第49話 メーダー
右に入って、左に折れて……ええと次は、もうどこにいるのか分からねえ。
ジャンプして上空から確認するのが最も冴えたやり方じゃないのか? い、いや、ベルヴァがいる。早まるんじゃない、俺よ。
街中でジャンプすると目立つというものじゃないぞ。
何事も急がば回れ、焦らず、じっくりと慎重に。そいつが俺のモットーじゃないか。
今度は狭い路地だな。横並びで歩くと肩がつっかえるほどだ。裏道らしく、俺たち以外に人の姿は見えない。
そこでむんずと背中を掴まれた。
「ん?」
「もういいわ。だいたいわかったから」
俺の服を掴んだのはアリアドネだった。
「まだ次の調査をしていないのに?」
「そう。あなたがニンゲンがいないところで、と言ってたじゃない」
「それで待っててくれたのか。ありがとう。中に入った方がいい?」
「そう複雑な話じゃないわ」
アリアドネがすっと上をさす。
上? 上に一体何が?
ふむ。薄雲があるものの、とても良い天気だ。これぞ、快晴。
ん? いやいや、彼女がわざわざ「良い天気ですね、ごきげんよう」なんてことをするわけがない。
「空が原因?」
「ヨシタツって、力は強いけど頭は弱いのね」
「そ、そんなことはないさ。冗談さ。冗談に決まってるだろ」
「ふうん。まあいいわ。ニンゲンたちがいくら調べても分からないかもしれないわね。だって、原因は地上じゃなく空なのだもの」
ギギギギと愉快そうに音を出すアリアドネ。対する俺はまるで分らん。
他の人はどうだ? 駄竜はふよふよ浮いてぼーっとしている。ベルヴァは空を見上げたまま何かを探しているようだった。
「まずは落ち着け」
「落ち着くのはあなたじゃないの?」
「声に出てたか。心を落ち着かせるには素数を数えればいいんだぞ」
「よくわからないけど、落ち着いたの?」
「おう」とばかりに胸を叩く。
そして、俺は自信満々な顔でアリアドネに言ってやったよ。
「そもそも、俺は魔法に関して素人だった。察することなどまるでできない。ははは」
「開き直ったわね」
「そういうわけで、一から十まで詳しく頼む。紅茶でも飲みながらの方がいいか?」
「そうね。花の蜜を頂こうかしら」
「あったかなあ」
「ございます」
首を捻る俺の後ろでベルヴァが即答する。
そんなわけで誰もいないことを再度確認してからアイテムボックスの中に全員で入った。
木陰の下に置いたテーブルセットの下で優雅にティータイムとしゃれこむとするか。
いつの間に、と言われるかもしれない。テーブルセットはドロテアで日用品を揃えた時に購入したものだ。
ティーカップなども同じくである。花の蜜は冒険者ランクを上げるためにサバイバルしていた時に俺がモンスターを倒すのを待っていたベルヴァがね。
「キイチゴも食べる?」
「頂くわ」
籠にこぼれんばかりに入ったキイチゴをテーブルの上にセットする。
俺たちはどうするかなあ。
あ、そうだ。露店で買ったものがあったな。
甘い物は珍しいとベルヴァが言うので、見かけた時に買っておいたんだよ。
「ベルヴァさん、俺たちはこれを食べようか」
「とても、美味しそうですね!」
取り出したるは「サツマイモのパイ」である。アイテムボックスの表示名がサツマイモになっていたけど、俺の知るサツマイモと同じかは不明。
食べてみてのお楽しみってやつさ。
「お、なかなか。サツマイモの甘さだけで作ってるんだな」
「美味しいです」
『我のはどうなっている?』
せっかく久々の甘味を楽しんでいたというのに駄竜が脛にかじりついてきやがった。
無言で一旦アイテムボックスの外に出て、肉の塊を取り出し戻る。
そして、ぽいっと肉の塊を転がした。
さっそくむしゃむしゃし始める駄竜である。すっかりペットみたいになってきたな、こいつ。
「食事も楽しんだところで、聞かせてもらえるか」
「最初から最後まで全部だったかしら?」
「それで頼む。どこから分からないかも分からないからね」
「魔術の心得が皆無で、あなたほどの極みに達した人は後にも先にもあなただけじゃないかしら」
なんて余計なことを口走りながらもアリアドネの解説が始まった。
遺体の調査をした彼女はヒールの魔法が後から何かの力によって変質したことを知る。
力が変質した原因を辿ると空へと向かっていた。
しかし、露店の火柱を見た彼女は自分の考えに修正が必要だと確信する。
炎の魔法を発動した後に変質が起こったのだ。
ヒールと炎の魔法では変質が効果を及ぼすまでの時間が違うのかと言うのはこの際置いておいて、変質の力が加えられるのは魔法発動時ということが確定したことが肝要だと彼女は言う。
「魔法が変質するというのは発動の瞬間ってことが分かった、までは理解した」
「理解してくれたところで変質をもっと適切な言葉に変えましょうか」
「うん?」
「ブーストと表現したほうがいいわね。それでね、その力だけど街の中全域に張り巡らされているわ」
「え、えええ。じゃ、じゃあ。俺は……使えないから、アリアドネやベルヴァが使っても?」
「うん。そうよ」
おー、そうなのか。
ん?
「いやいや待て。だったら、そこら中で火柱はあがるわ、遺体が動き出すわするよな」
「そこには気が付くんだ。この力はね、極めて稀に発動するの」
「クリティカルヒットみたいなもんか」
「致命的な打撃? 言い得て妙ね。そう。この力はクリティカルヒットを起こすのよ」
お、おおお。辻褄が合う。
謎の力によってこの街はクリティカルヒットが発動する。クリティカルヒットの対象はありとあらゆる魔法で物理は対象外。
遺体が動くことや髪の毛が伸びたりといった人の体に影響を及ぼすことだけ病としてクローズアップされていたから、本質を見誤っていた。
アリアドネなら、遺体を調べるだけでもこの答えにたどり着いただろうけど……。
なら、力はどこから来ている?
アリアドネに目を合わせると、彼女はまたしても指先を上に向けた。
「力は空から降り注いでいるけど、何かがいるんだよな?」
「そうよ。力を運ぶのは鳥。私たちは個体名をつけてないわ。とても特徴的な鳥よ。鮮やかな青と緑の羽を持つの」
「メーダ―と思います。 離れた場所に巣を作り、渡りをする鳥です」
おお、ベルヴァが知っていた。
分かったぞ。全ての謎が解けた。
「メーダ―という鳥が王都とバリアスを行き来していたんだな! それで二か所で同じような事象が発生したと」
「いえ、メーダ―を捕獲するだけでは解決に至りません」
俺の完璧な結論にベルヴァが待ったをかける。
あれ、鳥を片っ端からアイテムボックスの中に放り込めば解決なんじゃないのか?
「ベルヴァの言う通りよ。あなたも私の弟子の半分までとはいわないけど、少しくらい頭を使った方がいいわよ。そのうち溶けるかも」
「また、魔法的な何かだな!」
「そもそも、メーダ―という鳥は特に珍しい鳥でもないのよ。ドロテアだったかしら。私とあなたが出会った街」
「うん。ドロテアだよ」
「あの街にもメーダ―はいるわ。ファフサラスの巣付近にもいるはずよ」
「え、ええと。となると。王都とバリアスを往復する一群のうち一部がクリティカルヒットを発動する力を持っているってことか」
「ヨシタツ。私は最初に何て言ったか覚えているかしら?」
呆れたように言わなくてもいいじゃないか。いつもみたいにギギギギと音を出して頬まで口が裂け愉快そうにしてくれよ。
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