野良猫日記

春川晴人

第1話

 ぼくは野良猫。でも、たくましく生きていく。お母さんと生き別れになって、カラスに狙われたり、自転車に跳ねられそうになったりしたけれど、なんとか過ごしているんだ。


 野良猫には、野良猫の流儀がある。決して人間に近づかないこと。


 やさしいフリをして、傷つけられた仲間をたくさん見てきたから。だから、人間なんて信じない。


 だけど、今日はご飯が少なかった。最近では生ゴミも箱の中に入っていて、とてもじゃないけど手が出せない。


 お腹すいたなぁ。


 こんな時に限って、雪が降ってきたりするんだ。寒い。凍えそうだ。


「ママー!! 猫さんがいるよー!!」

「さわるんじゃありません!! 病気をうつされたら大変っ」


 ぼくはあなたほど病気を持っているつもりはないんだけどな。でも、子供は苦手だし、早く去ってくれ。


 地味な、黒いスーツを着た女がしゃがみこんでのぞいている。おもむろにカバンの中から、ゼリーのお菓子を出してきた。そ、それは、飼い猫だけが食べられる高級なやつー!!


 でも、だまされないぞっ。そうやって仲間たちが死んでいったのをぼくは見ていたんだから。シャーっと威嚇して、女を追い払う。


 女はただ黙って傘をおれに差しかけると、黙って立ち去ってしまった。


 ああいう地味な女は、信じてやってもよかったのかな?


 つづく

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る