第46話 焦げたクッキー

「……悪い、おれの腹の音だ……。だって、ほら、昼ご飯食べ損ねてたからさ……」


 恥ずかしそうにそっと手を挙げ、小声で自己申告したのは秋斗だった。


「だろうと思ったよ。すっかり忘れてたけど、昼食抜きだったもんな」

「僕も忙しくて忘れてました」


 秋斗の言い訳に、千紘と律が明るく笑いながら「わかる、わかる」と揃って頷く。


「じゃあ、りっちゃんも疲れてると思うし、ここでちょっと休憩にしよう! な?」

「それは別にいいけどさ」


 俺のことも少しはねぎらってくれよ、とまではさすがに千紘も言わなかった。わざわざ自分から言うほどのことではないと思ったからだ。

 ただ、秋斗が休憩を提案してきたので、素直に受け入れることにした。それだけである。


(まあ、時々は休憩も入れてかないとな。でもこれまでは俺が一番働いてるはずなんだけど)


 もちろん、最年少の律を気にかけることも忘れてはいけない。だが、千紘は自分もほんの少しくらいは労われてもいいような気がしていた。

 思うだけで、やはり自分からアピールをするつもりはないのだが。


「よし決まり! さてと、リュックには何が入ってるかなー」


 早速その場にどっかりと座った秋斗は、これまでずっと背負っていたリュックを下ろし、中身をあさり始める。


「確か、携帯食が入ってましたよね?」


 律もそう言いながら、秋斗の前にしゃがみ込んだ。


「あ、そうそう。携帯食があったはず! それなら簡単に食べれるよな!」

「あれ? この小さな紙袋は何ですかね?」


 秋斗の手によって外に出されたものを見た律が、まるで見覚えがないとでも言いたげに首を捻る。


「紙袋?」


 長剣をさやに収め終えた千紘も二人のそばに腰を下ろすと、怪訝けげんな表情で秋斗が持っている包みを見た。


 シンプルな茶色の紙袋は秋斗の両手にすっぽり収まるサイズで、それほど大きいものではないが、一体何が入っているのか。


「こんなの入ってたかな? ま、いいや。開けてみよう!」


 秋斗はそう言うと、一切の躊躇ちゅうちょなしに紙袋を開ける。


(まあ、俺たちのために用意された荷物だからどう扱ってもいいんだろうけど、秋斗は遠慮とか警戒ってもんがなさすぎじゃないか……?)


 千紘がそんなことをぼんやり考えながら、秋斗の行動を見守っていると、


「これは……、クッキーだな!」


 秋斗は中から出てきたものを確認した途端に瞳を輝かせ、「よっしゃあ!」と拳を握った。


 紙袋の中身は秋斗の言った通り、クッキーである。

 ただ形はいびつで、所々というか結構な範囲が焦げていたりもする、はっきり言って手作り感満載のものだった。


「これ、まさかリリアが作ったのか? 毒とか入ってるんじゃないだろうな? そもそもちゃんと食えるのか……?」


 クッキーの姿を見た千紘は、思わずそんなことを口走る。


 我ながらリリアの扱いが酷いと思わないこともないが、見た目『だけ』が美少女なリリアに、料理などという大層なことができるとは到底考えられなかったのだ。


「リリアが毒なんて入れるわけないって! 普通に美味いよ。な、りっちゃん?」

「はい。ちょっと焦げてますけど、美味しいですよ!」


 早速食べ始めていた秋斗と律が口をモグモグさせながら、そう答えると、


「確かに毒を入れるメリットはないか。それなら……」


 少しだけ食べてみるか、と千紘もようやくクッキーに手を伸ばしたのである。


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