第11話 十年振りに会うクラスメイトはゲーム画面越しでも超絶可愛かった


 『マグナバレー』のテレポの着地先は『ウィンダリア』とは違い、モンスターで埋め尽くされているようなことはなかった。

 ただ、背景が全体に赤く光っていて、七年振りに見ても目が痛い。

 俺のブルーウッドの周りでは、ユズキシがぐるぐると忙しなく動き回っていた。


『誰?』『誰か言って』『私の知ってる人?』


 どうやら先ほどテレポぎわに返した自分の言葉が、自分をアカネだと白状したに等しいことに気が付いたらしい。

 俺は慌てふためいたように動いて喋りまくるドットキャラのユズキシを見て、正直、可愛いと思ってしまった。


 落ち着け落ち着け。

 相手も二十七のいい大人の女だぞ。


 俺の脳裏には高校時代に会ったときのままの赤根柚季の顔が浮かんでいた。

 頭の中の想像上のアカネは、百面相をするように表情をコロコロ変えながら、俺に詰め寄っていた。

 泣きそうな顔になったかと思えば、ほおふくらませて怒った振りをし、そして照れたような笑顔を見せる。

 そうやってイメージされる俺たち二人の容姿は、どういうわけか、高校時代のまま。

 あの教室で、片や椅子に座り、片やその前の机に両手を突いて、互いに顔を見合わせて喋っているのだった。


 そうやって俺が一人密かに至福の悦びに浸っていると、次に飛び込んできた文字列によって、唐突に冷や水を浴びせられた。


『もしかして西野?』


 はぁ!? 誰だ西野って。

 それはアカネがメタリボをやっていることを知っている奴か?

 俺の知らないアカネのリアルの知り合いなのか?


 瞬間的に沸騰したように、その、身も知らない西野なる男に嫉妬心が湧いたが、だが待て。西野が男だとも限らない。

 それに、俺が怒ったり嫉妬したりするのは違うだろうと思う。

 アカネにとって俺は何でもない存在なのだ。

 ただ高校最後の一年間、同じクラスになって数回話したことがあるだけの異性。

 あれから十年だ。俺のことなど憶えていないに違いない。


 急に冷静になった俺は、一度深呼吸し、椅子に座り直し、じっくりと考えてからキーボードに触れた。


「ごめん。今日同窓会あって、んで、なんか懐かしいゲームの名前聞いたから、久しぶりにログインしてみた」「まさかメタリボがこんなことになってるとは思わんかったけど」


『まだ聞いてない』『誰?』


「あー」「多分憶えてないだろうけど」「高3のとき同じクラスだった青木だよ」


 しばらくの間。

 ユズキシの動きが止まってまたチャットが打たれる。


『なんだよ。まんまじゃん。ブルーウッドって安直』


 そんな何でもない返しを、俺はアカネが自分のことを憶えていた印だと感じ、舞い上がってしまった。


「そっちこそ、柚季の騎士でユズキシかよw」

『おい。個人情報』


「気にするなら、まず全チャやめろよwww」

『全チャって何?』


「全体チャット」「ワールド全部に聞こえてるだろ?」

『大丈夫。私らしかいないし』


 やはりそうなのか。

 ずっと一人でやってるのか、とか、俺のこと本当に憶えてるのか、とか、西野とは誰なのか、とか。聞きたいことは色々あったが、タイプした文字を消したり打ち直したりしているうちに、ユズキシがスススと移動し、画面の外に消えた。

 慌てて追いかける。


『ちょっと待って、場所変える』

「おk」


『時間もったいない』

「?」

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