第3話

 この場所から離れたら、あの女に見つけてもらえなくなる。そうとわかっていながら、忌まわしい記憶がよみがえる。あの男は、そのままゴミ箱に猫を捨ててしまったんだ。


 空腹も忘れて、一日中そのことを考えていた。


 思えば、たくさんの仲間の死を目の当たりにしてきた。


 新聞配達のバイクに跳ねられた猫。まだ息があるにもかかわらず、カラスに臓物を突かれた猫。人間に傷つけられた猫。


 猫って、なんだか損な役回りだな。


 ぼくは、もう疲れてしまった。寒くてひもじくて。


 そんな中で目を開けると、あの地味な女に抱き上げられていた。


「大変!! 病院に連れて行かなきゃ」


 女よ。おれは、もういいんだ。ここでつつましく死んでゆく。それにすごく眠いんだ。


 つづく

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