第23話
演習場に到着した俺たちだったが、他の討伐隊員達の熱はいまだ冷めやらぬと言う感じだった。
「よし、今日は1日かけて演習場にいるモンスターを全て討伐する!みんな、やる気に満ち溢れているのは良いことだが、そのやる気を変な方向に向けて万が一事故が起こるなんてことは決して許されない。俺たちはそのうち自分の部隊を持ち、その部隊に所属する隊員達を守らなければならなくなる。今日は長時間の討伐になるから常に気が抜けないし、周りと連携してお互いをサポートしながらでないとあの量のモンスターは討伐できないだろう。気を引き締めていこう」
階級の高そうな男性隊員は他の隊員に釘を刺すようにそう言った。まあ、他の隊員も浮かれているようで危ないと思っていたから助かった。
俺は人一倍張り切っていた新庄さんに声をかけに行った。
「新庄さんも、今日は本当に無理をしないでくださいね。昨日とは比べ物にならないくらい危険な討伐です。さっきあの隊員が言ったことは忘れては行けませんよ?」
「アハハ……。ちょっと釘を刺されたようで恥ずかしかったです。あの人はこの討伐隊の中でも一番上の階級の隊員です。彼は一等陸尉の大川といいます。人をまとめる能力もやはり素晴らしいですね。僕もとても憧れているんですよ」
へえ、彼は大川さんっていうのか。
確かに先程浮かれていた隊員の気を引き締めさせていて、普段から彼を慕う隊員もこの中には多いのだろう。
俺たちが大川さんのことを話していると、彼もその視線に気がついたのかこちらに近づいてきた。
「松藤さん、きちんと自己紹介するのは初めてですね。一等陸尉の大川と言います。この中では松藤さんや宮地さんの方が実力があるのに、仕切ってしまって申し訳ないですね」
「いえいえ、そんなことないですよ!やはり隊員達をまとめる能力は私たちにありませんし……。それに、隊員達の気を引き締めさせたあの話し方、感服です」
「いやあ、そんなこと言われると私も照れてしまいますね……。今日は危険な討伐ですが、お互い気を引き締めて助け合いましょう」
そう言うと大川さんは他の隊員達にも声をかけに行った。やはり士気を高めるためにはああいったまとめ役が必要なんだと実感した。
「そろそろ討伐が始まりそうですね。松藤さん、頑張りましょう」
「ええ、そうですね。これは俺たちが乗り越えなきゃいけない試練のようなものですかららね。死に物狂いで頑張るしかないですね」
こうして俺たちは戦闘準備を整え、少し奥まで進むことにした。演習場の手前には、昨日に比べてモンスターは少なかった。昨日少しは減らせたようで安心した。
だが、少し進むとその安心感は一瞬で消え去った。
「いやいや、やっぱりこれを見ると減っている感じはまったくないな」
演習場の奥には相変わらず、モンスターがうじゃうじゃと溢れていた。
「討伐開始だ!行くぞ!」
大川さんのその合図で、俺たちはモンスターが溢れる中に突撃していった。
◇
討伐を開始して2時間。やはり周りのモンスターが減った様子はなく、次々と近くに押し寄せてきた。
「クソ!やっぱり減らねえな!」
俺は全く減らないモンスターに嫌気が差していた。他の隊員もそれは同じようで、苦しい表情をしながら、何とかモンスターを倒していた。
その時、遠くの方で店長が戦っているのが見えた。だが、その戦いっぷりは他の隊員と比べても群を抜いていた。
「化け物だなあの人……」
この中で唯一の日本刀を使っている店長は次々と襲ってくるモンスターを真っ二つにしていた。その気迫はまるで鬼のようで、モンスターの中には彼を避けるように遠くに行くモンスターも確認できた。
「……早く俺も日本刀が使えるようにならなきゃな」
そうして俺は目の前にいたモンスターに一撃でトドメを刺した。
日本刀で刃筋を立てることを学んだ俺は、木刀を扱うときもそれを意識するようにしていた。1振り1振り、頭で考えながら攻撃することによって、わずかではあるが、刃筋を立てると言う意味が分かってきていた。
俺は次に襲ってきた熊のようなモンスターを相手にする。だが、その数が異常だった。
「なんで俺のところにこんなに集まるの?」
熊のようなモンスター。何ちゃらベアって名前がついていたと思うが、忘れてしまった。この熊はなぜか15体ほどで俺を取り囲もうとしていた。
モンスターの中にも、少し頭の回るやつがいるようだな……。
だが。
「そんなトロい動きのやつに囲まれるわけないんだよな……」
俺は次々とモンスターの体に木刀を突き刺す。すでに俺のスキルアップした力は、木刀がモンスターに刺さる程のものになっていた。
俺を囲おうとしていたうち、残った1体熊のモンスターの頭を木刀で一閃。頭部が割れ、少しグロテスクになってしまったモンスターの死体がその場に横たわった。
それを見ていた周りのモンスターが俺から遠ざかるように距離を取る。
店長のことを化け物扱いしていたが、俺もすでにモンスターから化け物扱いされるようになってしまったようだ。
まあ、こいつらが他の隊員のところに逃げてしまうのが一番避けなくてはならないので、さっさと始末することにした。
「距離を取られた時にピッタリの技があるんだよな、これが」
俺は木刀を鞘にしまうような動作をする。
もちろん木刀には鞘なんてないが、その動作がどうしても必要だった。
「抜刀術」
俺は木刀を抜き放つような動作と共に、地面を蹴ってモンスターに一瞬で近づいた。
数体でまとまっていたモンスターは後方に大きく吹っ飛び、多くのモンスターを巻き込んで絶命したようだった。
昔読んだ漫画に今のようなシーンがあり、俺はそれから使えそうな技だと思い、採用していた。もちろん、スキルアップした力があってこその技なんだが。
「こういう技ができるっていうのはちょっと楽しんでしまうな……気を引き締めないと」
俺は他の隊員達の補助もしながら、昼休憩を取るための一時撤退の合図まで、なんとか戦い抜くことができた。
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