第250話「蜂蜜酒を奢ってもらった」
朝食を食べていたら給仕さんから声をかけられた。
「クロノさん、
「蜂蜜酒の醸造所? はて、そんな所に縁があるわけではないはずなんですが……」
「この前ヘルホーネットを倒してくれたそうですね、そのお礼をしたいとおっしゃっているそうですよ、是非ギルドに来て欲しいと」
「ギルドですか……最近面倒なことを押しつけられているんですよね」
「ハハハ……ギルドもそう無茶は言いませんって! ウチに泊まってると言ったら言伝を頼まれたんですよ、ギルドに行ってくださいね?」
「ええ、分かりました、ギルドに顔を出さないわけにも行きませんからね」
実際、ギルドは居住者以外に口うるさく言ってくることで有名だ。移民が無秩序に増えては困るということで、ある程度はギルドがそれを抑制している。蜂蜜酒なんて半端な酒を飲むことはあまり無いからな。酒がもらえるなら多少は手間をかけてもいいだろう。口ぶりからして金を払えと言っているわけではないようだしな。
朝食のオークステーキと黒パンを食べ終わったところで席を立ちギルドに向かう。金があるからと言ってタダでもらえる物を断る理由は無いからな。
カランカラン
ギルドに入るとアウラさんがやる気も無さそうに話しかけてきた。
「クロノさん、依頼遂行のお礼が来ているので
「それ、宿でも聞いたんですけど、ヘルホーネットって肉食じゃありませんでしたっけ?」
そう、肉食動物が蜜を集めているのはおかしい、そういうことだ。
「いえ、蜜蜂が襲われていたということで、それが無くなったお礼だそうですよ、ヘルホーネットには随分と苦労させられていたらしいので」
なるほど、捕食者を退治したからターゲットになっていた連中の安全が確保されたということか。俺は大したことをしていないのだが、もらえるというならもらっておくのはやぶさかではない。なにしろタダで飲める酒は美味しいからな。
「で、ミードを頂けるということですか? この町であまり見かけない商品ですが有名なんですか?」
アウラさんは当然と胸を張って俺に答える。
「もちろんですよ! 輸出に割いているので町内では滅多に出回りませんがね! なかなか美味しいそうですよ、飲めないので知りませんけど」
情報ソースが不確実なアウラさんの言葉を聞いてから俺はその醸造所へ向かった。助けられたのにまさか工場見学で終了ということはないだろう。
その建物は割としっかりしており、よく見ると醸造所である特徴が一部に見受けられた。なるほど、この町に住んでいるなら目立たないこの工場を気にすることも少ないだろうな。
建物の玄関をノックすると、気が抜けたような『どうぞ~』という声が聞こえた。どうぞというからには入っていいのだろうと判断して中に入ると、綺麗な銀色の髪の女性が一人待ち構えていた。
「いらっしゃいませ~あなたがクロノさんですよね?」
「ええ、そうですが」
「でしたらついて来ていただけますか~」
「え……はい」
一緒に奥に入ると皆がミードを飲んで酔っぱらっており、パーティ状態だった。
「ええっと……これは?」
「皆さん心配の種が無くなって緊張の糸が切れたんですね~私も早くああなりたいんですが待機を言い渡されまして……」
どうやらこの人は俺の待機要員として待たされていたらしい。確かに所員の大半がこの様子ならさっさとこの中に入りたいと思うのは当然だろう。
「ヘルホーネットが討伐されたということで~それを討伐してくれた方にお礼がしたいということで皆さん待っていたんですよ~」
この状態を待っていたといっていいのだろうか? 飲んだくれて潰れていたという方が正しいような気がするのだが……まあもらえる物がもらえるなら俺も文句はないのでケチをつけるのはやめにしようか。パーティ気分にわざわざ水を差すこともないだろう。
「それで、クロノさんにお送りするのが、こちらの近年最高品質のミードです。ここでは輸出品としてしか生産していなかった貴重品ですよ~!」
そう言って木の箱に入った瓶を取りだしてもらった。琥珀色に輝くそれは貴重品であることも納得の品だった。これなら文句をつけなくて済むような良いものだ。
「こんな貴重品をもらっていいんですか? 貴重品で輸出に力を入れているとか……」
「大丈夫ですよ~、これは逆輸入品ですから~、是非受け取ってください~」
逆輸入! そんな方法がありなのか? いや、やっているところはあるのだろうが、制作しているところが逆輸入をするなんてありなのだろうか?」
「気にせずもらっちゃってください~、ここではよくあることですから~」
「よくあることなの!?」
「そりゃあそうですよ~ここで作られるものの品質の良さは作っている私たちが一番分かっていますからね~」
なるほど、制作者以上に作ったもののことを知っている奴はいないということか。しかし逆輸入するほど自分たちの作ったものを信じていると……結構な自信だな。
「はいどうぞ~、受け取ってください~」
「どうも、ありがとうございます!」
「はい~おかげで私の役目も終わりですね~、あのパーティに入るのであとはご自由になさってください~」
言うが早いか受付さんはさっさと乱痴気騒ぎを繰り広げている集団の中に入ってミードを飲み始めた。自由な人だな……しかしこの酒はなかなかの価値が有りそうだ。売るにせよ飲むにせよ貴重品なのでしばらく保存しておこう。普段飲むものは酔うためだけの酒にして貴重品は時間停止をかけて保管しておこう。
時間停止をかけた
「クロノさん! 良いミードをもらったんじゃないですか? 是非私にも一杯ですね……」
「済みません、貴重品なので保管しておこうと思ってるんです、これはそう簡単に売り払えるようなものではないです」
あの気持ちの良さそうな酔い方を見るに不味い酒ではなさそうだしな。しっかり保管しておいてここぞというときに飲んだり換金したりしよう。そういう風にもらったときに決めた。
「そうですか……貴重品ですもんね……しょうがないです。ではクロノさん、言伝はちゃんと伝わったと言うことでギルドに依頼されていたことは完了しましたね」
「これ、依頼だったんですか?」
「ええ、『ヘルホーネット討伐者を工場に呼ぶ』というギルド向けの注文でしたよ、無事遂行されたようで何よりです」
こうして俺のヘルホーネットに関する一件は終わりを告げた。だが頭の奥底が各地で魔物が活性化している事への警告を続けているのだった。
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