「これって……」

「シャボン玉セットだな……」

 沈黙する二人。

 そして——

「ふふふ!」

「はははっ!」

 二人は同時に笑う。何がおかしかったのか、理由は分からない。

「シャボン玉か。それなら納得がいくな」

「そうだね。でも、これ、どうする?」

 二葉が、どうしようかと悩んでいた。

「そうだな。使わずに取っておくのも勿体ないし、ここで使うのもな……」

 プラスチックの容器を開け、割り箸を割り、焼きそばを食べ始める翔也。

 周りには小さな子供たちがいて、いい案が見つからない。

「それだったら子供たちとシャボン玉で遊んでみるとかは?」

「でもな……。大丈夫か? 相手は小さな子供だぞ。下の相手は慣れているといっても、あまり歳は変わらないからな」

 夏海の事を思い描く翔也。

 二葉は再び、うーん、と悩みながら、しばらくして、考えをまとめた。

「やっぱり、私だったら使うかな? 桜も綺麗だし、シャボン玉もあったらいいかな?」

「なんで最後に疑問形になるんだよ……」

 翔也は焼きそばを半分食べ終わる。

「そうだな。それでいいんじゃないか? 俺はお前のやりたいようにすればいいと思う。それに……俺は……別にどうでもよかったけどな」

「そう……」

「あ、でも気を付けてシャボン玉はやれよな。それに冷えるとおいしくないぞ」

 翔也は焼きそばを渡す。

「あ、うん……」

 二葉も焼きそばを、桜を見ながら食べる。

「それにしてもきれいだよな」

「え?」

「桜だよ。久しぶりにここに来たけど、ここも、あの堤防の桜並木も知っているだろ?」

「うん。知っている」

 焼きそばを食べるたびに、ソースが口につく。

 二葉は、買った時についてきた濡れティッシュの袋を破り、それを使って口の周りを拭く。

 そして、翔也の口にもついたソースを見て、翔也の口を自然と拭く。

「ん? って、おい!」

「あっ!」

 二葉も自分がしたことに気が付く。

「な、何してんだ⁉」

「え、えっと……。その……」

 二葉も頭の中が混乱していた。自分がした行動を思い返すと、なんて、大胆なことをしたのだろうと思った。

(あー、私、何やっているんだろう……。こんなはずじゃあ、無かったのに~!)

 二葉は頭を抱えながら、翔也の顔が見ることができない。

(くそっ……。何やっているんだ? 俺は……。でも、二葉はソースを拭いてくれたんだよな。悪気もなかったんだし……。拭いてくれた? あれ? 二葉は、何で俺の口についたソースを拭いてくれたんだ?)

 我に戻り、翔也は二葉の手元を見る。

(げっ! まさかの二葉が使ったティッシュかよ‼)

 翔也は、手を顔に当て、ガクッと肩を落とす。

(ど、どうしよう……。無意識にやっちゃったのは分かるけど……)

 二葉は、なんどもため息をつく。


 その様子を眺めていた達巳と唯は、ニヤニヤしながら、顔が赤くなっていた。

「おいおい、あれどう見る? 唯ちゃん……」

「そ、そうね。私としては有りなんじゃない?」

「有り、ね……。でも、二葉ちゃん、あれ、絶対に無意識だっただろう」

「そうね。あれはわざとではないわね。あの天然は、いかにも二葉らしいは……」

「そうだね」

「それよりもあの二人を見ていると、お腹空いたわ」

 唯は物欲しそうに言った。

「なら、俺が買ってこようか?」

「あら、あなたにしては気が利くじゃない」

「焼き鳥とチョコバナナ、どっちがいいかい?」

「そうね。チョコバナナにしようかしら」

「じゃあ、行ってくる」

 そう言い残して、達巳はその場から去り、屋台で売っているチョコバナナを探しに出かける。

 達巳が姿を消した後、唯は一人で二人の様子を窺うことにした。

(あの状況で電話をかけてこないってことは、あの子、相当、気が動転しているわね。大丈夫なのかしら?)

 唯は、ドキドキはしているものの、もうそろそろいいんじゃないかという自分もいた。

(さーて、どうしたものかしら。この後の展開が分からないわね……)

「唯ちゃん、買ってきたけど……」

 すぐに帰ってきた達巳は、唯にチョコバナナを渡した。

「ありがとう」

「別にいいよ。すぐそこにあったし……」

 二人はチョコバナナを食べながらまだ、初々しいカップルみたいな二人を監視し続けた。


「ね、ねぇ」

「なんだ?」

「その……。ご、ごめんね。わざとじゃないの……」

「別に気にしてねぇーよ。偶然そうなっただけだからな。気にするな」

「ありがとう……」

 二人は目を合わせれない状態でいる。

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