第28話 これからのこと

-side エリク-




「なあ、トール」

「ん?どうした?エリク。昨日の茶番の事、悪く言ったことなら、もう謝ったではないか」

「待て。あの演説、茶番ではないんだが。……いや、まあ。かなりグレーゾーンではあるけど」

「お主……お主自身が、自信なくしはじめたら、もう終わりぞ?--して、何のようだ、エリク?」

「ああ。それが……国を作ったは良いものの、これから、何をすれば良いのか分からないから、有識者に聞きたいんだ」

「そうか。やはり、あの演説。茶番でおしまいにしといた方が良かったのではないか?」

「そうだけど、そういうわけにはいかないんだ。これが。--というか、これは、真面目な話だ」

「冗談だ。冗談。ちと待て。今、ルカを呼んだ。もう直き来るだろう」

「助かる。有能な執事がいて羨ましいな」

「そうでもないぞ。我に仕事してくれとうるさいからのう」

「トール様。聞こえておりますよ。やはり、ここにいましたか」

「ぬ?い、いやあ。これはだな……」



 今、俺たちは、家の中のリビングにいる。

 ルカがこれだけ早いという事は、元々、トールを仕事場に連れ戻しに来るつもりだったのだろう。



「久しぶりだな。ルカ」

「お久しぶりです。で、トール様。誰がうるさいですって?」

「お、お主が仕事をしろしろとうるさいのだ」

「あのですね。私があなたの何倍働いているかお分かりですか?」

「3倍くらいか?」

「30倍の間違いです。それで、済めば良いですねえ。まったく……エリク様はこの前の茶番も立派にこなしたというのに」

「ル、ルカまであれを茶番って言うんだな」



 エリクは遠い目をして、そう呟いた。

 若干、黄昏気味である。



「な、ち、違います。その、為政者として、素晴らしい演説とカリスマ性の才能をお持ちで、しっかりとお役目を果たされているのだなと、言っているのです」

「なるほど…………。つまり、意訳すると、茶番をしっかりこなせたと」

「そ、そういうわけではありません」

「ルカ」

「はい?」

「もう遅いのう」

「ぐぬ……。エリク様、無礼な失言、失礼致しました。では、トール様を連れて。私はもう行きますね」

「あ、ちょっと待って。聞きたいことがあるんだけど」

「なんですか?」

「その……」

「こやつは、リーダーとしてやるべき事とは、何か聞きたいらしいぞ」

「リーダーとして、やるべき事?……そんなの書類にサインする事に決まっているでしょう!行きますよ!トール様」

「わわっ……!いきなり、引っ張るな。ほぎゃーーー!」



 鬼のような顔をしたルカに引きずられて、トールはこの家から連れ出される。

 「うーん。圧倒的な人選ミス感」--と一人残されたエリクはまた呟くのだった。



「(--さて、1番詳しそうなルカが、あの調子なら、自分で行うしか無いだろう。レオンは、教えてくれなさそうだし、ルークも戦闘では頼りになるけど、そもそも、内政は詳しく無いだろうしな。父上は……悪い人では無いし、俺より実務の経験はあるが、今まで、王様に手玉に取られるくらいには、凡人。一緒に暮らしていた感じ、うちの人間は全員、為政者としては優しすぎるな。

 --いや、セバスは見た目は優しそうなお爺さんだが、あれでいて冷たいところがある。

 ジルも、勘でしか無いが、多分、貴族としての冷酷さは持っているはずだ。次期当主として、セバスに鍛え上げられているし。この2人に頼るか)」--と考えたエリクが向かったのは、ジルの部屋だ。

 今はちょうど、セバスが勉強を教えているところだろう。



 --コンコン



「はい」--という声がして、エリクが中に入ると、真剣な姿の2人がいた。



「どうした?エリク。珍しいな。昨日の演説--その、よかったぞ」

「ジル兄。やはり、あなたは、俺の心のオアシス。天使」

「わっ……!どうしたんだよ。落ち着け。はあ……まあなんだ。その……ソフィーにも言ったが、今まで、なかなか構ってやれなくて、ごめんな。これからは、遊んでやるから」

「デレ兄?」

「誰だそれ?一文字もかすってねえぞ。あと、デレてねえ。まったく」



 後ろでは、「おお……!良かったですねえ。ジル様、エリク様。爺やは、赤飯ですぞーー!」--と、セバスチャンが支離滅裂な発言をして、泣いている。

 そういえば、そんな事している場合では、無かったんだ、とその声を聞いてエリクは目を覚ました。



「なあ、セバス」

「はい。うぅ……。なんでしょう」

「その、感動しているところ悪いけど、リーダーの仕事教えてほしい」

「なっ……!なんと。私としたことが。完全に、エリク様がこれからなすべきことを示すのを忘れておりました。大丈夫です。エリク様。既に、エリク様がこれから、やるべき事は、この書類にまとめておりますので、ご心配なく」

「おお。流石だ。ありがとう」

「いえいえ。そんなことよりも、良かったですねえ。2人とも。再会できて、本当によかったでずねええ……!うぅ……」



 セバスチャン。敏腕執事だけど、かなり癖強めだな。--と思ったエリクであった。



---------------------------------------

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る