第21話

「おーい!栞ちゃーん!」


 俺はすでに外を歩いていた栞ちゃんを大声で呼んだ。

 彼女も呼ばれたことにすぐに気がついたのか、俺が近づくのを待ってくれていた。


「悪いな、急に呼び止めちゃって」


「いえいえ、いいんですよ。ところでなにかあったんですか?」


「一つ聞きたいことがあったんだけど……。まあ立ち話もなんだし、そこのベンチにでも座ろうか」


 そう言って俺と栞ちゃんはベンチに腰掛けることにした。


「それで聞きたいことっていうのは……?」


「ああ、小橋のことなんだけどさ。昨日の夜小橋に会う機会があって、そのときの様子がいつもより暗い感じがしたから何かあったのかなと思って……。栞ちゃんならなにか知ってるかなと思ってな」


「あー、そのことですか……。

MDUモンスター・ディフェンス・ユニットの武器科については聞きました?」


「ああ、それに誘われてるっていうのは小橋から直接聞いたぞ。MDUに入るかどうか悩んでいるようだったから、暗いのはそれが原因なのかと考えていたんだが……」


「松藤さんは、彼女が男性が苦手なのは知ってます?」


「え、初耳だけど?」


 あんな性格しておいて男性が苦手なの?男をこき使うようなお嬢様タイプじゃん?


「言ってなかったんですね……。怒られるかな……。まあMDUに入る人は男性が多くなるのは予想ができますし、そういう組織の中で働くことになると、周りは男性だらけですからね。それが少し不安だっていうのは彼女から聞きましたよ」


「うーん……それはどうなんだろう。だって俺も店長も男だぞ?小橋もバイトを始めた頃は借りてきた猫のように大人しかったけど、1ヶ月もすれば俺と普通にコミュニケーションは取れていたし」


 その男性が苦手っていうのは本当なんだろうか?俺が想像する小橋と全然イメージが違うんだが?


「詳しいことは本人に聞かないとわからないですね……。今日電話でもかけて聞いてみるといいんじゃないですか?」


「そうしてみるよ。悪いな時間をとらせて」


「いえいえ、大丈夫ですよ。今度なにか飲み物でもご馳走してくださいね」


 微笑みを浮かべながらそんなことを言って女性隊員の宿舎へと栞ちゃんは戻っていった。


「さて、俺も戻るか」


 あとで小橋に電話でもかけようと思いつつ、俺は自分の部屋に戻ることにした。


 部屋に戻ると、店長は俺が使わせてもらっている予備の刀をじっくり眺めていた。


「店長?なにかありました?」


「刀に刃こぼれとかヒビが入っていないか確認してたんだよ。お前斬るときの抵抗がすごいって言ってただろう?その抵抗ってやつが刀にそれなりの負担になりやすいんだ。俺も昔のことだが、居合斬りっていうのをやっていたんだ。見たことないか?藁の塊をズバッと斬り落とすやつ」


「言われてみれば、そんなのがあったような……」


「俺も最初は刃筋を立てるっていうのが出来なくて、1本刀をダメにしたことがある。刃こぼれやヒビが入ってしまってな……」

 

 店長も最初は上手く扱えなかったんだな。

 今日の午前中はかなり日本刀を酷使してしまったから、刀がダメになっていないか心配だ。


「大丈夫そうですか……?」


「ああ、とりあえずは何ともなさそうだな。だが、使い方によってはそういう風になってしまうってことだけ覚えておけ。いざという時、刀が折れてしまったら俺たちにはモンスターに対抗する手段がなくなる。まあ、お前の場合は木刀も持ち歩けば問題ないか」


 借りている日本刀が何ともなくて一安心だ。俺には日本刀が買えるようなお金はないからな。

 しかし、店長の言う通りでもし武器が無くなってしまうとスキルアップした力は全く出せなくなる。その先はモンスターに殺される未来しかない。予備の武器を持ち歩くのは結構重要かもしれないな……。

 

 俺はそのあと店長教えてもらいながら、刀の手入れをした。MDUでは武器科の隊員がやってくれるのだろうが、自分でできることに越したことはない。

 まあ、当然下手くそなためめちゃめちゃ怒られながら手入れをする羽目になったのだが。


 刀の手入れが終わった俺は、小橋に電話をかけるため廊下に出た。


「…………もう寝てるのか?」


 すぐに小橋が電話に出なかったので、もう寝てしまったのかと思い電話を切ろうとすると、ちょうどそのタイミングで小橋は電話に出た。


「おう、小橋。寝てたか?」


「大丈夫よ。髪の毛を乾かしていてすぐに気がつかなかったの。ところで何か用?」


「ああ、少し聞きたいことがあってな」


 そうして俺は、昨日の小橋に元気がないように感じて電話をかけてことを告げた。栞ちゃんに聞いた話も一緒にだ。


「……MDUへの入隊で迷ってるのは事実よ。みんなが使う武器の手入れが初心者の私ができるのか心配だったのよ。でも店長も松藤くんもMDUに入るって聞いて、ついて行きたいって気持ちはあるのよ?松藤くんには助けてもらったのに、自分が助けられたらもうそれでおしまいってのは悪いし」


「それは気にしなくてもいいんだぞ?あれも偶然助けられたようなものだし、小橋がそれを気にして無理にMDUに入る必要はないからな?」


 別に俺たちがMDUに入るからといって、無理についてくる必要などないのだ。この先どうなるかはわからないしな。


「そう……もう少し考えてみるわ。おやすみ」


 そう言って小橋は電話を切った。

 小橋はなぜか、俺たちがMDUに入るからついて行くと言っていた。別にこの先は小橋もしようと思えば普通の生活だってできるのだ。まあ今まで以上にモンスターは歩き回るかもしれないが。


「まあ、MDUに入るかどうかなんて小橋次第だからどうこう言う必要もないか」


 俺はあまり小橋のことを気にしないようにすることにした。


「とりあえず、今日は寝るまで日本刀の素振りをしたいな」


 部屋に戻ると、店長はゆっくりくつろいでいた。そんな店長には悪いが、早く日本刀を扱えるようになりたいと考えた俺は、就寝時間まで日本刀の振り方を教えてもらうことにした。


「店長、休んでいるところ悪いんですけど日本刀の振り方……刃筋を立てるってやつをもう少し詳しく教えて欲しいんですけど」


「ああ、いいぞ。ただ、そんなに焦って扱えるようになる程甘くはないから、毎日コツコツ練習する方が大事だぞ?まあいい。とりあえず部屋の中で日本刀を振り回すわけにもいかないから外に行くぞ」


 そして俺たちは宿舎の外に出た。

 店長は事細かく、力の入れ具合や刀の振り方を教えてくれた。

 しかし、俺はなかなかコツを掴めることができず、日本刀の練習はもうしばらくかかりそうだった。

 

 就寝時間まで刀を振り続けた俺は、次の日の朝再び行われる地獄のトレーニングに備えてすぐに休むことにした。


 

 



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