第3話 居酒屋同窓会で彼女の近況を知る 2


「結婚とかはしてないよ。私、家近いから知ってるし」


 大西は今度は甘ダレの掛かった唐揚げを取り箸でつまみ、先ほどサラダを盛った俺の皿の上に置いた。


 なに、君? 俺を太らせて食おうとしてんの?

 つーか、どうせなら別の皿に取って欲しかったんだが? 味が混ざる。


「大学入ってすぐ、お母さんが死んじゃったんだってさ。詳しくは知らねーけど、その辺が切っ掛けで大学に行かなくなって、引きこもるようになったらしい」


 隣の村井がそう言った後、グビリとジョッキの水位を下げた。

 なるほど。皆が暗い表情になったのはそういう背景があったからか。

 しかし、察する感じ、アカネがそうなったのは随分昔のことであるように聞こえるが、今も現役でヒキコモリなのだろうか。


「何でみんなは、その話知ってんの?」


 親同士のコミュニティ経由でもないだろうに、学校を卒業した後でヒキコモリになった、かつての級友の動向を知るすべが他にあるだろうか……。


「アカネが自分で言ってたから」


俺「連絡は取り合ってんのか?」

「最近はめっきりしてないけどね」

「ああそれ、成人式の日に皆の前で言ってたんだよ。すげー、あっけらかんと」


俺「へ、へー」

「その後も同窓会には毎回顔見せてたよなぁ?」

「おう。正直、あれは見てて辛かったわー」


俺「何が?」

「いや、なんかよどんでく感じがさぁ。結構クラスのアイドル的ポジだったろ?」

「アイドルは言い過ぎじゃねーか?」

「ううん、そんな感じじゃない? 絶対男子の半分はあの子に気があったって」

「そうだったか? 駄目だ俺、卒業した後のあいつのイメージが強くて、もう当時を思い出せねー」

「まぁなぁ、いくら地元の居酒屋っつっても、同窓会で上下ジャージはなぁ……」

「ジャージじゃなくてスウェットね」


 俺は地元に残っていた面々との、アカネに対する印象の違いについていけてなかった。

 皆の前で自分でヒキコモリだと公言し、その後も同窓会に参加を続けている女子……。

 なんとなく俺が思っているヒキコモリのイメージとは違うが、それでも、こうして他のクラスメイトから残念だと思われるくらいの状況ではあるのかと、俺は貧困な想像力を働かせていた。


俺「今日は……? 誘ってないのか?」

「あ? アカネか? ああ、一昨年ぐらいから来なくなったな」

「誘いはしたよ? けど、忙しいんだって」


俺「自称ヒキコモリなのにか?」

「うん。なんだったかっていうネットゲームをずっとやってるんだって」

「やべー」


俺「ネトゲか……。ソシャゲじゃなくて?」

「うん。パソコン使うやつ」


俺「何て名前?」

「えー!? 何だったかなー」

「お、青木ぃ。やる気か? そうだなあ。今のお前らなら釣り合うかもな」


俺「うっせーよ」


 同じ無職同士だから釣り合いそう……か。

 短絡的な冷やかしだが、俺は実はまんざらでもなかった。

 高校時代は高嶺たかねの花で、俺なんかとは絶対に釣り合う存在ではなかったが、ネトゲ廃人になった彼女となら……などと底意地の悪い下衆げすな想像に思いをせてしまう。


「なーんだったかなー。ちょっと待ってぇ?」


 大西がスマホをいじりながらうめいている。


「そんなことより、直接アカネの連絡先教えてやれって」


俺「違うって。そんなハマるほど面白いゲームならやってみようかなって。ほら、今暇だし」


 ヒキコモリと言うなら、今の俺がまさにそれだった。

 東京の大学に行き、東京で就職し、先日めでたくその会社を辞め、久しぶりに地元に戻って来たのだ。

 しばらく再就職する気はなかったし、とりあえず飽きるまで実家でゴロゴロするつもりだった。

 面白いゲームがあるならやってみたい。そこに限って言えば嘘はなかった。


「あー。見つかんないけど、なんか思い出してきたわ。メタ……、なんとかだった。メタボ的なやつ。あんた太ったの? とかそんなやり取りしたの思い出した」

「えー!? アカネ、デブったの? ショック過ぎんだけど」


俺「メタボ……。もしかして、メタリボか?」

「ああ、多分それよ。そうだったそうだった」

「メタユニバース・リボルビング! うわっ、懐かしっ。俺らが学生のときのやつじゃん。あれ、まだサービス続いてんの? つーか、何で今さら?」


 男子連中が懐かしゲームの話題で盛り上がる中、俺は学生時代にアカネと交わした数少ない会話の記憶を思い出していた。

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