第25話
時刻はもう5時半をまわり、徐々に日が傾き始めていた。
俺たちは演習場でぼーっと立ち尽くしてしまっていた。
「……終わった、のか?」
周りを見てもモンスターは1体も見当たらなかった。
いまだにそのことが信じられなくて、討伐体全員が呆然と立ち尽くすしかなかった。
「ハハハ……夢じゃないのか?」
店長も何だか信じられないと言った様子でそう言った。
「店長のバカみたいな作戦が功を奏したんじゃないですか?」
「まさか、ここまでうまくいくとは」
「宮地さん、松藤さん。お疲れ様でした。お二人の戦い、本当にお見事でした。とりあえず帰りましょうか……」
大川さんは俺たちを労ってくれた。その大川さんもかなり疲れたようで、早く撤退したいようだった。
俺たちは幌付きトラックまで歩いて戻り、駐屯地へ向かうことにした。
トラックの中では誰も話すことはなかったが、一人一人がとても満足している様子だった。
午後からの作戦変更の後、後衛の討伐隊も少しの間体を休めることができ、終盤は再び彼らを前線へ戻して戦った。その頃にはモンスターの数も大きく減っていたので、あとはこちら側がモンスターを蹂躙する一方だった。討伐隊みんなで最後まで戦い抜くことができた喜びに静かに胸を躍らせているのだろう。
少し経って駐屯地に着いた俺たちは駐屯地の様子に驚くこととなる。
「ハハハ……こんなことしなくたっていいのに」
駐屯地の入り口では、自衛隊員全員が出迎えてくれた。今回の討伐を喜んで、駐屯地を上げて盛大に出迎えてくれたようだ。
俺たちはせっかく出迎えてくれたことだし、ということで駐屯地の入り口でトラックから降りることにした。
入り口から少し進むと、早崎さんが待ってくれていた。
「おめでとう。まさか予定時刻よりも早く討伐を完了させるなんて思いもしなかったよ。今日は駐屯地をあげて盛大にお祝いをしようじゃないか!」
その言葉に討伐隊の隊員達は喜びの声を上げた。
「帰ってこれてよかったです」
新庄さんはすこし涙ぐみながらそう言った。
「そうですね。こうやって帰りを待ってくれている人がいる。こんなに幸せなことはありませんよ」
こうして俺たちの大規模討伐は幕を閉じた。
◇
「よし、それじゃあみんな、乾杯!」
「「「乾杯!!!」」」
その日の夜は、討伐隊の倉庫でバーベキューを行うことになった。
駐屯地にいる隊員全員が今回の大規模討伐成功の喜びを爆発させていた。
自衛隊員がこんなにどんちゃん騒ぎしてもいいんだろうかと思わなくもないが、早崎さんも今日は大目に見るそうだ。
「松藤くん!今日は本当にお疲れ様!」
かなりお酒の入った大川さんが声をかけてきた。すでに足元がふらついているように見える。
「お疲れ様でした!大川さんあまり飲みすぎちゃダメですよ?」
「今日だけは特別さ。さあ、松藤くんも飲んで飲んで!」
そう言って俺が持っていたコップにビールを注いでまたどこかへ行ってしまった。
「大川さん大丈夫か?」
まあそれだけ今回の討伐成功が嬉しかったのだろう。
他の討伐隊員もかなりお酒が入り、みんなかなり酔っ払っていた。
そこで、早崎さんがマイクを使って隊員の注意を引きつけた。
「あー、あー、聞こえるかな?討伐隊のみんな今日はお疲れ様。私がかなり無理を言って始まった今回の大規模討伐は大成功で幕を閉じた。本当に素晴らしいよ、おめでとう」
早崎さんがそういうと周りから拍手が沸き起こる。
「今回の討伐は臨時で討伐隊に入隊している私の友人が大活躍したそうだ。宮地、松藤くん、前に来てもらおうか」
……はい?俺?
周りからは再び拍手が沸き起こり、ピューピューと口笛を鳴らす人もいた。流石に知らんぷりはできそうにないか……。
俺と店長は早崎さんの方に向かい、隣に立った。
「みんなには言ってなかったんだけど、新しい討伐隊、
「え?聞いてないんですけど?」
「ああ、今言ったからね」
……またこの人は悪い顔をしてそういうことを言う。
「特に、東京は現在モンスターの巣窟になってしまっている。人口も多いし、それだけ守る人数も多いってことだ。それでも、その難しい地域を任せたい、そう思わせてくれるのが松藤くんだ。もちろん松藤くんだけじゃなく、他の討伐隊員もそれぞれ多くの人が助けを求めている地域へ向かうことになる。彼らは人類にとって、この真っ暗な世界を照らしてくれる唯一の希望だ。彼らが新しい部下を率いて、この日本全国に広がるモンスター達を討伐していく。今日の大規模討伐を終えた彼らならきっと日本を救ってくれる、そう思うだろみんな?」
早崎さんがそう言うと、自衛隊員達は声を出して盛り上がっていた。
彼らにとってもこのモンスターが蔓延る世界はすでに手がつけられなくなってきている。特に、3週間後には多くの人がまた死んでしまうだろう。そうならないため、そうさせないためのMDUだ。
MDUは人類の希望。まさにその通りだと思った。
「ほら、松藤くんもみんなに一言」
そう言って早崎さんは俺にマイクを渡してきた。ええ、こんな大勢の前で話すの?
「えー、ご紹介に預かりました松藤省吾と言います。駐屯地に居候させてもらってる、22歳フリーターです」
俺がそう言うと、周りからは大きな笑いが聞こえてきた。おお、自虐ネタはウケたようだ。
「俺は正直、誰かを救うとかそういう柄ではありません。できればコンビニでそれなりに働いて、好きな時に好きなものを食べ、好きな時に眠る、そういった生活がいいと思っています。元々はそうでした。でも、世界は変わってしまった。モンスターが出るようになって、数十万人が死に、帰らぬ人となりました。そんな世界で、モンスターを倒すことができる力が手に入ってしまった。別に黙っておいて知らんぷりすることもできました。でもそれは違う。助けを求めている人がいる。その事実があるのならば、俺はこの力を誰かを助けることに使いたい、そう思いました。近いうちに、世界はさらに深刻な状況となっていくでしょう。例の大型モンスターがさらに発生するかもしれません。それならなおさら俺は、俺たち討伐隊は皆さんの家族を、国民を助ける義務があるはずです!」
俺はそこでマイクを切った。自衛隊員達は盛大な拍手を送ってくれた。あー、緊張した……。
「まあみんなわかっただろう?彼がこの国を、世界を救う人間になるーー私がそう思った理由がね。さあ、そろそろお開きにしようか!討伐隊のみんなはゆっくり休んでくれ!今日は本当にお疲れ様!」
こうして俺たち討伐隊の祝勝会はお開きになった。
俺も片付けを手伝おうとすると、早崎さんが俺を引き止めた。
「松藤くん、このあと司令室に来てくれないか?少し話したいことがあるんだ」
「ええ、良いですけど……何分後くらいがいいですか?」
「片付けが終わった頃でも大丈夫さ。待ってるよ」
そう言って早崎さんは外に出て行ってしまった。
俺は早崎さんの用というのが何なのか、考えながら片付けを進めていた。
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