第27話「童貞は映画のとき隣に女子が座ってくれるだけで満足するものだ」
「ケチャップ大騒動」は予想より面白かった。
というより、僕の隣に天城さんがいたから面白さが倍増したのかもしれない。
読者諸君は「手と手が触れ合う」だとか「女子が肩に寄りかかる」だとかそういう展開をご所望かもしれないが、残念ながらそういったラブコメあるある展開は一切なかった。
童貞というのは、女子と一緒に観るだけで十分なのである。
シアターから退場する客に交じって僕達も外に出て感想を言い合う。
「面白かった!実は通報した人が裏世界の首領だったとはね」
「主人公と首領のバトルにはハラハラさせられました。これは他の部員たちにも勧めないと」
天城さんも楽しんでくれたようで安心した。
上映の途中、天城さんの方をチラチラ見て様子を窺っていたが、すっかり見入っていた。
夢中になって鑑賞する天城さんの横顔は、スクリーンから放たれる光によって照らされて美麗であった。
もはや映画ばかりでなく、天城さんをも堪能している自分に気がつき、彼女に抱く感情を認めざるを得なかった。
僕達は一休みするため、ロビーのソファに腰かけた。
「あのね」
何かを切り出そうと天城さんの口が開く。
僕は彼女の方に目をやった。
天城さんは僕達の前にあるグッズ売り場でキャッキャしている高校生カップルを見ながら言う。
「あたしね、部屋の話し声盗み聞きしてたんだ」
「え?」
「愛子ちゃんがあっきーにさ、あたしと同じこと聞いてたじゃん?『女の子してるか』って」
僕と蓬川さんの話を外から聞いていたのか。何というか、後ろめたさを感じる。
天城さんは続けて話す。
「何だかあっきーの答えを聞きたくなくて、あたしってば遮っちゃってさ。性格悪いよね」
彼女は自嘲めいた笑みを浮かべる。
「それって…」
僕は次に続く言葉を探した。
それはつまり、嫉妬してくれたってことなのだろうか。
ということは、やはり天城さんは僕のことが――
と、結論づけようとした矢先、僕が天城さんに目を向けている方角に見覚えのあるシルエットの人物がいた。
あれは…仙田だ!
仙田は今にも映画館に入ろうとしていた。
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