第34話 第一波
黒い波はゆっくりと粘性のある液体のようにジワリジワリと迫る。
それは黒い体をしていた。
それは白い牙を持っていた。
その頭に目は無かった。
手足を持つものがいる一方、ミミズのように這うものもいた。
ただ共通しているのは一目見ただけで、それが悍ましく恐ろしい存在であると分かる事。
波は森り出でて荒野を進む。
鼻も無いのに鋭敏に獲物の臭いを感じ取り赤黒い涎を滴らせる。
ああ見えた。土くれの壁が見えた。その上で慌てる食事たちを見た。
鳴き声とも呼べない不快な音を奏でて波は進む。
足取りが遅いのは、彼らが影の外へと出られないから。大地に染み込み万象を侵していく邪悪な影こそが彼らのテリトリーであり、彼らが存在できる場所である。
短時間であれば外に出ることも出来なくはないが、今はその時ではない。
必要な瞬間を彼らは本能で知ることが出来る。だから焦らない。ただその時を待ちながら恐怖におびえ泣き叫び無様に互いに争う姿を眺めて待てばいいのだ。
彼らは止まることなく進み続ける。不快な朝の日差しは影の中には射してこない。
もうすぐ目の前だ。
――時が来た。本能が告げる。
黒き軍勢は影から飛び出し一気に土くれへと向かっていった。
それまでの移動が嘘のように、怒涛の勢いで彼らは一気に突っ込んでいく。
その口に、爪に、体に血肉の雨を浴びようと躊躇なく。
『グギュイッ!』
最も前にいた怪物は“何か”にぶつかった。
次から次へと押し寄せるものたちも同様に“何か”にぶつかり進行を阻まれる。
しかし遅れて来たものたちは気がつかず、前にいるものたちを押しつぶしては進み、また同じように“何か”に阻まれ、そして後から来るもの達に潰される。
死んだ怪物たちはドロリと溶けて大地に染みを作るが、それも光る一本の線を越えて内側へ入って来ることはない。
その事に遅れて気がついた怪物たちは怒りの声を上げた。
底無き欲望を満たす邪魔をする力に、それを作り出したものに呪いの叫びをあげた。
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