第41話 いろいろぶっちゃけた
「いやまあ、そんなわけでいろいろとあったんだよ」
「面白いねえ。店のことがなけりゃあ、あたしもついて行きたいくらいだよ」
「面白い要素あったっけ……」
「そらそうさ。未知ってのはそれだけで心躍る冒険だろ? 冒険者だって何も生活のためだけに冒険者をやってるわけじゃないんだよ」
「え、そうなのかなあ」
「警備兵やら用心棒をやった方が危険も少ないだろ? どっちも絶賛人不足と来てるのにさ」
「そういう事情もあったんだな」
「本当になんにも知らないんだねえ。いや、落としているわけじゃないよ。むしろ、逆さね」
廃屋でのことやらアイテムボックスのことも喋ろうとしたところ、カタリーナに自宅へ招かれた。
滅多に来客がないと彼女は言っていたが、彼女の家は一人で住むには広い。それもそのはず、家の中にも炉があり、鍛冶作業ができるようになっているからだ。
と言っても店があるので、自宅にいる時間はそこまで長くない。自宅では主に精錬をやっているんだって。
精錬と聞いても何をやるのかピンと来ない。
とまあ、彼女が振舞ってくれた料理に舌鼓を打ちつつ、洗いざらいぶっちゃけて今に至る。
彼女に伝えて事実と異なることは俺が日本から来た事くらい。別大陸から突然転移したことにすり替えている。
大枠は変わらないからこれで問題ないだろ。
「空間魔法じゃなく固有スキルというのも初めて聞くよ」
「そうなんだ。空間魔法は使い手が結構いるものなの?」
「珍しい。あたしが会ったことのある空間魔法使いは一人。有名なのは王宮魔術師メーダ―だねえ」
「へえ。見た通り、俺に魔力は一切ない」
「固有スキルといっても物を異空間に収納するものなのに、よくそれで戦えたね」
「ブレスに触れて収納したり、案外戦えるものだよ」
「岩を上から落とせば攻撃もできるってわけかい。それで、蜘蛛も倒したんだね」
「え……?」
「ん?」
顔に出てしまった。
そうか、確かにそうだ。今の今まで思いつかなかったぞ。
収納するには手で触れて収納と念じればいい。取り出す時は脳内コマンドからアイテムを選択するか、取り出すアイテムを思い浮かべればいい。
俺はここから一歩先を考えることが出来なかった。いや、気が付かなかったという方が正確か。
「取り出す時にどこに出すのか」
この点に注目していなかった。馬車を取り出した時は目の前に出てきたし、小さなナイフを出す時は手の平の上と近くの無難な位置に出現していた。
無意識的にやっていただけで、出現させる位置を調整できるんじゃないか?
こいつは盲点だったなあ。壁を目の前に出現させて防御するくらいは考えていたけど、大岩を落とすなど攻撃に使うイメージはなかった。
投擲しようとするナイフを収納して、取り出したらどうなる? というのは調査済み。
運動エネルギーはリセットされ、手元に出てくる。
まだまだアイテムボックスの神秘を探求する必要がありそうだな。
止まる俺に助け船をと思ったのか、ベルヴァが得意気に口を挟む。
「ヨシタツ様にはそのような些事、必要ございません」
「ほう。そうなのかい」
豪快にパンを口でちぎり、咀嚼したカタリーナが目を光らせる。
対するベルヴァも大きく頷きを返した。
「ヨシタツ様の武器は神にも匹敵するであろう強靭な肉体です」
「こんなに細いのに?」
「はい! すっとした体型でありながら、お預けした角を一撃で叩き折るほどです。斧を投擲し粉々にするほどの膂力もございます」
「へえ。魔力で体を強化するでもなく、動きも素人だってのにかい。面白いねえ」
「ヨシタツ様の拳は古龍の鱗でさえ砕き、跳躍すれば鳥より高く、拝見すると体が震え熱くなります」
艶やかな息を吐くベルヴァに俺だけじゃなくカタリーナも額から冷や汗が流れる。
ひたすら肉を齧り続けていた駄竜が頭の中に語り掛けてきた。
『然り。ヨシタツの拳を打ち破ること。十二将の頂点へ昇るより困難なものだ。我の最終目標だな』
「そこまで言われると一度見てみたいものだね」
赤い髪をかきあげ、パンで喉がつまったらしいカタリーナがゴクリと水を飲む。
そんなこんなで談笑しつつ、楽しい夕食会は幕を閉じた。
◇◇◇
カタリーナとの食事会からもう二日が経過している。
俺たちは翌朝の出発を前にして、アイテムボックス内で休んでいた。
ウサルンのお店で言葉の赤も入手したし、地図もバッチリだ。これでようやくバリアスの街へ向かうことができる。
バリアレス侯爵との面会の日までには余裕で間に合う。乗合馬車の出発からたった一日遅れだからな。
乗合馬車に追いついて同乗しようかなと思ったりもしたけど、俺たちは大所帯だし、夜を快適に過ごしたいから止めておくことにした。
問題を起こしそうなのが二人もいるし、な。
『何だ? 肉はやらんぞ』
「本当に威厳のあるドラゴンなのか不安になってきたよ」
『我こそは十二将が一柱、邪蒼竜であるぞ』
「はいはい」
肉から口を離してそのまま俺の脛に齧りつかないで欲しい。
もう一方の問題児もお食事中だ。蜘蛛を率いていたから肉食なのかと思いきや、リンゴを握っている。
二本の触覚を小刻みに揺らし、削り取るようにリンゴを咀嚼していた。
そう、久々に登場のアリアドネである。
彼女用のフード付きローブと革手袋にブーツを装着してもらったので、遠目には獣人や人間に見えなくもない。
といっても近くで見たら一目瞭然なのだけどね。そこはまあ仕方ない。
何と言ったらいいのだろう、俺の感覚だと彼女の肌とかはアンドロイドのそれに近い、気がする。硬質な蝋の肌? のような感じだ。
珍しい食べ方だったのでついじっと見てしまったら、リンゴから口を離した彼女が声をかけてくる。
「あなたの固有能力は理解したわ。十二将の私から見ても規格外よ」
「そうかな。俺は蜘蛛を率いたり、魔法を使ったりできないぞ」
「あなたには強靭過ぎる肉体があるでしょうに。音も置いていく速度なんて誰も見ることすらかなわないわ」
「そいつは修行の成果だな」
「ニンゲンって寿命が短いと聞いていたけど、あなたは見た目通りじゃないということね」
「そいつは固有能力のおかげってやつさ」
「ふうん。おいおい教えてね。その代わりと言っては何だけど、この空間のお手伝いをさせてもらうわ」
「ん?」
トコトコと歩き始めたアリアドネが、我が家の壁に手を当てる。
「あなたの巣、ちょっと脆すぎるんじゃない?」
「いずれ何とかしようと思ってるけど」
「ヴィラレントに頼みたいところだけど、ここじゃあ召喚できないわね」
「ヴィラレント? 俺が仕留めた奴だよな?」
「ヴィラレントは個であり群。群であり個。群れの中で一体だけヴィラレントになるの。いなくなれば新たなヴィラレントが生まれる。意識も共有されているわ」
「何それ怖い……」
なんて言葉を交わしつつ、アリアドネが手に力を集中させた。
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