第3話

 薄紫色の光に包まれた漆黒の機動兵器アーム・ムーバーが濃蒼色の騎士型機動兵器アーム・ムーバーと交錯する。


 濃紫色に輝く巨大なブレードによる斬撃を避けきれず、濃蒼色の騎士型機動兵器アーム・ムーバーの濃蒼色のプレート・メイルの肩当部分の装甲が破損し、破片がまき散らされる。破損した流線形の肩当部分の装甲に罅が入る。


「おいおい……さっきより早くなってないか?しかも攻撃力も上がってやがる――」


『……オーレン大尉、どうやらこの専用機ASSALT GRIFFONは機体性能を多段式に変更可能なようです。』


「多段式だぁ……ギアチェンジみたく手軽に変更可能ってことか?フレディ中尉。」


 どこか傍観者めいた言葉に、少しイラっとしながらオーレンは、前面モニター中央下部に『Sound Only』と表示されたウィンドウに向かって応じる。ウィンドウ上部に『フレディ=サイ』というラベルが表示されている。

 

『恐らくは……扱うには癖のある機体のようですが、機体制御OSに自動多段変更機能が実装されでもしたら厄介ですね……』


「車で言うと今はMTミッション・トランスミッション機能だが、今後ATオートマチックトランスミッション機能が実装されかねないってことか?……っと速度には段々慣れてきたぜ――」

 

 フレディと会話しながら、周囲のオフィスビルを踏み台にして繰り出される攻撃を円錐型の巨大な騎槍ランスや左腕に装備したバックラーでいなす。


『おやもう対処できるのですね。流石は『技師わざしオーレン』……しかし車のATオートマチックトランスミッション機能ですか……言い得て妙ですね。』


 妙に感心した声音のフレディにオーレンは、声を荒げる。


「で、いつまでこいつの相手をせにゃならねぇんだ?……今回の依頼――『睦月グループ』の代表権保有者の暗殺防止ってことは、対象者を避難させてんだろ?」


『ご名答です。今、人工幻夢大陸ネオ・アトランティカを拠点にしている団の拠点へ誘導していますので、しばらく時間稼ぎをお願いします。』


「……人遣いが荒いこったな……というか人工幻夢大陸ネオ・アトランティカを拠点にしている団ってことは、『白の勇士団バリアント・ブリゲイド』か。げッ……じゃあ、窓口は久間か?」


『ええ……久間さんです。露西亜連邦のASSALT GRIFFONとの遭遇戦は、こちらの想定を超えた事態ではありましたが、久間さんから送られてきた修正版の作戦計画を見ると想定内の対応の1つとなっていました。』


「……あいつはいつもそうだ。何もかも見透かしたような物言いしかしやがらねぇ!だったら、初めから想定していることを教えやがれってんだ!」

 

『まあまあ……今回の蒼の騎士団プリメーラ・クロイツの作戦……人工幻夢大陸ネオ・アトランティカの拠点にクライアントを護送するまでは、オーレン大尉なら何とか完遂できるって久間さんも太鼓判を押してくれましたので……期待しています。』


「けッ!久間のやつに評価されても嬉しかねぇぜ!」


 薄紫色の光に包まれた漆黒の機動兵器アーム・ムーバーは、濃紫色に輝く2対の巨大なブレードを器用に開閉しながら変則的な攻撃を繰り出し始める。

 いなしきれない斬撃で、濃蒼色の流線形のプレート・メイルの腰部や背部の装甲が破損し、破片がまき散らされる。


「……くッ!?……攻撃パターンを変えてきやがったな……」


この専用機ASSALT GRIFFONは、蒼虎騎兵アジュール・アーム騎士型装備ナイト・フレームの防御力を上回る攻撃力を有しているということですね……』


「……この調子じゃ、次から次へと新型機動兵器アーム・ムーバーが出てくるんじゃねぇか?」

 

 鷲の上半身をした漆黒の機体を見ながら、オーレンは毒ずく。


『……その可能性は、否定できないですね……』


「……止めてくれ!こいつみたく、初見殺しの攻撃対応とか疲れるんだぜ!」


『……それを難なくいなせるから、オーレン大尉が適任だと団長も仰ってましたよ。』


 漆黒の機動兵器アーム・ムーバーによる濃紫色に輝く2対の巨大なブレードを使った変則的な斬撃によって、濃蒼色の流線形のプレート・メイルの装甲が破損し、破片がまき散らされる。


「団長!無茶ぶりはやめてくれ!」


 オーレンの叫びも虚しく、薄紫色の光に包まれた漆黒の機動兵器アーム・ムーバーが速度を増していく。


 オーレンは、リクライニングシートのマニピュレータを操作しながら、再接近した漆黒の機動兵器アーム・ムーバーの鷲の頭部をバックラーではね上げ、態勢を崩すと巨大な馬槍ランスの持ち手で殴りつける。


 蒼虎騎兵アジュール・アームの変則的な反撃に、漆黒の機動兵器アーム・ムーバーは即座に道路を蹴り上げて飛び退く。そして、オフィスビルを方向転換の土台とばかりに蹴り、方向転換しながら距離を取る。


「……手練れを相手に時間稼ぎか……しんどいな。」


 オーレンは、全天周囲モニターの前面に映し出される漆黒の機動兵器アーム・ムーバーを睨む。


「暫く、時間稼ぎに付き合ってもらうぜ。」

 

 ◆◇◆◇

 ◇◆◇◆◇ 

 

 交差点手前に、20台の交通局の車両型ドローンがパトライトを点灯させて横一列に並んでいる。

 見ると交差点の向こう側にも、同様に20台の交通局の車両型ドローンがパトライトを点灯させて横一列に並んでいる。

 

 幅1メール、高さ3メートルの車両型ドローンの前面に取り付けられた大型のパネルにはスタンドサインが表示されている。『車両通行禁止』を意味する文字を強調するように、赤い文字に白の背景、白い文字に赤の背景が交互に表示されている。


「……この道路は、閉鎖されているようです。」


 リムジンの運転手は、ヘッドマイク越しに交通局へ交通状況を確認した後、苦々し気に言う。


「……」


 白のスカートスーツに濃紺色のハイヒールという出で立ちの女性が眉を寄せる。

 凹凸がはっきりした肢体を強調しすぎることなく女性の魅力を引き立てている。


「お父様とお母様の安全な場所への退避は……大丈夫でしょうか?」


 白のワンピースに白のハイヒール、濃紺のショールを羽織る少女が不安そうに呟く。左側に纏めて垂らしている胸元まで伸びる艶やかな栗毛を胸に抱く。

 

「既に病院地下シェルターへの避難が完了しておりますのでご安心を。加奈様。」


「良かった……ありがとう。ステラさん。」


 ホッとした表情を浮かべ、加奈はステラに微笑む。

 

「……最新の交通情報だと、この道路は通行規制されてないじゃないか!」


 助手席のデニムのジンズ、タンクトップの上に青のパーカーを羽織った女性がタブレット端末に表示されている交通情報をみて怒気を強める。


「……交通局に確認したところ、どうやら機動兵器アーム・ムーバーによる戦闘が開始されており戦闘エリアが拡大しているとのことです。マリー様。」


 困り切った表情を浮かべる運転手からの返答に、マリーは目を見開く。

 

機動兵器アーム・ムーバーによる戦闘!?一体、どこの……」


 言いかけた時、目の前の交差点に、全身の装甲を所々破損させた濃蒼色の騎士型機動兵器アーム・ムーバーが車両型ドローンを突き飛ばしながら、交差点に侵入してくる。

 突き飛ばされた車両型ドローンが道路に叩きつけられ、破損されたパネルや車両型ドローンの装甲の破片を辺りにまき散らす。

 

 騎士型機動兵器アーム・ムーバーを追いかけるように、薄紫色の光を放つ漆黒の四足歩行の機動兵器が濃紫色の光を放つ2対の巨大なブレードを広げ交差点に突っ込んでくる。

 鷲の上半身は、頭の一部と左肩の付根辺りが破損している。

 よく見ると、後方の1対のブレードは、左片方が付根から破損している。

 

「濃蒼色の騎士型機動兵器アーム・ムーバーと……ASSALT GRIFFONだと!?」


 目の前で展開される騎士型機動兵器アーム・ムーバーとASSALT GRIFFONの戦闘に驚くも、咄嗟に運転手へ指示を出す。


「すぐにこの場から離れるんだ!巻き込まれるぞ!」


「は、はい!」


 マリーの指示を受けて、慌てて運転手はリムジンを後方に向けて急発進させる。


「くそッ!機動兵器アーム・ムーバーで市街戦してんじゃねえよ!」


 智也の罵倒もむなしく、ASSALT GRIFFONと騎士型機動兵器アーム・ムーバーは交差点付近のオフィスビルを損壊させながら戦闘を続けている。

 

「きゃあ!」


「加奈……大丈夫?」


 リムジンの後部座席中央の加奈が前方へ投げ出されそうになるところを、塁が咄嗟に抱き留める。


「うん……ありがとう。塁君……」


 加奈は、上目遣いで塁を見つめると瞳を潤ませ、その胸に飛び込むように身体をあずける。


「加奈?」


「……大丈夫……だよね?」


「ああ……大丈夫だ……きっと」


 自分に言い聞かせるように紡いだ言葉は、リムジンの急な方向転換と急停止、急発進により掻き消された。後部座席から振り落とされないように加奈を抱きしめながら踏ん張る。


「なにが……」


 ドガガガガガガガガガガガガガガン

 

 言いかけた時、物凄い衝撃音と地響きと共に、先ほどまでリムジンのが停止していた場所に巨大なブレードが突き立てられる。

 

「くそッ……あのASSALT GRIFFON、今、こちらを狙ってブレードを飛ばしやがった!」


 マリーが吐き捨てるように言うのと同時に、リムジンの後部座席中央に備え付けられたタブレット電話がコール音を出してなる。


 プルルルルルルルルルルルル


 プルルルルルルルルルルルル


 急に鳴りだした電話音に、後部座席の後方のシートに座る塁、加奈、智也は顔を見合わせる。

 後部座席の後方のシートへ向かい合うように座る楓は、不安そうな表情を浮かべ、智也を見ている。

 篠崎さんの右隣のステラは、眉をひそめ隣に座るデニムのジンズ、タンクトップの上に白のパーカーを羽織った小柄な女性を見やる。


「小山……このCall Noは、外部の誰かに通知していますか?」


「……直近では『蒼の騎士団プリメーラ・クロイツ』に。確か、緊急時に現場責任者から連絡が来ることになっています。」


「判りました……小山、取次を。」


「ハッ!」


 小山は、先ほどからなり続くタブレット電話の応答ボタンを押す。


『こちら、蒼の騎士団プリメーラ・クロイツ第3小隊副隊長フレディ=サイです。』


「……」


 小山は、ステラを見やる。

 小山の視線を受け、ステラは頷く。


「……こちら、睦月グループ『経営企画室』です。状況をご説明ください。」


『……クライアントが無事で安心しました。』


 小山の回答に、フレディが応答すると続ける。


『現在、既に提出している計画書に則り、状況はフェーズ3へ移行しています。』


「……フェーズ3では、機動兵器アーム・ムーバーでの戦闘を行わないはずでは?」

 

 眉をひそめるステラにフレディが応える。

 

『……睦月グループ代表権保持者を害する意図を有している組織による先制攻撃を受けましたので自衛措置として応戦しております。』


「……その組織とは?」


『裏付けとなる証左には乏しいものの、RUCIA露西亜連邦中央情報部と断定。』

 

「……待て!RUCIA露西亜連邦中央情報部だと?」


 小山の誰何にフレディは、端的に応える。

 

『過去の戦闘データと照合した結果から推測しております。』


「過去の戦闘データ?」


『……露西亜連邦とは幻想洞窟ダンジョン絡みで何度も交戦しておりますので。』


「……」


『現在、当方の機動兵器アーム・ムーバーにて応戦中。ASSALT GRIFFONとの戦闘区域を迂回する、安全圏までの経路を提示します。』


 フレディの言葉が終わるや否や、タブレット端末に経路が表示された。

 

「……行くしかないでしょうね。」


 ステラの言葉に、小山は頷く。


「誘導された地点までのナビはこちらで行います。リムジンを出してください。」

 

「承知しました。」


 運転手がおずおずと頷くのを横目に、マリーが毒ずく。


「……状況に振り回されてばっかりじゃねぇか……」

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