた。


 今日の討伐は新宿周辺で行う予定だ。特に新宿駅前ではかなりのモンスターがうろついているという話で、MDUから討伐依頼が届いていた。


 新宿に近づくにつれて、モンスターがかなり多くなってきたので、俺たちは駅から3キロほど離れた場所でトラックを降りた。すでにその辺にはモンスターがうろついているので、すぐに戦闘準備に入る。


「よし、今日は12時くらいまで討伐を続ける。さっきも言ったが、みんなで支えあっていこう。討伐開始!」


 俺の合図を皮切りに、東京支部【アイディールズ】の討伐は始まった。


 隊員たちはモンスターを1人で相手にするのはほとんど初めてで緊張していたようだが、討伐が進むにつれて、緊張もほぐれてきたようだった。

 良い意味でも悪い意味でも、だが。


「おい、高橋!後ろ!」


 槍部隊の高橋という隊員が、一体のモンスターを倒した後、油断したのか周りを全く見ておらず、後ろにモンスターが迫っていることに全く気がついていなかった。

 俺が声をかけてようやく気がついたのか、槍を構え始めたが、どうやっても間に合わないように思えた。

 

 まずいっ!やられる!!

 

 俺がそう思った時、高橋を襲うモンスターは凄い勢いで吹っ飛んでいった。

 

「大丈夫か!高橋!」


 刀部隊の岡がモンスターを木刀で吹っ飛ばしたようだ。

 

「高橋!何油断しているんだ!岡がいなかったら死んでたぞ!」


 さすがに危ない場面だったので、俺は高橋を怒鳴った。少し油断しようものなら、今みたいに周りが見えなくなる。


 その後、周りのモンスターを一通り倒し切ったところで、いったん討伐を中止した。


「お前ら、モンスターが倒せるようになったからって調子に乗るなよ?誰かの油断が危険を招き、他の隊員まで巻き込む場合もあるかもしれないってことを頭によく叩き込んでおけ。1人で戦えるようになっても、結局はみんなで支え合って討伐していかないといけないんだ。周りの隊員を支えられない奴が国民を守り助けられるわけないだろう」


 しばしのお説教タイムを終え、俺たちは少し後退して、休憩することにした。

 しかし、新宿駅まであまり近付いていないのに、モンスターの数が異常だった。新宿駅に近づくにつれてモンスターの数も増えているから、駅前がどんな状況になっているかは考えたくもなかった。 


「省吾。うちの高橋が悪かったね」


「まあ油断するのも気持ちはわかるんだがな。モンスター1体の強さはそうでもないから、どうしても倒し方が雑になり、油断する」


 常に次のモンスターを探すようなバトルジャンキーなら油断なんてしないのだろうが。

 どうにせよ、周りを見れないと高橋のように危険な目に遭うのは周りの隊員もわかったことだろうし、気は引き締まるだろう。


「岡!ちょっとこい!」


 俺は岡に少し話がしたかったので、休んでいた彼を呼び出した。


「はい!なんでしょうか!」


「さっきは助かったよ、ありがとう。岡、お前、随分動きが良いよな?剣道やってたって言っても限度があるだろう?」


 あまりにも動きが良すぎるので、少し気になっていた。正直俺より強いんじゃないか?


「剣道というか……私の祖父が剣術の師範でして。小さい頃から剣術を嗜んでいたんですよ。あとは居合術なんかもやらされましたね」


「ちょ、ちょっと待て。剣術ってあの、日本刀を使うやつだよな?」


 それに居合術?それを子供に?日本刀を子供に持たせていたってことか……?


「ええ、そうですよ。まあ日本刀は居合術でしか使ったことはないですが、剣術はずっと木刀を使っていました」


「……じゃあ日本刀は問題なく使えるんじゃないのか?」


「ええ、使えますけど?」


 岡は当然かのようにそう言った。

 なんでそういう大事なことを言わないんだよこいつは!


「よし!じゃあ次の討伐からは日本刀を使ってくれ!これからも頼んだぞ!」


 日本刀が使える岡に木刀を使わせていたなんて恥ずかしくて言えないぞ……。

 岡は日本刀を使うことに了承し、休憩中は確認するように日本刀の素振りをしていた。


 しばらくの休憩を終え、俺たちは再び討伐に向かうことにした。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る