12話 研修旅行(2)

 再びバスに揺られて30分。

 俺たちは星空を見るための山に着いた。


「よし! じゃあ今からは自由時間だ!

 集合時間を見てまたここに戻ってこい!

 ふざけて脱走を狙ったりするなよ!

 楽しんでこい!」


 予想通り。

 さすがに星空を見るなら自由時間にしてくれるだろうと予想していたが当たった。


「優真…… 頑張れよ」

「蓮から聞いたよ! 勇気だして!」


 三日月さんがお手洗いにいっている間に蓮と凜から励ましの言葉をもらった。

 どんどん返さなければいけない借りが増えていく。

 

「よし、じゃあ俺たちも楽しんでくるから!」

「おう!」


 そうして三日月さんが戻ってきたので、俺たちは前もって調べていた人が少ない穴場へ向かった。


「わー! すごい光景です……」

「ほんとだね…… 思っていた以上だ」


 ここで君の方が綺麗だよなんて言えたら良かったのかもしれないが、あいにくそんな勇気はない。


 落ち着いて、その時を待つ。

 (あと5分…… もうすぐだ……)


 そうして、とうとうその時を迎える。


「優真くん見てください!

 街中がライトアップされてます!」


 そう、これが俺の狙っていた光景だ。

 毎日この時間にライトアップされると知り、待っていたのだ。


「三日月さん、一つ言いたいことがあるんだ」


 三日月さんはこっちに顔を向けると、神妙な顔で見つめてきた。

 もしかしたらバレていたのかもしれない。

 だが、今はそれどころじゃない。


「今日で俺達が出会って2週間。

 答えを出さなきゃいけない時が来たね」


 今日でちょうど2週間だ。

 俺たちは出会ったときに、ルールを設けた。

 夫婦になるか、ならないか。

 その判断をするのが今日なのである。


「ちょうど2週間前、俺は三日月さんに救われたね。

 親に逃げられ、路頭に迷いそうになっていた俺にすべてを与えてくれた。

 最初は正直少し怖かったけど、今思えばそれも愛情表現なのかなって思ったよ。

 ただ、今の俺は三日月さんに釣り合っているような人間ではないと思っているんだ。

 だか……」


「そんなことありません!

 優真くんは立派な人です!

 釣り合っている、いないの問題じゃ……」


 俺の台詞は途中で遮られた。

 でも、俺はそういうことを言いたいわけではない。


「俺の話はまだ終わってないよ?

 俺は別に拒否するわけじゃないんだから」

「え、それって……」


 さすがに三日月さんも気づいただろう。


「今の俺じゃ三日月さんに釣り合わない。

 だからこそ、これから頑張って三日月さんと肩を並べても恥じないような男になりたい。

 最初はいろいろ起こるかもしれない。

 だから、そんな俺を許してほしい」


 呼吸も、時も止まっているように感じる。

 ちゃんと話せているだろうか。


「三日月さん、俺と結婚してほしい。

 俺が絶対、三日月さんのことを幸せにする」


 言えた。

 やっと言えた。

 ずっと思っていたことをようやく。


(三日月さんの返答は……

あれ? 間長くね? やらかした?)


 急に不安になってきた。

 三日月さんはうつむいたまま何も言わない。


「あの…… 三日月さん?」


 声をかけると、急に抱きついてきた。

 胸元が濡れたのを考えると、おそらく泣いているのだろう。


「今は顔を上げられそうにないです……

 ちょっとだけ胸を貸してください」


 嗚咽が聞こえる。

 嬉しさで泣いてくれていることを願うしか道はない。


 5分後、三日月さんは顔を上げた。


「やっと落ち着けました。 すいません」

「別に大丈夫だよ」

「告白の返事をしなければいけませんね」


 急に鼓動が速まる。

 大丈夫、きっと大丈夫。



「喜んで!」



 どうやら了承はいただけたようだ。

 本当に良かった……

 安心したら一気に体から力が抜けた。



「大丈夫ですか!?

 ここで倒れられたら私では運べなさそうなのですが……」

「ああ、ごめんね。

 安心したら一気に力が抜けちゃって」


 俺はそう言うと、三日月さんのことを抱きしめる。


「これからも改めてよろしくね」

「はい!」


 抱きしめあっていると、視界の端に誰かが見えた。

 おそらく蓮達だろう。

 何回やらかしてもよく懲りないものだ。


「そろそろ時間だし戻ろうか」

「うむむ…… まだまだ抱きしめていただきたいのですが仕方ありませんね」

「帰ったらいっぱいしてあげるから」

「じゃあ良しとしましょう」


 そう言うと三日月さんは俺に顔を近づけてきて…… 頬にキスをした。

 

 自然と顔が熱くなる。


「クラスのみんなには内緒ですよ……?」

 

 三日月さんに俺は今後も勝てないだろう。

 そう思い知らされた。


 そうして俺達はバスへと戻っていった。



「おかえり~ で、どうでしたか?」

「お前ら見てたなら知ってるだろ」

「え、俺らバレてたの?

 かなり上手く隠れていたつもりだったんだけど……」


 案の定だった。

 俺らが戻ってきた頃には到着していたみたいだし、キスは見られてはいないだろう。


「というか、プロポーズなんだな。

 てっきり普通の告白かと思ったが……」

「うっさい、ほっとけ」

「「照れてる」」

 

 さすがにこれ以上追撃されたら、俺も三日月さんも死んでしまう。

 

「よーしみんな集合したな!

 それじゃあ今から宿泊施設にいくぞー」 


 いいタイミングだった。

 蓮達はふてくされていたが、いいだろう。


 またバスに揺られること数十分。

 目的地についたのだが……


「本当にすまないんだが、思わぬ予約が他に入って部屋数が足りないらしい。

 お前ら4人で一緒に寝てくれないか?」 


「「「「はい!?」」」」


 まだまだ夜は忙しそうだ……



――――――――――――――――――――



 part12

 今日はおそらく忘れられない日になると思います。

 

 出会ってから2週間、とうとう優真くんの答えを聞くことが出来ました。

 少し不穏な話し方をされたので不安にはなりましたが……


 結果良ければ全て良しです!

 これからは我慢していたことも優真くんにしてあげることができます。

 お風呂に入って、一緒に寝て……

 おっと、これ以上はまだ抑えなければ。


 とにかく楽しみです!


 え? 部屋が足りないから4人部屋……?

 優真くんに甘えられるのですか!?

 最高です。

 責任者さんに土下座して感謝しなければ。


 波乱の夜になりそうです……



――――――――――――――――――――



 お読みいただきありがとうございました!

 

 昨日の話が投稿されていなかったようなので2話連続投稿となりました。

 ある意味キリがいいかも?

 

 ここからは婚約後となります。

 容赦なく襲いかかる三日月さんの猛攻!

 優真くんは耐えられるのか!?

 ご期待ください。


 次回もよろしくお願いします!





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