第78話 動き出した教団と緑色・2
木漏れ日の下、五人の会話はまだ続いている。
ここまでの話で、ノアがこちらの世界に召喚されている可能性があり、さらには最近できた怪しい教団と何らかの関係があるかもしれない、というところまではわかった。
草の上にあぐらをかき、腕を組んだ千紘がリリアの方へと顔を向ける。
「で、その教団とやらの名前は?」
「確か、ベテ……何とか教団って名前らしいけど」
問い掛けられたリリアは、ほんのわずかに考える素振りをみせた後、至って真面目な顔で
「その名前じゃヒントにもなんねーな」
まったく、と千紘が呆れたように肩を
「私だってちゃんとした名前を聞いたわけじゃないもの」
リリアはそう言って頬を膨らませる。
このまま二人の間に険悪な空気が流れるのではないか、と思われた時である。
そんな様子を見かねたらしい秋斗が、やんわりと仲裁に入ってきた。
「まあまあ、そこは仕方ないんだから千紘もリリアも仲良くしような」
「……わかったよ」
秋斗の
「とりあえず、そのベテ何とか教団ってやつとノアが本当に関係あるのかは、まだ確認してないんだよな?」
「か弱いあたしとリリアちゃんだけじゃ確認しに行くなんて無理よぉ。仮にあたし一人で動くにしたって、知らない異世界でなんてすごい不安じゃない? それが千紘ちゃんたちを呼んだ理由よ」
今度はリリアではなく、香介が答えた。
途端に千紘は引きつった笑顔を浮かべ、わざとらしく首を傾げる。そのまま香介に視線を投げた。
「俺たちを呼んだ理由はまだいいとして、か弱いって誰が?」
「あたしとリリアちゃんに決まってるじゃない」
「リリアは百歩譲るとしても、アンタのどこがか弱いって?」
まだ笑顔が引きつったままの千紘に対して、香介が動じる様子はどこにも見られない。
代わりというわけではないが、リリアがむっとした表情で千紘を睨みつけた。どうやら『百歩譲る』という部分が気に入らなかったようだ。
香介はマイペースを
「え? 全部かしら?」
「俺や秋斗より腕相撲の強いやつがか弱いわけないだろ……」
これまで、千紘と秋斗が腕相撲で香介に勝てたことは一度もない。
そのことを振り返り、千紘は思わず頭を抱えた。
そこに、秋斗が苦笑しながら割り込んでくる。
「確かに千紘の言う通りだろうけど、今は置いといて話を戻そう、な?」
「そうねぇ。秋斗ちゃんの言葉もちょっと気になるけど、今はそんな話をしてる場合じゃないわよね」
「……」
秋斗の言葉に、香介が素直に従う。しかし、千紘は無言で渋々頷くことしかできなかった。
次には、これまでおとなしく千紘たちを見守っていた律がゆっくり口を開き、香介に改めて確認する。
「えっと、ノアさんと教団の繋がりはまだ確認できてないってことでいいんですよね?」
「さっきも言った通り、今はまだ確証はないわ。緑色のマントだからスターグリーンと関係あるとは限らないもの」
いくらグリーン繋がりとはいってもねぇ、と香介は神妙な面持ちで頬に手を当てる。
「安易には決めつけられないけど、偶然にしてはできすぎてる気もするし、教団との間に何らかの関係はあるかもしれないってことだよな」
ようやく気を取り直した千紘が、確認するように全員の顔を見回すと、皆が千紘に視線を向けしっかり頷いた。
「だったら、まずはそれをちゃんと確認してきた方がいいですよね」
「もし関係なければ、それはそれでいいし」
律と秋斗が真剣な表情で、一緒になって頷き合う。
「そういうことだな」
千紘も納得しながら、これからの行動について考えた。
とにかく、ノアをこの世界でずっと一人にしておくわけにはいかない。
教団とまったく関係がなければ、また違う手掛かりを探すしかないが、それはその時に考えればいいだろう。
今は教団を調べることに専念すべきだ。
「じゃ、リリア以外の四人で調べに行くってことでいいか?」
さすがにリリアを連れていくわけにはいかないだろう、と千紘が提案する。
こうなった原因はリリアの失敗のせいではあるが、仲間であるノアを助けに行くのは地球から来た自分たちだけで十分だ。
それに、ノアがこれからタフリ村に現れる可能性もまったくないわけではないので、事情を知っているリリアはこの村に残った方がきっといい。
千紘はそんなことを考えたのである。
「ああ、そうだな!」
「それでいいと思います」
「あたしたちがいない間、リリアちゃんはいい子でお留守番しててね」
「わかったわ」
全員がまたも揃って首を縦に振った。
リリアが香介に対してだけやけに素直なのが少し引っかかる千紘だが、きっと性格的に相性がよかったのだ、とそれ以上深く思考するのをあっさり放棄する。
考えるだけ無駄だろうし、今はノアのことで手一杯でそこまで考えるのも面倒だったのだ。
「よし、頑張って調べるか!」
秋斗がガッツポーズをしながら気合を入れる。
こうして、千紘たちスターレンジャーの四人は教団を調べに行くことになったのである。
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