41.朝倉さんは嫌い?

「で、どうしたんだよ」

「……フラれた」

「フラれたぁ? 誰に……って朝倉しかいないか」

「俺、お前に朝倉のこと好きだって言ったっけ」

「いや見てりゃわかるだろ」


 中学の頃から日向とよく来ているラーメン屋。大将とも顔見知りと呼べるくらいには仲良くなっている。

 そんな場所で食べるラーメンが、珍しくあまり美味しく感じられない。立ち直ったつもりではいたが、思いのほか傷ついていたらしい。


「そういえば結花にも言われたな」

「だろ? まあユーは鋭いとこあるからなぁ。俺が弱ってるときもすぐに……」

「悪い、聞いてやりたいけど今は惚気がきつい」

「すまん」


 結花と日向ほど上手くやれているカップルはなかなかないと思う。もちろん、結花が我慢している部分はあるが、それを含めて結花は日向のことが好きなのだ。それに全力で応えようとする日向もまた、結花のことが好きなことが伝わってくる。


「朝倉にはそれなりに好かれてると思ってたんだけどな……」

「なー、やっぱなんかおかしい。もっかい告ってみろよ」

「死ねと?」


 また突き飛ばされでもしてみろ、もしかしたら本当に首を吊って死ぬかもしれない。それくらい朝倉のことが好きだった自分に少しだけ驚く。

 いつから、あんな素直じゃない朝倉のことが好きになっていたのだろう。いや、多分いつからとかではない。想いを伝えたときにはいろいろ言ったが、結局俺は朝倉に連れ回されるのが楽しかったんだ。

 それだと、なんだか自分がマゾヒストのような気もしてくる。いや違うが。


「はぁ……」

「……おっ」

「どうした?」

「ユーからメッセ。安心しろ惚気じゃない」

「そっか」


 夏休みはどうしようか。日向と結花はイチャつくので忙しいだろうし、仮に朝倉に誘われたとしてもまともに話せる気がしない。朝はなんとか会話ができたが、放課後は顔を見ているとだんだんつらくなっていったので早く切り上げさせてもらった。

 そういえば、朝はなぜ来ていたのだろう。それに、放課後も何を伝えようとしていたのか。まあ、聞いてもいいことは無いだろうが。


「夏休み、空いてんだろ?」

「空きまくってる」

「海行くぞ。俺とユーとお前で」

「……いいけどそれ、俺がつらくね?」

「大丈夫だって。俺もユーもお前の親友だろうが。仲間はずれはしない」

「まあ、そういうことなら」


 気は紛れるだろう。それでまた、別の人と恋愛をしたい。


「……無理だぁ」

「どした」

「……めちゃくちゃ女々しいこと言っていいか」

「聞いてやる」

「朝倉のこと、フラれてもまだ好きだ」


 ここ数日で、何度も朝倉のことを嫌いになろうとした。せめて、好きな気持ちを忘れようとした。素直じゃないし、面倒くさいし、わがままだし。

 でも、それが俺が朝倉を好きになった理由だったから、嫌いになんてなれるはずがなかった。


「それでいいじゃねぇか」

「えっ?」

「恋愛なんてそんなもんだろ。俺なんかユーのこと三回は振ったぞ」

「……マジ?」

「マジマジ。でもあいつ意外にしつこくって。まあそっからはお前も知っての通りだ」

「初耳なんだけど」


 結花には、成功したときの告白しか聞いていない。まさかそれまでに三度もフラれているなんて知らなかった。


「……そっか、結花も頑張ってたんだな」

「それによ、振ったからって絶対に付き合いたくないわけじゃねぇかもしんないだろ。ほら、俺とユーも最初は両思いじゃねぇんだし」

「確かに」


 なら、何度も告白するのはもしかしたら可能性があるのか? あるのだとしたら、たとえつらくても何度もチャレンジしてみたい。

 が、それと同時に朝倉が好きな人と結ばれるようにと応援してやりたい気持ちもほんの少しだけある。


「まあ、とりあえず夏休み初日に海な。早い方が人少ねぇだろうし」

「わかった」


 ちらっと見えた日向のスマホにはLINKのメッセージ。そこに日向が『釣れたぞ!』と打ち込んでいたが、とりあえずは気にしないでおくことにした。

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