第80話 教団への潜入

 首都近くにある廃城はいじょう

 ヴェール城と呼ばれるその場所が、教団の活動拠点らしい。


「洞窟、塔ときて、今度は城かよ……」


 晴天の下、鮮やかな緑色のマントを羽織った千紘が、目深まぶかに被ったフードをほんの少し持ち上げる。できたわずかな隙間からヴェール城を見上げ、うんざりしたように溜息を一つ漏らした。


 もちろん、ノアを早く見つけてやらないと、とは思っているし、今頃どうしているだろうかと心配もしている。


 しかし、こうも毎回何かしらの面倒ごとに巻き込まれていることに、少々どころかかなり辟易へきえきしているのも事実なのだ。


 千紘たち四人は皆同じようにフードを目深に被り、小声でこそこそと話す。

 全員お揃いのマントは、今回もリリアが具現化で用意したものである。タフリ村で広まっている噂を元に、色も再現しているらしい。


「でも鮮やかな緑って、さすがに蛍光色じゃなくてよかったよな」


 秋斗が自分の羽織ったマントを眺めながら、小さな声でほがらかに笑った。


「蛍光色のマントは色んな意味で嫌よねぇ」


 さすがにあたしでも着こなせないわぁ、と香介も秋斗と同様に声を潜め、同意する。


 そんな二人をよそに、千紘がこっそり周りの様子をうかがうと、信者と思わしき人々がざっと見て数十人は集まっていた。

 やはりというべきか、皆多少の違いはあれ、同じような緑色のマントを身に着けている。


 ちなみにリリアの話によれば、信者の大半は近くの首都に住んでいるか、または滞在しているらしい。


「それにしても、随分と急にできた教団ですよね」

「ああ。これまで設立する気配もなかったって話だし、できたばかりの割には信者の数も多すぎる気がするな。ここにいるの全員信者だろ?」


 律の言葉に千紘が頷きながら、フードをさらに深く被り直す。


「怪しいなんてもんじゃないよなぁ」


 秋斗もそう言って腕を組んだ時、ちょうど信者たちの声が聞こえてきた。


「今日も教祖様のありがたいお話が聞けるのよね」

「ああ、楽しみだな」

「教祖様はすごいお方だからね」


 耳に入ってくるのは、どれも教祖を褒めるような言葉ばかりだ。

 これで、信者たちがどれだけ教団に心酔しているのかがよくわかる。


「教祖、大人気だな」

「まあ、教団のトップだもんなぁ」


 千紘と秋斗がそう話していると、前方にいる信者が少しずつ動き出した。

 その様子に気づいた香介が、すぐさま千紘たちに声を掛ける。


「あ、いよいよお城の中に入るみたいよ」

「よし、潜入開始だな」


 千紘の言葉に、全員が無言で、けれどしっかりと頷く。


 四人はぞろぞろと進んでいく信者たちに紛れ、城の中へと足を踏み入れた。



  ※※※



 外からは荒廃して見えた古城だが、中は思っていたよりもずっと綺麗である。


「廃城っていうからもっと酷いもんかと思ってたけど、床とかも結構綺麗だな」


 周りの信者に怪しまれない程度に辺りをぐるりと見回しながら、千紘が呟いた。


 変わらず、信者たちと同じように城の中を進んでいく。


 入ってすぐ正面にある大きな中央階段は無視して、横を通り過ぎる。そのまま少し進んでいくと、地下へと続く階段があった。


 あまり広くないそれを、信者たちに流されるようにして下りていく。

 階段の壁には等間隔でランタンが設置されていて、それなりに明るい。


「ここは……」


 地下に着いた千紘たちは揃って、周囲を眺め回した。


 階段を下りた先にあったのは、広い空間だった。さすがにコンサートホールとまではいかないが、数十人程度の信者であれば、余裕で収容できる程度の広さはある。


 ところどころに天井を支える柱が立っている程度で、無駄なものはほとんど排除されている空間だが、一番奥にはそこだけが一メートルほど高くなっている壇があった。


 信者たちは当たり前であるかのように、迷いのない足取りでその壇の前へと集まっていく。


「おれたちは後ろにいた方がいいよな」


 様子を眺めていた秋斗の言葉に全員が頷き、そのまま一番後ろ、隅の方から様子を窺うことにした。


 ややあって、信者たちの間から大きな歓声が上がる。


 千紘がうつむけていた顔を戻すと、壇に向かって左側から教祖らしき人物がやって来るのが瞳に映った。


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