第14話 元幼馴染の男友達は変態。「鍵と鍵穴があるとするじゃん?」
「おはようございます♪」
「おはよう月愛ち! 今日も2人仲良くだね!」
「月愛おはよう〜」
朝で自爆したらしい月愛だったがその後は2人でいつものように登校すると、教室に入ったところで自分のグループのメンバー達と合流していった。彼女達と楽しそうに話している月愛を横目に俺も席に着くと隣の住人から挨拶が飛んできた。
「おっぱいよう、セシル」
「ああ……おはよう、クロワッサン」
そう俺に下品な挨拶をしてきたの
「どーしたよそんな、うんこを踏んじまった狼みたいな顔しやがって」
「俺の目つきが狼みたいなのは生まれてからなんだよ
「オイオイこんな些細な下ネタで気後れすんなよ。そんなんだからお前の経験人数はいつまで経っても永遠のゼロなんだぞ? 早く松本さんで称号剥奪しちまいなよ?」
そっか……月愛の名前が変わる知らせは確かこれから来る担任の先生によって知らされるんだっけな……けどうっかり余計な情報まで喋るのは気が引けるからクロワッサンには昼休みのときにでも2人で飯を食う約束をして話しておこうか。
「いやいや月愛とはそういう仲じゃないから……それにそれはお前が勝手に作った称号だろうが。俺は別に良いんだよ童貞のままで」
すると生意気にもこいつは「チッチッチッ」と人差し指を振りながら言った。
「それは良くないと俺は考えるぞセシルよ。いつでもお前に遊びに来てくれる美人でセクシーな幼馴染が居るからって、折角の肉を食わねえと強くなれるもんもなれねえだろ? 男は女を抱いた数だけ優秀になるのさ」
「俺の親父にそっくりなセリフ言いやがって、俺はヤリチンになんざ興味ないぞ」
こいつは中学時代が女遊びの全盛期らしく経験人数も3桁越えで丸で俺の親父のようだが、去年に彼女を作ってからはもう女遊びを一切辞めて愛し合ってるらしい。
俺も男である以上は女性とそういう行為を交わしたい欲求を否定するつもりは無いが、中学時代にその辺の女の子を泣かせるような罪な男にはなりたくはないものだ。
「チッチッチッ。良いかよく聞け青二才のバージンよ。男の価値はな、女を抱いた数で決まるんだよ。世の彼女たちのおっぱいの柔らかさも、後ろから抱きしめて首にキスした時の喘ぎようも、ケツを叩いた時にその桃が波打つ現象の眺めも、幸福感を知らないお前には俺の主張を否定する権利も資格もない。全ては童貞の戯言よッ!」
またかよ……もう周りにチラホラ生徒が登校してる中で良くもまあそんな下ネタを大声で言えたものだな……とは言ってもこちらを見てる女子は苦笑してるだけだが。
「俺に反論する材料が無いからお前の主張が正しいことを認めるが、その信念を他人に無理に押し付けるなっての」
「負け犬の遠吠えをのたまわってるお前にムカついただけさ」
「っ……お前それ彼女が聞いたら悲しむんじゃねえか?」
「ふっ、心配ご無用だ。何故なら俺たちは世界で1番幸せな性生活を送っている」
「唐突な惚気うぜえ」
そりゃさぞ幸せそうな彼女さんだが一々上から砂糖の霰をぶち込まれる俺の身にもなってみて欲しいものだ……はあ、けどこの通りに本当に一途なやつだから憎めん。
「まだわかってくれないのかよ……じゃあ例題を出すぞ?」
「まだ何か?」
急な話の転換に警戒してしまうが、とは言えどうせあと数分に彼女さんが登校したら一瞬で向こうに走って終わるだろうから仕方なく付き合ってやるか。
「鍵と鍵穴があるとするじゃん? それで1つの鍵が沢山の鍵穴を開けることが出来れば、それはマスターキーと言えるから優秀な証拠だろ?」
「そうだな」
「でも逆に1つの鍵穴が沢山の鍵にこじ開けられてちゃ、その鍵穴は性能がクソだと言えるだろ? ここも理解できるよな?」
「当たり前だろ?」
すると頭のネジが本格的に外れたのか拳を握りながら喜びを表現し始めた。
「ああそうだその通りなんだよ! つまり1人の男の鍵が女の鍵穴をこじ開けた分だけそいつの存在は優秀だってことなんだよ! やっとわかってくれて嬉しいぞ俺はッ! だから男にとってはな、チンコをマンコにぶち込むのは正義執行であり──」
「お前はさっさと少年院にぶち込まれろ」
丸で俺の同じの代行者のような奴で暑苦しいな本当……けど1年間友達をしてきて本当に悪い奴じゃなく、ただノリが良い体育会系のバカって感じなんだよな。このパンもどきが教室に居るだけで下ネタを言うハードルが下がる錯覚すら覚えてしまう。
クロワッサンとそんな会話をしてると甲高い女の子の声が聞こえて来た。
「みんなおっはよ〜! ゴールデンウィークが過ぎて眠たいけど、今日の金曜日だけ頑張って乗り越えて行こうね〜ッ!」
その声を聞いた瞬間に俺の聴覚が天使のベールに包まれた……いや実際に教室の前方の扉から癒しの柔らかな風が吹き込んで来て俺の眠気も緊張感も吹っ飛んだのだ。
「あっ! ユウキおはよう〜!」
「ユウちんおはよう〜!」
「優希ちゃんおはようございます!」
「おはようユウちゃん!」
燃え盛る太陽のような満面の笑みを振り撒いた女の子の名前は、
ああ流石天界から降りて来た天使のような存在だ……中身が意地汚くて性格の悪い、サディスティックな笑みを浮かべるようなどっかの誰かとは大違いで推せるぜ。
「今日もクラスのマドンナ様はお美しいな〜セシル?」
「ああ、あの笑顔に俺の魂が吸い込まれていきそうだ」
クロワッサンの言う通りに彼女はクラスの男子から『クラスのマドンナ』と揶揄されておりその評判は全校生が、いやきっと学年の垣根を飛び越えて男子たちの間でも高嶺の花と噂されていることだろう……遠くで眺めててもそれ程に彼女は美しい。
なぜなら彼女は校内で1、2位を争う程の美貌の持ち主で、『校内の可愛い女子ランキング』の上位に食い込んでいるからだ。月愛が出現するまではそのランキングにおいて独壇場だったからな……そして俺はそんな女の子と関わる事ができてるのだ。
「ユウちんおはよう。いつも元気なのは良いけど朝一からそのテンションはキツいから、もう少しだけ抑えて頂戴」
「あっははっ、けどそこがユウキの取り柄だから取り上げたらもう何も残らないじゃんっ。ってなわけでおはよ、ユウキ!」
そこで木下さんの親友2人が参上。最近では3人で1セットになってきた美少女達だ。最初に木下にダメ出ししたのが
「ええ、何よそれ流石にちょっと酷くないッ!?」
そう言うとぷっと3人を含め周囲のクラスメイトたちもが吹き出した。
「けどナゴミもアイスもおはよっ!」
それはクロワッサンも然りで、どうやら今日も開口一番に挨拶しに行ったようだ。
「ナゴミ! おはよっ!」
「あっ! しゅーくんおはよっ!」
「へ〜前髪ちょっとだけ切ったのか。それも似合ってんな〜この間言ってた美容院のお姉さんにアドバイスでも貰ったのか?」
「えへへっ。有難うめっちゃ嬉しいよ! そうなんだよね、2日前に行ったらさ〜」
うむ今日もあの2人のバカップルぷりは平常運転のようで微笑ましい限りだな。
「あっははっ、今日もお2人は熱烈だね〜」
「良いよねああいうカップルって」
全くだよ……その際は是非俺と幸せを満喫して欲しいものだ……。
そう思っていると木下さんが俺の方を向いて歩いて来た。
うおおおおおマジかこれはもう今すぐ彼氏彼女になるべきってことだろうか!?
「おはよう颯流くんっ」
「ああ、おはよう木下さん!」
「しっしっし、おはよ颯流っち」
「桃園さんもおはよう」
ああヤバい……木下さんからの挨拶の一言だけで魂が浄化されて天国へと旅立って行けそうだ……そのついでに松本さんも面白がるような表情をしてたが挨拶して来たので返したという感じだな。特に最近はあの2人がベッタリな事が多いからな。
風の噂に『桃園愛素はヤリマンだ』なんて悪い噂が1年生の頃に出回っていた時期もあったが、こうして見てる分にはそんな雰囲気が全くない。とまあそんなことよりも木下さん可愛いよな……特にあのハイビスカスのような笑顔……最高のご褒美だ。
「ん?」
そう妄想に耽ってると一瞬だけ強烈な視線を感じたのでそちらを見てやると、月愛が相変わらず自分のグループと楽しく談笑していた……なんだ、ただの気のせいか。
やがてチャイムと共に大人の男性の声が教室中に響いて皆それぞれの席に戻った。
「おはよう皆の衆! おっしさっさと席につけい、今日のHRではちょっとしたお知らせがあるからな」
教室内へ入って来たのは背が高いがお腹の膨らみが結構凄い事になってる男性だ。見た感じはメガネも掛けており服装がオールドファッションだ。髭も結構ボーボーに生やしてるが何故か不潔よりも親しみやすそうな印象を抱いてしまうのが不思議だ。
「熊せんせーおはようございま〜すっ!」
「ああおはよっ。朝から元気な挨拶を有難う、お嬢ちゃん」
「それでお知らせって何ですかー?」
「もしかしてあれか、新しいおっパブ店でも見つけたか!?」
「やかましいわ黒沢っ!」
真横からすかさず入れられたクロワッサンの突っ込みでクラスが吹き出した。
相変わらずコミュ力お化けのやる事なすことは物凄いないつもいつも。
俺からすれば隣のこいつの性格的な特徴はもはや才能だと思う。
「お知らせっていうのは
「ええ、その通りです」
「それじゃあ冨永の方からも皆に一言挨拶してくれ」
「はい。皆さん、今日から私のことを冨永月愛と呼んで下さい。これからもその名で今後ともよろしく御願いします」
席替えの都合で前列の方に座ってた月愛がクラスの皆にそれだけ言うと、クラスが少しだけ沸いた。まあこんな場面そうそう出くわすことは無いだろうからな。皆は彼女の親が再婚したんだと思ってるだろうが真実は物凄く複雑だ。それも1度留年した人間がその存在を偽ってきて結婚することにした、月愛だからこその芸当だろうな。
「というわけで今日から冨永月愛の出席番号順は
「は〜い」
「了解です!」
サラッとだけ言うと熊せんせーもいつものように小テスト用紙を配り始めた。まあ約3人に1組のカップルが分かれてるこの国の住人から知れば当然のことをでしょうけれど。やがて1限目との間の休み時間になったのでそちらの方を見ると案の定か。
「ねえねえ、新しいお父さんってどんな人?」
「もしかして冨永颯流くんと結婚したり?」
「きゃっはは、年齢的にまだ無理に決まってるじゃん〜!」
「あるとすれば義理の兄妹でしょ」
「え、それ本当なの!?」
月愛はその休み時間でクラスメイト達にワイワイ質問攻めを受けていたようだ。
【──後書き──】
学校に1人はクロワッサンのような人間がいますよね。
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