第36話 帰り道の誘い ⑵
土田と2人で放課後デートの予定が、那知と井上の出現により空転してしまったが、那知がどうして井上を同伴させているのか気になる澪。
「たまたま、そこで会って引き留められただけだよ」
那知は迷惑そうにぶっきら棒に言った。
「だって、私はちゃんと連絡先渡したから待っていたのに~!那知ったら、全然連絡くれないんだもん!」
(わっ、なんか、学校でのあの......一軍女子です的な見下してくる態度と違って、那知に甘えたような口ぶりになっている~!男子は、そういうのって、嬉しいのかな?私は、やっぱり苦手だな~、そういうカメレオン女子って。那知だけじゃなくて、井上さんの方も、那知を呼び捨てしているし......土田君と付き合っていた時よりも、よっぽど親密度が高そうに見えてしまうんだけど......)
那知に向かって拗ねている様子の井上を見ていると、もう土田とは全く関わり無さそうに思えてきて、ホッとした澪。
「連絡しないっていうのは、連絡するような必要性が全く感じられないからじゃん。」
(ほら~、那知って、私と違って、井上さん相手でも、遠慮無くズバズバ言えるんだよね~!土田君の方は、井上さんと自然消滅したみたいに言っていたけど、この状況を間近で見て、どう思っているんだろう......?)
「私にとっては、必要性大有りだから~!」
今までは、誰でも意のままにして来られた経験上、これからもそれが出来ると信じて疑わない態度の井上。
「あっ、確認したいんだけど、いいかな?井上さん、僕とは.....?」
躊躇いながらも確かめようと、遠慮気味に尋ねた土田。
「え~っ、イヤだ~!空気読んでよ~もうっ、今になって何なの?まさか、私達の関係が続いてるとでも思っていたの~?」
交際していた時とは違い、土田に対し、手の平を返したような冷たい口調になる井上。
「美依、空気読めてないのは、自分の方じゃん!一応、言っておくけど、そもそも、僕は、前に塾帰りのお2人さんと会った女装男子だから!」
これ以上、執拗にまとわりつかれると迷惑と言わんばかりに、井上にも女装の件をカミングアウトした那知。
「女装男子......って、何の事......?女装って......?まさか、あの時、ボッチと一緒に歩いてた、なっちゃんって子が、那知ってことなの?」
土田と同じ塾の帰り道に目にしていた、澪と一緒に歩いていた女子を思い出し、目を白黒させた井上。
「そういう事、残念でした~!」
信じられない様子で那知を凝視した井上。
「マジで......?嘘よ!そんな事、有り得ない!」
井上は隣に座っている澪や、斜め向かいにいる土田に確認してみた。
「それが、ホントなんだけど......」
初めて那知の女装を見た時の自分の驚きぶりを思い出し、今の井上の心境も分からないでもない澪。
「僕も、園内から言われるまで、全然気付けなかったし、何なら、まだ半信半疑なくらい......」
土田もまた、無理は無さそうな口調で言った。
「何なの......?さては、2人とも共犯になって、私を騙そうとしているんでしょ?」
那知が女装男子だったという事を断固として受け入れ難い様子の井上。
「そんなに信じられないって言うなら、化粧道具貸せよ、美依」
井上が登校用のリュックの中から化粧品が沢山入ったポーチを取り出して渡すと、那知は化粧室へ向かった。
(あんなにパンパンに化粧品の入ったポーチを学校に持参しているとは......さすがは井上さん、私と違って気合入っている~!)
変なところに感心している澪。
10分もしないうちに、メイクを済ませ、化粧室から戻って来た那知。
「男子用の制服だし、ヅラも無いから、あまり化けられなかったけど......」
パッチン止めしたショートヘアで、制服コスプレのような感じだったが、そんな中途半端な状態の仕上がりでも、ポイントメイクだけで十分に美少女顔になっていた那知。
「マジ信じらんない!」
美少女メイク顔に変わった那知を見て、自分の目を疑った井上。
井上だけではなく、メイク後の那知が隣に座った事で、土田まで落ち着かなくなったのを澪は見逃さなかった。
「お化粧道具返すね~、ありがとう!初めて見るような色んなの有ったから、なかなか使い応え有って楽しかった!美依も、これで、納得してくれた?」
まだ呆然としている井上に向かって、小悪魔的に微笑んで尋ねた那知。
「もうっ、目の前で、こんなの見せられたら納得できないわけないじゃん!でも、私、こう見えて、とても物分かりいいのよね~!だから、普段は男子姿しているわけだし~、私はね、那知にそういう趣味が有ったって理解してあげるから!」
美少女顔の那知を前にしても苦笑いしながら、なかなか引かない様子の井上。
「あ~っ、もう、どうしてこんな事を言うまで、美依には、分かってもらえないのかな~?だから、僕がこうして女装が趣味なのは、全く女子には興味無いからじゃん!だって、僕が好きなのは、ツッチーだから!」
そう言って、那知は隣の席の土田に両腕を伸ばして抱き付いた。
(ええ~っ!那知~、何してるの~!自分の言っている事、分かってるの~?)
目の前で予期せぬ行動に出た那知に、土田はモチロンの事、澪と井上も目を見張った。
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