第97話 折られた心と、秋斗の真意
ノアの扱いをずっと不愉快に思っていた秋斗が切れたのを皮切りに、全員が改めてギウスデスに向き直る。
ギウスデスはそんな千紘たちを眺め回し、余裕の笑みを崩すことはなかった。
「秋斗は少し落ち着け。頭に血が
「あ、そうだよな」
千紘に指摘された秋斗はすぐさま胸に手を当てると、深呼吸を数回繰り返す。
だが、ノアだけはギウスデスを前に、表情を曇らせていた。
「ごめん、みんな。役に立てなくなって……っ」
「何でノアが謝るんだよ。悪いのはギウスデスだろ」
ノアの謝罪の言葉にすぐさま反応して振り向いたのは千紘だ。
「でも、オレはもう戦力になれない」
ノアが
次に反応したのは香介と律だった。
「そんなこと気にしなくていいのよ!」
「そうですよ!」
二人は懸命にノアを鼓舞するが、ノアはただ首を左右に振るだけである。
「戦えなくてもできることはあるって。たとえば、回復役の律を守るとか。な?」
千紘がノアに向けてあえて笑みを作ると、律も両の拳を握り、前のめりになって何度も頷いた。
ノアは困ったように微苦笑を浮かべ、小さく呟く。
「そう、だな」
まだ納得のいかない表情を浮かべるノアの様子を見る限り、千紘たちの励ましはあまり効果がないようだった。
役に立てるはずだと信じてここまで来たのに、いきなり戦力外にされてしまったノアの気持ちは計り知れない。
千紘だって同じような立場に置かれたら、きっと絶望の淵で不甲斐ない自分を責めるだろう。たとえ何一つ自分が悪くないとしても、だ。
その時である。
これまで黙ってノアを見つめていた秋斗が、ふと思い出したように切り出した。
「……もしかして」
「秋斗、どうした?」
ようやく口を開いた秋斗に、千紘たちが揃って首を傾げる。
「いや、おれとりっちゃんはリリアからミロワールの欠片をもらってるだろ?」
そう言って、秋斗はズボンのポケットからミロワールの欠片を取り出す。手のひらに乗せられたそれは、いつもと変わることなく、きらきらと青く輝いている。
「それがどうかしたのか?」
千紘が不思議そうな表情で問うと、
「うん、つまりリリアの魔力で魔法を使えるようにしてもらってるってことなんだよな。だからこうすればいいんじゃないかな、って思ってさ」
言いながら、秋斗は手の上に乗ったミロワールの欠片を、突然床に叩きつけた。
ガラスが割れるような音の後、さらに小さな欠片になったミロワールが、秋斗の足元に散らばる。
「秋斗、何やってんだ! 大事なもんだろ!」
千紘が思わず秋斗の肩を掴んで、大声を上げる。
しかし秋斗は千紘の方に顔を向けると、不敵な笑みを浮かべた。
「ギウスデスはノアにも魔法の能力があるって言っただろ。ブレスレットはミロワールと同じ役割をしてたとも言ってたし」
「あ、ああ。それは言ってたけど」
千紘がギウスデスの台詞を思い返しながら頷く。けれど、秋斗の言いたいことはまだわからない。
「だから、ノアもミロワールの欠片があれば、また魔法を使えるんじゃないかと思ってさ」
笑みを深めた秋斗はそう言ってしゃがみ込むと、足元の欠片を拾い始めた。
「あ、そうか!」
「なるほどねぇ」
「秋斗さん、すごいです!」
千紘たちが納得の声を上げるなか、手早く欠片を拾い終えた秋斗は、その中でも比較的大きめのものをノアへと差し出した。
「はい、これ。リリアの魔力がこもってるから、この欠片を持ってれば魔法が使えるんじゃないかな」
「……あ、ありがとう」
ノアは驚いた表情を浮かべながらも、素直に礼を述べてそれを受け取る。そして恐る恐る手のひらに乗せると、じっと眺めた。
その瞳が潤んでいることに気づかないふりをして、秋斗がさらに続ける。
「おれとりっちゃんは訓練とかしてる時間がなかったから、これを使って急ごしらえで魔法を使えるようにしてるんだよな。逆にいうと、おれたちの魔力とリリアの魔力を
訓練ってどこでも大事なんだな、と秋斗はわざとらしく苦笑してみせた。
「早速試してみましょうよ」
「じゃあ、僕はちゃんと自分で身を守りますね!」
香介が胸の前で手を合わせ、明るい口調で言うと、律もそれに
千紘と秋斗も一緒になって顔を綻ばせ、ノアを見やった。
「どうだ、ノア。これでも役に立たないと思ってるのか?」
千紘の言葉に、ノアはゆっくり顔を上げる。そのまま全員をぐるりと見回して、心底嬉しそうに破顔した。
「みんな、ありがとう」
ノアが立ち直ったことに「これならもう大丈夫だろう」と安堵しながら、千紘が改めて口を開く。
「ところで、もっと強くなれる方法を忘れてないか?」
その言葉に、四人は思い出したように瞳を輝かせた。
「あれだな!」
「あれね!」
「あれですよね!」
「あれだよね」
秋斗、香介、律の三人はもちろん、ノアも話を聞いて知っていたので、すぐに理解したようである。
正直、千紘としてはあまりやりたくない。むしろやらなくて済むのならそれに越したことはないと思っている。
だが、今はそんな悠長なことを言っている場合ではないし、これでさらにノアを元気づけられたら、と考えたのだ。
千紘とは対照的に、他の四人は楽しそうな様子を見せていた。もしかしたら、全員集まってできることが嬉しいのかもしれない。
「よし! じゃあ、いつも通り全員でやるか!」
秋斗の声を合図に、千紘たちは右手を高々と掲げると、声を揃えた。
『スターチェンジ!』
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