第17話 その頃王国では(王国side)

-side セシル-




「セシル王子、ただいま戻りました。エリク様を無事送り届けることは出来ました。ですが、おそらくもう--」

「そうか。ご苦労」



 いかにも王子といった風貌の、金髪青眼の少年が王子用の執務室の中にいた。彼こそ、このマスク王国の第一王子、セシル・マスクである。



「はあ……。俺は結局、自分を庇ってくれた親友すら守れなかったのか。(エリクはちょっとぶっ飛んでいるやつだが、王子の俺にも分け隔てなく接してくれる数少ない友人だった。エリクに振り回されながらも、過ごす日々はかけがえのない日々だった)」



 エリクをぶっ飛んでるで済ませて良いのかはともかく、セシルにとってもエリクにとっても、お互いに、かけがえのない友人であった。

 そんな彼は、暗い顔をして言う。



「しかし、よほどの化け物でもなければ、生き残ることは無理だろうな。御伽噺のことが正しくなくても、数々の凄腕冒険者が調査に行ったっきり帰って来れなかった場所だ」



 よほどの化け物だったエリクは、生き残ってしまったのだったが、勝手に死亡認定されたようだ。これにはエリクも「化け物ですまんかった」と謝罪会見すべきだろう。



 だがこの時、セシルがエリクを死亡認定したことは彼にとって良かったのかもしれない。お陰で、思う存分、エリクにレベルアップの時間を与えることができたのだから。



「……………」



 側近達も暗い表情をし、同情する。

 まだ、幼く友達もいないセシルを知っていた側近達は、エリクという友達ができ、セシルの表情が日に日に良くなっていくのを見て、よかったと心から思っていたのだ。



「……っと、まあ、落ち込んでる暇はないな」



 部屋の暗い雰囲気を気にしたセシルが、振り払うようにいう。

 彼も年齢の割に周りを率いるという己の立場を弁えた聡明な少年であることが伺える。



 --コンコン。



「誰だ?」

「エリーゼ様のようです」



 部屋の前を見張っていた側近が答えた。



「ああ。通して良いぞ」

「お久しぶりです。お兄様」

「久しぶりだな。すまない。エリーゼ。おそらく、エリクは……もう」

「ええ。わかっていますわ」



 エリーゼ・マスクはこの王国の第二王女にして聖女だ。セシルと同じく金髪青眼で容姿も整っている彼女は、民にも人気であり、エリクの婚約者でもあった。

 聖女を将来娶るエリクがいかに、王国中枢や国外に注目されていたかわかる。

 もっとも、親同士や国の上層部が決めていただけなので、エリーゼやセシルは知っていたが、エリクは知らなかったのだが。



「それよりもお兄様、この王国にいるのは危険です」

「ああ。わかっている。エリクを魔境に追放したことは既に王国中に広まっている。エリクを支持していた学者や貴族が、クーデターを起こすのも時間の問題かもしれない。そして、混乱した王国を他国が攻め込む想定もしておいた方がいいだろう」



 セシルは持ち前の頭脳を使い予想できることを口にした。もっとも、頭がいいとはいえ、子供でも予測ができるくらいには、分かりきった未来ではあったが。

 今の国王ははっきり言って無能なこと極まりない。エリクには権力欲は全くないので、王族に取り込めば良いものを、下らないプライドで権力を振り翳し、追放してしまったのだから。



「加えて、エリクがいなくなるということが王国にとってどのようなことかもわからないようですわね」

「ああ。商業大国マーチャルト王国は今回の一件でうちの国を見限るだろう。商人の連中は合理的な判断を下すならな」

「私もそう思いますわ。しかし、そうなると、うちの国は厳しいですわね。ただでさえ、小国の貧乏国家ですのに」

「そうだな。俺もそう予想していたから、近いうちに、俺とお前で商業都市マーチャルトに亡命する手筈を整えている」

「……!そうでしたの。流石お兄様ですわ。ありがとうございます」

「気にするな。元々留学予定だったからな。少し予定を早めるだけだ」



 本当は、エリクと一緒に3人で商業大国マーチャルトに留学する予定だった。

 言わば、人質を取る代わりに大国が小国であるマスク王国を守るという密約を結んでいたのである。

 もちろん、優秀な頭脳を持っているセシルと聖女であるエリーゼも重要であったが、1番の目的はエリクであった。

 その目的がなくなったため、マスク王国には価値がなくなったというわけだ。



「そうとわかれば、早々に準備しておきますわね」

「ああ。言わなくても大丈夫だろうが、慎重にな」

「ええ。わかっていますわ」



 こうして、マスク王国は次世代の優秀な頭脳を3人も失ったのであった。



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