第511話「ジャイアントモールの討伐」
その日は朝食にウサギ肉が出てきた。どうやらサキも無難な討伐依頼を受けることを覚えたようである。平和なのはいいことだな、出来ればトラブルなど起こって欲しくはない。もめ事や、面倒なことをやりたくはないのだ。
嫌がらせの如く碌でもない依頼を押しつけられるのが日常になっていたので、退屈なのはいいことだ。せせこましくせわしない依頼を受ける必要が無いというのはいいことだ。
朝食のウサギ肉のソテーを食べながら、バターがしっかり使われていて、ウサギ肉の淡泊さをカバーしていた。ウサギ肉が定期的に入ってきたせいか、それを使った料理が発達していっている。この調子で俺に食材を提供して欲しいものだ。
この村にそれほど脅威は無いようだし、昼飯は他所の食堂に行って食べるかな……
そんなことを考え宿を出た。観光地になった美術館に行ってみた。俺も寄付をした手前多少は繁盛していて欲しいものだと思う。
そうして宿を出て美術館に向かうと、数人の行列が出来ていた。しかもその上『目玉展示! ブルードラゴンの鱗が銀貨一枚で見られます!』と書かれていた。寄付したものをぼったくり値段で展示するとは随分といい根性をしているようだ。
寄付したもので大金を稼ぐのは楽しいか? そう訊いてやりたかったのだが、俺があまりにもみみっちい行動だと思えたので止めた。
さて、見るものは見たし昼飯にするかな……そんな考えで村の食堂に向かった。
そこでは珍しいことに野菜がほとんど出なかった。肉の方が高いと思うのだが何か事情があるのだろうか? ふと気になったので肉のステーキをかじり食べきった後で『肉料理が名物なんですか?』とそれとなく水を向けてみた。すると会計係は愚痴っぽくグダグダ喋ってくれた。
「ジャイアントモールが出ていましたね、村の野菜の収穫が下がっているんですよ、迷惑な話でしょう?」
「それは大変ですね……お察しします」
そう言って食堂を出たので、なんとなくだが村のギルドに依頼が出されているような予感がしてギルドに向かった。俺が食糧難を助ける義理は無いが、なんとなくその原因を取り除かないと、何時まで経っても野菜が食べられそうもない。仕方ない、ギルドに行くか。
ギルドに着くと狼狽した様子のメアさんが待っていた。
「クロノさん! どうかジャイアントモールの討伐をお願いします!」
やっぱりそうなるか……薄々分かっていたこととはいえ、俺が対応しないとならない案件だろう。肉ばかりの料理も嫌いではないが、俺がさっさと受けないとサキが受けてしまうだろう。アイツにそんな実力がないのは明らかだ。自分のせいで死人が出るのは嫌なので、嫌々ギルドに向かった。
ギルドのドアを開けるとメアさんが悠長に『大モグラの討伐、報酬銀貨一枚』という渋い報酬で受注者を募っていた。いくらなんでも報酬が安すぎると思ったが、この町で野菜が大量に採れるからこそ安いのだ。固いパンだけの朝食を遠からず見る羽目になるかもしれないので受けるか……
「あ! クロノさんじゃないですか! この依頼を受けてくれるとかそう言うことですか? まあ話だけでも聞いていってくださいな」
「いや、受注したいのですが、話を聞く必要が?」
「へ!?」
虚を突かれたメアさんに俺は野菜スープすらなくなるのは嫌だと熱心に主張した。食欲という、人間の持つ強力な欲求には避けられない。野菜でもあるだけマシなのだ。
「いけませんか?」
「いえ、まだ誰も受注はされておりませんし、問題は無いですよ。でもクロノさんがそんなことを言うなんて珍しいですね」
確かに観光をしたいのに必死にせせこましくしているとは思うのだが、食糧が尽きたら観光もクソもないので俺の食事を邪魔するやつは討伐されなくてはならない。
「ああ、そうそう。その依頼票ですが、サキには見せないでくださいね、その……なんというか……」
「面倒を見るのが面倒なんですね? 分かりますよ、この依頼票にさっさとサインしちゃってください、サキさんにはにが重い依頼ですからね」
そのにが重い依頼をよりにもよって銀貨一枚でやってくれというのだからいい根性をしている。まったく結構なことだなとは思うのだが、この村の財政状況を考えると無理もない。いくらドラゴンの鱗が珍しいからって道なき道を来てまで見たいと思うのは少数派だろう。
「好奇の視線を向けないでくださいよ……俺だってたまには普通の討伐依頼だって受けますよ」
俺がそう言うと納得はしたのか、俺に差し出された依頼票にサインをしておいた。これにて受注は完了だ。
さて、ギルドから出て村の中を捜索する。探索魔法で地面の下を探す。モグラの方も知恵が回るらしい。必要の無いときは町の中にいないようだ。
となると森の中か……面倒なところに隠れてくれる。
俺は村を出て探索魔法を広範囲に使う、一カ所に大きな魔物の反応があった。地中にいて、なおかつそこそこの早さで動いているので間違いないだろう。
さて、どうやって地面から引っ張り出すかな……
そこで俺はふと思いついた。『グラビティ』を使用すれば重さをかけることが出来る。じゃあ空の方に地面と反対の重力を発生したらどうなるのだろう?
俺は早速試してみることにした。
『グラビティ』
今回は上方に向かってジャイアントモールの居る場所を地面から切り離して浮かべた。
すると地面が半球状に浮かび上がった。どうやら狙いは成功したようだな。
しかしモグラの急所ってどこなのだろうか?
モグラに対してのみ重力魔法を使ってみるか……上手くいき地面は上空に浮いたまま、モグラの部分だけが地面に落ちてきた。
ジャイアントモールはその重さに耐えきれず、地面に叩きつけただけで息絶えてしまった。俺も深く考えすぎなのかもしれないな。
さてと、血抜きはしておくかな……
食べられるのかどうかは分からないのだが、少しでも報酬に応えるためにきっちり食肉にしても流通させられるようにしておく。
ジャイアントと名乗るだけあって結構な地が浮き上がった場所に大穴が出来ている。その中に血抜きした血を綺麗に流し込んでから、浮遊している地面を落とした。
死体を収納魔法に入れて、時間停止を使用しておいた。
そしてギルドに帰ると、満面の笑みで出迎えてくれるメアさん。
「いやー本当に助かりましたよ! サキさんがモグラ退治の依頼は入っていませんか? なんて訊くんですよ? 危ないところで『先約があるので』と無事断ることが出来ましたよ」
「サキはそんなに生き急いでいるんですかね? というか勝算はあったんですか?」
「サキさんがはジャイアントモールがいそうなところを狙って毒薬を撒く予定だったそうですよ、はた迷惑な話です」
メアさんも大変だなあ……そんなことを考えつつ、査定場に連れて行ってもらった。
そこにジャイアントモールの死体をまるごと出す。メアさんも驚かず傷の状態を確認していた。多分内臓はぐちゃぐちゃになっていそうだが見た目には傷が一切無かった。
「クロノさん、これどうやって倒したんですか? 頭に大きなものを叩きつけられた後があるんですが、そんな器用な武器でも持っているんですか?」
「ええまあ、俺の秘密というやつですよ」
俺は軽くそう言って、無事完了となった。銀貨一枚の依頼料を貰い、明日の朝食にはモグラ汁でも出るのだろうかと少し不安が浮かんだ。
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