Ⅺ
「これって……」
「シャボン玉セットだな……」
沈黙する二人。
そして——
「ふふふ!」
「はははっ!」
二人は同時に笑う。何がおかしかったのか、理由は分からない。
「シャボン玉か。それなら納得がいくな」
「そうだね。でも、これ、どうする?」
二葉が、どうしようかと悩んでいた。
「そうだな。使わずに取っておくのも勿体ないし、ここで使うのもな……」
プラスチックの容器を開け、割り箸を割り、焼きそばを食べ始める翔也。
周りには小さな子供たちがいて、いい案が見つからない。
「それだったら子供たちとシャボン玉で遊んでみるとかは?」
「でもな……。大丈夫か? 相手は小さな子供だぞ。下の相手は慣れているといっても、あまり歳は変わらないからな」
夏海の事を思い描く翔也。
二葉は再び、うーん、と悩みながら、しばらくして、考えをまとめた。
「やっぱり、私だったら使うかな? 桜も綺麗だし、シャボン玉もあったらいいかな?」
「なんで最後に疑問形になるんだよ……」
翔也は焼きそばを半分食べ終わる。
「そうだな。それでいいんじゃないか? 俺はお前のやりたいようにすればいいと思う。それに……俺は……別にどうでもよかったけどな」
「そう……」
「あ、でも気を付けてシャボン玉はやれよな。それに冷えるとおいしくないぞ」
翔也は焼きそばを渡す。
「あ、うん……」
二葉も焼きそばを、桜を見ながら食べる。
「それにしてもきれいだよな」
「え?」
「桜だよ。久しぶりにここに来たけど、ここも、あの堤防の桜並木も知っているだろ?」
「うん。知っている」
焼きそばを食べるたびに、ソースが口につく。
二葉は、買った時についてきた濡れティッシュの袋を破り、それを使って口の周りを拭く。
そして、翔也の口にもついたソースを見て、翔也の口を自然と拭く。
「ん? って、おい!」
「あっ!」
二葉も自分がしたことに気が付く。
「な、何してんだ⁉」
「え、えっと……。その……」
二葉も頭の中が混乱していた。自分がした行動を思い返すと、なんて、大胆なことをしたのだろうと思った。
(あー、私、何やっているんだろう……。こんなはずじゃあ、無かったのに~!)
二葉は頭を抱えながら、翔也の顔が見ることができない。
(くそっ……。何やっているんだ? 俺は……。でも、二葉はソースを拭いてくれたんだよな。悪気もなかったんだし……。拭いてくれた? あれ? 二葉は、何で俺の口についたソースを拭いてくれたんだ?)
我に戻り、翔也は二葉の手元を見る。
(げっ! まさかの二葉が使ったティッシュかよ‼)
翔也は、手を顔に当て、ガクッと肩を落とす。
(ど、どうしよう……。無意識にやっちゃったのは分かるけど……)
二葉は、なんどもため息をつく。
その様子を眺めていた達巳と唯は、ニヤニヤしながら、顔が赤くなっていた。
「おいおい、あれどう見る? 唯ちゃん……」
「そ、そうね。私としては有りなんじゃない?」
「有り、ね……。でも、二葉ちゃん、あれ、絶対に無意識だっただろう」
「そうね。あれはわざとではないわね。あの天然は、いかにも二葉らしいは……」
「そうだね」
「それよりもあの二人を見ていると、お腹空いたわ」
唯は物欲しそうに言った。
「なら、俺が買ってこようか?」
「あら、あなたにしては気が利くじゃない」
「焼き鳥とチョコバナナ、どっちがいいかい?」
「そうね。チョコバナナにしようかしら」
「じゃあ、行ってくる」
そう言い残して、達巳はその場から去り、屋台で売っているチョコバナナを探しに出かける。
達巳が姿を消した後、唯は一人で二人の様子を窺うことにした。
(あの状況で電話をかけてこないってことは、あの子、相当、気が動転しているわね。大丈夫なのかしら?)
唯は、ドキドキはしているものの、もうそろそろいいんじゃないかという自分もいた。
(さーて、どうしたものかしら。この後の展開が分からないわね……)
「唯ちゃん、買ってきたけど……」
すぐに帰ってきた達巳は、唯にチョコバナナを渡した。
「ありがとう」
「別にいいよ。すぐそこにあったし……」
二人はチョコバナナを食べながらまだ、初々しいカップルみたいな二人を監視し続けた。
「ね、ねぇ」
「なんだ?」
「その……。ご、ごめんね。わざとじゃないの……」
「別に気にしてねぇーよ。偶然そうなっただけだからな。気にするな」
「ありがとう……」
二人は目を合わせれない状態でいる。
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