第323話:「それは、戦い:2」
突然ですが、今日の夜はクリスマス・イヴ!
毎年のお楽しみ、クリスマスです!
というわけで、メイドのルーシェにサンタの衣装を着てもらいました!
https://www.pixiv.net/artworks/103848330
にて、ご覧いただけます。
それでは、本編をお楽しみくださいませ!
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アリツィア王女がノルトハーフェン公国を来訪した、3つ目の目的。
それは、ノルトハーフェン公国を、将来の強固な同盟者とすることだった。
どうして、ノルトハーフェン公国と、なのか。
それは、ノルトハーフェン公国が、小国とはいえタウゼント帝国の有力な諸侯の1つである、ということだけではない。
タウゼント帝国全体を統治する国家元首、皇帝が、代々世襲ではなく、タウゼント帝国に5つ存在する被選帝侯から、投票権を持った諸侯による投票で選ばれるからだった。
そして、ノルトハーフェン公爵家は、被選帝侯の1つなのだ。
もしもノルトハーフェン公国の統治者、エドゥアルドが皇帝として選ばれた場合。
そのエドゥアルドと同盟関係にあれば、実質的に、オルリック王国はタウゼント帝国をその同盟者として獲得することとなる。
オルリック王国がエドゥアルドの要請により、貴重な軍馬の譲渡に応じたのには、こういう思惑もあるからだった。
では、どうやってノルトハーフェン公国をオルリック王国の強固な同盟者とするのか。
その方法は、すでに決まっている。
貴族たちが、他家と関係を深めるために伝統的にくり返して来た手法。
政略結婚をするのだ。
アリツィアは、他国の進んだ産業化を視察し、知見を故国に持ち帰るというだけではなく、祖国の命運を背負って、ノルトハーフェン公国にやって来ていた。
エドゥアルドと結婚する。
それは、アリツィアにとって決して不快なことではない。
自分の方が年上にはなってしまうものの、エドゥアルドは他の貴族とは違って好感の持てる異性だった。
相手を選ぶこともできずに家の都合で婚姻をさせられるのが当たり前だと思って来たアリツィアからすれば、他のつまらない貴族と結婚させられるよりは、好感を抱くことのできるエドゥアルドに嫁ぐのは望ましいとさえ言える。
アリツィアが悩んでいるのは、それを、どう実現するかであった。
〈エドゥアルド公爵……。
なかなか、簡単には行きそうにもないですからね〉
父上も、無理難題をおっしゃる。
悩み深いアリツィアのその言葉に、マヤもその眉を八の字にして、困ったように言う。
〈エドゥアルド公爵はまだお若く、[そういうこと]に強い関心をお持ちではないご様子。
今はまだ、自国の統治をするのに忙しい、それしか考えていない、というところでしょうか〉
「マヤの言うとおりだよ……。
初めての視察なら、エドゥアルド公爵もご同行くださり、お話をする機会もあると思ったのだけどね……」
アリツィアの視察の手配を十分に整えてくれていたエドゥアルドだったが、しかし、それに同行してはくれなかった。
公務があるから、と、ツレない態度。
アリツィアにとっては、幸先の悪いスタートだ。
「自分に、魅力がないんじゃないのか……。
少し、そう思ってしまうよ」
〈その点は、ご安心していただいて大丈夫かと。
エドゥアルド公爵に女性についての関心を持っていただければ、ご主人様ならすぐに悩殺できるでしょう〉
声が出せないから。
アリツィアにしか伝わらない、手の合図を使っての会話だから。
マヤはなかなか口には出せないようなことを堂々と、ストレートに言って来る。
「……なにか、いい作戦でも? 」
アリツィアは一瞬だけ
するとマヤは、ニヤリ、と悪だくみをするような不敵な笑みを浮かべる。
〈エドゥアルド公爵は、未だに女性に強い関心をお持ちではないですが、これは、公爵としての責務に誠実であるためと、ご自身が男性であるというご自覚がないからであるとお見受けいたします〉
「マヤの観察眼は信頼しているし、私も、多分、そうなんじゃないかと思う」
マヤの言葉に、アリツィアは少し呆れたような顔をする。
むろん、呆れているのはマヤに対してではなく、エドゥアルドに対してだ。
〈ですからまず、エドゥアルド公爵には、ご自身が男性であるということをご理解していただくべきかと考えます〉
「それは、そうだろうけれど……。
どうやって? 」
マヤの言っていることはわかるが、いったい、何をすればいいのか。
アリツィアが首をかしげると、マヤは
マヤが言いたいのは、エドゥアルドに男女の肉体的な構造の違いというものを思い知らせることにより、エドゥアルドに女性についての関心を抱かせようということであるらしい。
「……んなっ!? 」
マヤの仕草をそういう風に解釈したアリツィアは、パッと赤面する。
あまりにも直接的で、露骨すぎるというか、大胆な行動であるように思えたからだ。
〈ご主人様は、そのために
顔を真っ赤にして硬直し、動揺しているアリツィアに、マヤは少し不思議そうに首をかしげて見せる。
〈エドゥアルド公爵に、ご主人様をより美しく、魅力的にお見せする衣装を仕立てよ、と。
そういう目的で、
これから、エドゥアルド公爵とは、お食事を共にするなり、外出するなり、近い距離でお話する機会もございましょう。
その際に、ご主人様の魅力を引き出し、エドゥアルド公爵に関心を持っていただけるような衣装を、仕立てさせていただこうと考えております〉
「……あ、ああ!
そ、そうか、衣装の、ことか! 」
マヤが説明すると、アリツィアはようやく再起動して、硬直状態から脱出した。
しかし、動揺が抜けきっていないからか、その声は酷く上ずっている。
するとマヤは、少し意地悪な微笑みを浮かべて言った。
〈ご主人様。
エドゥアルド公爵に自分が男性であると気づいていただくために、
その様子で、アリツィアは自分がマヤにからかわれていたのだということを理解した。
わざと誤解しやすいような仕草をしていたのだ。
まんまとしてやられたアリツィアは悔しそうに唇をわなわなと震わせ、マヤになにかを言おうとしたが、フン、と不機嫌そうにそっぽを向けるだけにした。
この遠慮のないメイドには、自分は口では勝てないと知っているからだった。
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