第16話 この世界においてのギウスの存在・1
「……今度は中ボスの登場かよ……ラオム」
予想もしていなかった人物の登場に、千紘が眉をしかめて唸る。
ラオムとはギウス四天王と呼ばれる怪人たちの一人で、当たり前だがスターレンジャーの敵である。
戦闘員が存在しているのだから、それを率いている四天王が一人くらいいてもおかしくはないのだろうが、今このタイミングで現れるのだけは勘弁して欲しかった。
性格の悪い男だから、きっと戦闘員と戦った後の
「いやぁ、見事な戦いぶりでしたよ」
不気味な怪人のマスクを被っているラオムは、これまた悪趣味な紫色のマントを
また手を数回叩く。乾いた音が広間に響いた。
「まさかこんなとこにギウス四天王様がいるとはな……」
まったく、と睨みつけながら、千紘が長剣を支えによろよろと立ち上がる。
そういえばドラマの中でも何度か似たような登場をしていたな、とどうでもよさそうなことを思い返した。
話し方は丁寧な敬語なのに、人が弱っているところを狙って現れるのだから本当に性格が悪いとしか言いようがない。
そこで、ふと千紘の中に疑問が浮かんだ。
(……戦闘員はみんな無言だったのに、どうしてこいつは喋ってるんだ……?)
素朴な疑問ではあったが、今はとても重要なことである。
これまでに会った戦闘員の中に喋っている者は一人もいなかった。そして中身は人間ではなく、
話ができるということは、もしかするとラオムの中身は人間なのだろうか、と考えた。
『もしかしたら人間だっているかもしれない!』
秋斗の台詞が脳裏に蘇る。
もし本当に人間ならば、この男はきちんと話が通じる相手である。それは千紘自身が一番よく知っていた。
ラオムは見た目こそ怪人で、性格も悪い。だが、演じているのはいつも千紘を気遣ってくれる、とても頼りになる好青年だからだ。
それならば、といつもの口調で声を掛けた。
「アンタはここが異世界だって知ってるのか?」
「もちろん知っていますとも」
マスクを着けたままのラオムは大きく頷いた。
この物腰の柔らかさはラオムのものである。中に入っている人間のものではない。なぜまだラオムを演じているのかはわからないが、もう少し様子を見ようと、千紘はさらに続けることにした。
「じゃあ、ここで俺たちが戦う必要がないのもわかるだろ。そもそもドラマの中で戦ってるだけなんだし」
確かにその通りだった。ドラマの撮影以外ではとても良くしてもらっている。お世話になっているのだ。だから戦う理由なんてどこにもない、と思った。
「それがそうもいかないんですよねぇ」
しかし、困ったように腕を組んだラオムからは、また丁寧な敬語が返ってくる。
どうにも話が噛み合わないような気がして、千紘はあえて名前を呼んだ。
「何でだよ。アンタ、小野寺さんだろ?」
「オノデラ? 知らない名前ですねぇ」
不思議そうに首を傾げる仕草に、千紘は少しばかり不安を感じ始めるが、それでもどうにか会話ができていることには安心していた。戦闘員の時とは違って、これなら戦いは避けられるのではないか、と思ったのだ。
ただ中身は違う人間のようで、それが不思議でならなかった。
「知らないってどういうことだよ? じゃあアンタは一体誰なんだ?」
「わたしはラオムです。それ以上でも以下でもありません」
「それ、本気で言ってるのか?」
千紘は思わず聞き返すが、目の前の男が嘘を言っているようにも見えなかった。
「いたって大真面目ですよ。……ところで」
ラオムが声のトーンを落とす。
今度は千紘が首を捻る番だった。
「貴方はリリアという少女に勝手に召喚されて、迷惑だと思っていませんか?」
「それはまあ、迷惑ではあるけど……」
リリアが召喚さえしなければ、この世界に来て秋斗と喧嘩することもなかっただろうし、こんなにボロボロになることだってなかったはずなのだから、迷惑だと思うのは当然だ。
なぜリリアのことを知っているのか、と少々疑問には思ったが、どこかで情報を仕入れたのかもしれないと考え、問うことはしなかった。それに、訊いたところで答えることはないだろうとも心のどこかで感じたのだ。
「では、わたしと手を組みませんか?」
「……どういうことだよ」
千紘が
すると、ラオムはすぐに答えを返してよこした。
「何、簡単なことですよ。リリアを殺して、この世界を乗っ取る。ただそれだけです」
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