第37話 白と黒 〚ネットサーフィン〛

 * * *


 橋本先輩を見送り、家に戻ると、お父さんが気難しい顔をして玄関先で私を待っていた。


「あの男の子は、お前の友人の為にお祓いを頼むような人間だから、心優しいんだろう。それはわかってる、しかしだな」


 お父さんが一度咳払いをする。


「霊能力で誰かを救おうとする人間なんて、ろくな人生を歩まない」


「ちょ、」


 顔を上げて思わずお父さんを睨む。


「まともな霊能者になるには、その魂の格を上げないと悪霊につけこまれ霊障に悩まされることになる。彼自身が強い守護霊に守られていても、その周囲にいる人間に悪影響を与えることもあるんだぞ。あの、堀くんのようにな」


 はい?

 魂の格を上げるって何?

 まさか、滝にでも打たれろ、と?

 

「酷い! 堀先輩のことは関係ないじゃない。どちらかと言えば、うちが巻き込んだ事件だし」


 それでも、お父さんは苦い顔をして首を振った。


「本当に事件に発展してるのかわからんだろ。それにお前がペラペラと学校で話さなきゃ堀くんだってここに来ないはずだ」


「それは、そうだけど」


「リリがあの橋本くんを信頼して話した、それが事の始まりだ」


 私は何も言い返せなかった。

 そうだ。

 あのまま、藁人形を七日間打たせておけば……脅しに屈して、呪いなんて放置しておけば事は大きくならなかった。

 でも。


「そもそも、藁人形撤去して、貼り紙なんかしたからあっちがキレて灯油撒いたんだよね?」


 元はといえは、お父さんが悪いんじゃない!


「問題のすり替え! 最低!」


「リリ!」


 理不尽な話をするお父さんを、勢いで突破しようとしたら肩を掴まれた。


「とにかく、あの橋本くんには部活の時間以外は近づくな。いいな?」


 私は、子供みたいに、″いーっ!!″ と顔をしかめて振り切って自室に駆け込んだ。

 お父さんなんて嫌い!

 霊能力もないのに、ただ形だけの儀式だけやってお金を稼いでるインチキ神職のくせに!

 悲しい気持ちに浸り、何もやる気が起きない。


 ――先輩……。


 部屋のベッドで横になって、昨日先輩から貰った″ドラえもん″を眺める。

 これをあの知的な橋本先輩が描いたなんて信じられない。

 見てるだけで心がほっこりしてくる。

 そう、お父さんが言うように、先輩は優しい。


 ――そうだ。赤い蛇。


 私は、先輩も視たという木に巻き付く赤い蛇をネットで検索してみることにした。

 堀先輩を拉致したと思われる犯人に結び付くかもしれない。

 うちは確かに赤い蛇のマークの脅し文を置かれた。

 それを処分したのは惜しいけど、警察にとっては有力な情報になるかもしれない。


 浅い所では、私が覚えてる赤い蛇は出てこなかった。

 もっと、闇サイトとかブログとか見たほうがいいいのかな?

 その日。

 私はご飯も食べずにネットサーフインをしまくった。


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