第1話 幼馴染は恋する男子。『──ぶっちゃけ結婚したい』
(妻が欲しいッ!!)
年頃の男子なら良く「彼女が欲しい!」と考えることだろう。
だが俺からそんな諸君たちへと新たな価値観を提供してやりたい。
朝のモーニングキスで仕事と向き合うモチベを倍増させた状態で出勤する朝。
家に帰って来たら「ただいま」のハグをして愛がこもった夕飯を食べられる毎日。
そして週末になれば毎晩ベッドの上で激しく求め合う愛情行為に精が出せるのだ。
君達はそんな幸せが散りばめられた性生活を送りたいとは思わないのか!?
世界でただ1人の女性を愛し、守り、生きる喜びを共有したいとは思わんか!?
極め付けは妊娠の心配を一切する事なく思う存分にドビュドビュ出来るんだぜ!?
そう俺──
とはいえ現実とはそんなに甘くはなく俺は現在でも年齢=童貞の高校2年生だ。
外見は客観的に評価してもイケメンの部類に入るだろうとは思っている。
趣味でブレイクダンスをしているし、他にもスポーツが出来て運動神経が抜群だ。
そして英語の幼稚園に通った影響で英語と日本語の2ヶ国語が意のままに操れるバイリンガルとなった。
だがそんな高スペックな俺がモテないに至る原因──致命的な欠点が1つあった。
(──そう、俺は人に話しかけるのがあまり好きじゃない人見知りだったんだ)
小中の頃はかけっこが速くても、クラスの女子は皆トークが面白い男に寄ったのだ。故に俺は高2になった今でも彼女すら出来ることが無かった。
いやそれどころか高校に入学仕立てに何人かの女性に向こうから「連絡先交換しよっ!」と逆ナンされて以来、業務連絡以外で話した覚えが無いぞ。
結局その女子たちも俺が教室で陰キャとして振る舞い始めてから返信が返って来なくなったが。つまり携帯に登録されている女子の連絡先はほぼ居ないに等しいのだ。
たった2人を除いてな。
(……だがそのうちの片方は気狂いだからこの際、ヤツは放っておこう)
そう、なんと俺は人生で初めて女の子に恋をしたのだ。所謂──初恋ってやつだ。
彼女のおかげで俺は高校生活に楽しみが1つだけ見つかったのだ。
きっとそれは俺が彼女に惚れる前と比べて世界に心を開くようになったからだ。
俺がずっと憧れていた趣味に向き合うようになったのも彼女が俺の相談に乗ってくれたからでもあるし、読書に精を出すようになったのも彼女がキッカケだった。
ここだけの話だが俺は彼女と付き合いたい。
(いや──ぶっちゃけ結婚したい)
お互いの身体に磁石を埋め込んで永遠に俺の隣へと封印されて欲しいくらいだ。
それ程に俺はその女の子に惚れ込んでいるのだ。
そんな素敵な女性を、君たちにも是非とも紹介したいものだ。
俺は今、学校が終わった放課後の図書室で彼女を待っていたのだ。
ダンス部に所属している彼女だが俺たちが仲良くなるきっかけ──ラノベを通して彼女と知り合ってから、いつも昼休みにここでたわいもない話に興じていた。
それがいつの間にか一緒に徒歩で帰ってお話をするにまで至ったのだ。
ダンス部はいつも6時に練習が終わるから今日も俺は携帯のアラームをセットして、約束の時間に迫るまでゆったりとラノベ読書で優雅に時間を消費していた。
やがてアラームが鳴ったのでそれを切ると奥から誰かの走る音が聞こえて来て、数秒間無言で立ち止まったかと思うとその人影は図書室の扉をゆっくりと開けた。
「颯流くんっ!」
「やあ、木下さん」
ラノベ書籍に栞を挟んでから見てみると、俺の愛しの君がバナナ&ミルクジュースを2本手に持ちながら燃え盛る太陽のような天真爛漫な笑みを浮かべて来た。
彼女の名前は
勉強があまり得意じゃなくいつも定期考査で平均点以下の点数しか取れていないが、普段から性格が明るくてクラスでも友達が多い容姿端麗の大和撫子だ。
背は俺よりも少し低いくらいだがボッキュンボンな容姿、特に男子たちの間でDカップと噂されているその存在感が恐ろしい双丘もあってメチャクチャ可愛い。
「ニャハハ〜今日もこんな時間まで待たせちゃってごめんね。来週にオーディションがあるせいで、その振り付けの練習が長引いちゃって。はい、これ。お詫びの印!」
「別に構わないよ、木下さん。ずっと本を読んでたんだし」
「うーんそうなんだけど……やっぱり1人だけ寂しかったでしょ? ここに居るの」
グハっ!! アカンて木下さんそんな申し訳なさそうな笑みを向けて来たら。
何かの新しい扉が開かれてしまったらどうしてくれるんだ?
いや……俺はむしろ歓迎したい! 共に未知の世界を冒険しようじゃないか!
「それじゃあこのジュースでチャラってことで」
「ニャハハ〜ありがとう、颯流くんっ!」
そう、彼女こそが俺の好きな人兼、俺の未来の妻になって欲しい
ああそうだこの笑顔だ……この笑顔さえ見られれば俺は前を向け続けていられる。
そんなあなたの美しい笑顔を祝して、
「乾杯!」
「へ、一体何の!? けどはい、乾杯〜っ!」
そうしてお互いにすっかり夢中になってしまったバナナ&ミルクジュースを喉に流し込んで行く。ぷはーっ、美味えっ!! なんて幸せな味なんだろうな、これは。
「それじゃあ今日も帰ろうか、木下さん」
「うん、そうだね颯流くんっ! あ、その本この間に私が貸したやつだねっ!」
「ああそうだよ。木下さんの言う通りに『継父の連れ子が昔結婚を誓い合った幼馴染だった』の第7巻凄い面白かったよ。主人公がさ〜」
そう木下さんと談笑しながら俺たちは夕暮れが差す廊下を歩いて行く。
彼女も趣味がダンスとは言え元々は中学時代から本の虫だったせいでラノベ、一般文芸や漫画にアニメなど俺たちの会話を咲かせる燃料にキリが無かった。
それから俺が男友達とスイッチーズで遊んだ格闘ゲームの『ファイブラ』だったり『マスオカート』などのゲームの話や彼女の部活内での話などに花を咲かせた。
やがて駅まで辿り着いたので別れを惜しむ気持ちをグッと堪えて彼女を見届ける。
「それじゃあまたね、木下さん」
「うん、いつも送ってくれてありがとうね颯流くん。……う〜ん……」
「へ? ど、どうしたんだ木下さん?」
すると何故か髪の毛を指でクルクルと巻き付けながら視線を彷徨わせ始めたので、何か懸念事項でもあるんじゃないかと心配になって声をかけた。
「そ、その……」
「何を伝えたいんだ? ゆっくりで良いからな」
やがて覚悟を決めたように鞄から勢い良く何かを取り出して差し出して来た。
「颯流くんっ!! こ、これ!! ……ぁ……受け取って、下しゃい……」
「ぐぉっ……」
急に木下さんの張り上げた声が周囲からの視線を集める結果になったと自覚した途端に、顔を真っ赤にさせながら地面に視線を彷徨わせ始めたぞ……これはヤバい。
恐らく羞恥心で内心悶えてるんだろうが、声が萎むだけでなく噛むにまで至る経緯が可愛過ぎだろ……手が差し出されたものではない方向に伸びかけたのを制御する。
「あ、木下さん……これって、めっちゃ高いブックカバーじゃないか!?」
文庫本サイズのブックカバーだが、上質なレザーを使用したやつだから如何にも上品で高級感が溢れている本革なヤツだ……でもこれ1万5千円はするんじゃ……?
「う、うん……2年生に上がってからいつも図書室にやって来ては私の話を聞いてくれたり、たまに相談事を受けてくれたお礼っていうか……こんなものになっちゃったけど」
「いいや、凄く嬉しいよ木下さん。……けど、流石に高かったんじゃない?」
「あぅ……バレちゃった? うん、実はそうなんだよね……けど颯流くんも同じ本好きの仲間だから、私が欲しいものをそのままプレゼントしたら喜ぶかな〜って思って。えへへ〜ど、どうかな?」
そんな君からの素敵なプレゼントを俺が不満に思うはずが無いだろ?
「本当に有難う木下さん!! 一生大事にするよ……これは俺にとって、この世の全てが詰め込まれた宝物だ」
「わああああっ!? 何だか物凄い大袈裟に感謝してくれた!?」
そう慌てふためく君も心の底から可愛いと思うよ……それに今日は何にも無い日だってのにプレゼントか……まるで円滑な夫婦関係の日常のようだな……デゥフフフ。
「だから、本当に有難う木下さん。誕生日が再来月だったよな……必ず木下さんにもとびっきりに喜んで貰えるプレゼントを贈るから、楽しみにしててくれよな?」
「あ……覚えてて、くれたんだ?」
確か2学期に知り合って何気なく聞いた時の情報だったが、俺にとっても大事な日だからな……忘れられる訳がないだろ。
「当たり前だろ? 昨年の今日はまだ知り合ってなかったから祝ってやれなかったけど……今年は君の誕生日にもう1人だけ祝う人が加わると知っておいてくれ」
「ぁ……うん、うんっ!! 期待してるね。それじゃあまた来週ね颯流くん〜!」
「ああ、また学校でな木下さん」
今日も木下さんは眩しい笑顔を浮かべて走り去った……やはりあの笑顔には俺の魂を浄化する効果があるな……花で例えるならば野原に咲く一輪のハイビスカスだな。
なんて素敵な女の子なんだろうな。まだ付き合ってすらも居ないのにもう嫁に欲しいと考えてしまってる自分がいる。木下さんとの夫婦生活か……絶対最高だろうな。
そんな彼女の残像を堪能している俺に、後ろから耳にタコが出来て聴覚が腐り果ててしまう程に、長年も聞き飽きてきた耳障りな幼馴染の声が聞こえて来た。
「優希ちゃんとの結婚生活ですか……颯流の心中をお察ししますけど、それが叶う日は永遠に訪れないでしょうね……んふふっ」
【──後書き──】
まだ付き合ってないのにもう既に甘いですよね。
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