第12話 賢いルーク
-side エリク-
フェンリルの里は山を掘って洞窟にしたところだった。結界魔法で強化してあるから崩落する危険もないみたいで、彼らにとっては快適だそうだ。
もっとも、ドラゴンや創造神はともかく、図太くても、人間であるエリクにとってはそこそこ厳しい環境なようだが。それでも、エリクはもてなしてくれているルークに対してなるべく失礼がないようにしている。
「これだけの住居をフェンリル達で建てたのはすごいな」
“当然だろう。”
“わふわふ” “くーん(ぺろぺろ)”
今エリクは洞窟の中の彼らの応接室にいて、彼の上には子供のフェンリルが5匹のっている。よだれで、ベトベトである。
応接室には一応簡易的なテーブルがある。彼らが魔法で作ったようだ。手足を使えないのにも関わらず、器用である。
(検索 “フェンリル 好きなもの”
検索結果:肉)
ほー。やはり肉食獣なのか。
「なあ、レオン。フェンリルにとって美味しい肉沢山出してあげることできない?もてなしてくれたお礼にさ」
『いいよ』
というわけで、レオンにお肉を沢山出してもらった。途端にフェンリル達の目の色が変わる。
「食べてもいいぞ」
ガッガッガッ……。
目にも止まらぬ速さでがっつく。すぐになくなると、“くーんくーん”、“わふわふ”と甘えたような声を出している。
『か、可愛い。ほら、もっと食べていいぞ』
またまた、がっつく。これが餌付けというやつだ。お腹いっぱいになったフェンリル達はまた俺のところに来る。
心なしか、さっきよりも気を許してくれているみたいだ。
“こたつらは随分とお主に懐いたようだな”
「あはは。嬉しいよ」
“エンシェントドラゴンほどではないが、我らはお主ら人間の心をある程度読み取れるからな。エリクが、真っ直ぐな心を持っていることくらいはわかるぞ”
本当は図太くて能天気なだけだが、ものは捉えようである。フェンリル達はエリクの性格を気に入ったようだった。もっとも、餌をくれたからだけかもしれないが。
何はともあれ、第一段階の打ち解けることは成功である。
「(ならば、第二段階の勧誘をしなければならない。どう誘おうか。)ねえ、この洞窟より快適な場所があって、食事も提供できるっていったら、里から移動できる?」
“うーむ。お主の言わんとしていることはわかるが、難しいな。我らにはこの洞窟が1番快適なのだ。それに長年住んでいるこの場所は愛着もあるのだ”
「やっぱそうだよなあ。どうしたものか。(それにしてはどうも理由付が適当なような?)」
“もっとも、レオンがもっといい場所を提供してくれるのなら別だがな”
チラッ、チラッ、とルークはレオンのことを見る。
「(なるほど、つまり交渉するためにわざとここから移動できないふりをしたと。俺からもレオンに快適な生活を頼んでほしいということなのだろう)」
なかなか、小賢しいフェンリルである。
「俺からもお願いするよ。レオン」
『はー。全くあなた達は。まあ、別にそれくらい簡単なことだからいいけど』
頼めばなんでもやってくれるチョロ神だから、ルークも交渉しようと思ったのだろう。言い換えれば、数千年間足下を見られ続けている状態であるとも言える。
『じゃあ、私は屋敷をちょちょいっと改造してくるから。ルークも一緒に来て』
“うむうむ。エリク感謝するぞ。お主、なかなか見所がある。流石我が見込んだだけはあるな”
ルークも、実は結構チョロかったりする。
「(この島の住人がみんなこんな感じなのだろうか。あまり、騙し合いとかないから、みんなチョロくなってしまったとかか?これは、実家に戻る時、しっかりみんなに人を信用しないように教えなければな)」
「お主なあ。精度はともあれ、我らは人の心を読める。だから、お主が心配することはない。お主を認めているのだって、何も無条件ではないのだぞ」
「(確かに、言われてみればその通りだ)」
「だから、別に心配しなくてもいいのだ」
“くーん”“わふ”
まるで、そうだそうだと言わんばかりにフェンリルの子供達も伝えてくる。
ちなみに、フェンリル達はエンシェントドラゴンとは違い、声に出して話すことはできない。だから、人間やエンシェントドラゴンと意思疎通をとるのは念話で行うらしい。
「(どちらにせよ、人間の言葉を魔物が理解できている時点で破格の魔物ランクの高さが伺える。知能も高い)」
「むしろ、お主らより長く生きている分、知識は断然多いぞ。知能もお主らより少し高いだろう」
「(人の身で測れるレベルを越しているのかもしれない。だからこそ面白い。色々調べてみたいな。それはそうと、フェンリル達の家はどんな感じになるなのだろう。楽しみだ)」
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