第8話 やばい二人
「それにしても……、あんたたち随分と変わった格好してるのね……」
今になってリリアが「こいつらやべぇ」とでも言いたげに、すっと視線を逸らす。
「格好?」
指摘された千紘と秋斗は、揃って首を傾げた。
まさか裸でもあるまいし、と改めて自分たちの服装を確認した千紘が「あっ……」と小さく声を漏らす。
これまでも散々視界に入っていたはずなのだが、今はそれどころではなくてすっかり忘れていた。
赤い全身スーツ姿の千紘に、同じく青い全身スーツ姿の秋斗。
「……スターレンジャーの格好じゃねーか……」
この格好は日本、いや地球でもテレビの外では色々な意味でかなりやばいものである。
「あ、ホントだ!」
秋斗はほんの少しだけ驚いた様子を見せたが、すぐに気にするのはやめたようだった。
おそらく、階段から落ちた時の姿のままでこちらの世界に来てしまったのだろうと、簡単に想像はできた。
その時は二人ともちょうどマスクを着けていなかったからか、今も首から上はきちんと素顔である。千紘はそのことだけは安心した。
これでマスクまで着けていたら、やばいどころの話ではなくなってしまう。完全に「お前誰?」案件だ。
「まさかこんな格好で召喚されるなんて……」
千紘は草の生えた地面に悔しそうに拳を叩きつけると、次には激しく落胆する。せめて服装くらいはまともなものにして欲しかった、と心から思った。
そんな様にさすがのリリアも同情せざるを得なかったのか、静かに言葉を紡ぐ。
「……簡単な服くらいなら具現化できなくもないけど……」
「できんの!?」
珍しく気の利いたリリアの台詞に、それまで気力を失っていた千紘の表情が一瞬で華やいだ。
「おれはこれでもいいけどなぁ」
秋斗は
※※※
それからしばらくして。
「やっぱ、シンプルイズベストってこういうのを言うんだよな」
ようやくスターレンジャーから解放された千紘が、長い腕を大きく伸ばしながら満足げに何度も頷いた。
リリアが具現化した服は、この辺りの村人が着ているものらしく本当に簡素ではあったが、それでも今の千紘にとってはありがたかった。
センスがいいとはとても言えるものではないが、スターレンジャーの姿よりは遥かにマシだ。
それにこの格好なら、リリア以外の人間に見られても怪しまれたりすることはないだろう。
最初にリリアが怯えた様子を見せていたのも、二人の格好があまりにも奇抜すぎたせいも多分にあったのだと後から知った。
秋斗も似たような服に着替えていた。
「うん、いいと思うわ」
リリアも千紘と一緒になって頷く。
普段はほとんど具現化の能力を使うことがないから少し心配だけど、と前置きしたリリアだったが、特に問題もなく具現化できたことに安堵しているようだった。
「これがスターレンジャーだったら、『スターチェンジ!』で変身できるのにな」
さすがに無理か、と秋斗が屈託なく笑う。
「いや、普通に無理だろ」
千紘はそう言って、右手を振りながら苦笑を浮かべた。
しかし次には、
「……あれ、何か光ってる?」
秋斗が自分の手を見ながら、ぽつりと呟く。
「え……?」
改めて千紘が秋斗を見やると、その身体は淡い青色に発光していた。そして光はすぐに柔らかい粒子となって秋斗の全身を徐々に包み込んでいく。
千紘は呆然とその様子を眺めることしかできないでいた。
これはスターレンジャーへと変身する時の演出と酷似していて、嫌な予感がしたのだ。
予感はすぐに的中した。それから数秒も経たずに、秋斗はスターブルーの姿に戻っていたのである。正確には戻っていたのではなく、変身していたというのが正しいし、マスクもなかったのだが。
「マジか……」
千紘はそれだけを零すと、頭を抱えた。
だが、当の秋斗はそんなことをこれっぽっちも気にすることなく、
「お、何かこっちの格好の方がやっぱり力が出るような気がする」
そう言って、パンチやキックを繰り出している。
「マジか……。何か色んな法則無視してんな……」
変わらず、千紘は同じ言葉を呆けたように繰り返すだけだ。
そこで、これまで黙って事の成り行きを見守っていたリリアがようやく言葉を発した。
「こんなの初めて見るわ。あんたたちの世界ではみんなこんな魔法みたいなことができるの?」
「いやできないって。説明は難しいんだけど、これはちょっと特殊なもので普通の人間はこんな風に変身できないから。むしろできる方がおかしい」
「ふーん、そうなの」
ちょっと残念ね、とリリアが秋斗の方に目を向ける。姿はどうあれ、変身できるということが羨ましいようだった。
一方で、千紘とリリアのやり取りを一切聞いていなかったらしい秋斗が、いつの間にか村人の姿に戻っていた。
「へー、変身を解くこともできるのか!」
変身を解いた秋斗は、感動したように瞳を潤ませている。
「よし、じゃあちょっと冒険に行ってくるか!」
元気にそう言うと、いきなり千紘の左腕を両手で掴んだ。
「ちょ、待て! 冒険とか意味わかんねーし……って痛い、痛い!」
千紘は痛がりながらも懸命に秋斗の手を外そうとするが、しっかり力が込められているせいでなかなか外れない。
この馬鹿力が、と心の中で毒づく。
「そんなことは気にしない! 楽しければ何でもいいんだって!」
「……はぁ……めんどくせぇ……」
結局秋斗の手を外すことは叶わず、千紘は引きずられるような形で渋々出発することになったのである。
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