25話・護衛の決意

 カラバスとヴァインが壁際で仲良く話をしている最中もラシオスとローガンの決闘は続いていた。時折木剣同士がぶつかり合う乾いた音が闘技場内に響く。


 先ほど副審を一人倒した件でお咎めがあるかとカラバスは身構えたが、主審や他の副審たちは我関せずといった様子で王子たちの攻防を見守り続けている。何があろうと本日のメインイベントである決闘を中断させるつもりはないのだろう。


「……やはり、今は仕掛けてこないですね」

「どういうことです?」


 観客席をぐるりと見回しながら呟くヴァインに、カラバスは辺りを警戒しながら尋ねた。


「先ほど矢が放たれた時、ローガン様たちは動きを完全に止めておられた。今のように激しく打ち合っている時のほうが安全ということですね」

「それは、やはりということですか」

「そういうことです」


 じっとしていれば格好の的となる。

 先ほどはラシオスが何の前触れもなく膝をついたため、驚いたローガンが思わず立ち尽くしてしまった。観覧席や貴賓席からは闘技場全体がよく見える。動かない標的を狙うことは容易い。


「では、もしまた動きを止めたら……」

「また何処からか狙われるでしょうね」


 カラバスは青褪めた。

 彼の主人あるじであるラシオスは細身で体力がない。戦いを長引かせればスタミナ切れで負けてしまう。体力を温存させる策の一つとして木剣を高く掲げ過ぎぬようにと教えているが、攻撃を捌く時にはどうしても腕を上げねばならない。


 こうしている間にもラシオスの体力はじわじわと削られている。対するローガンは、表情を見る限りまだ余裕がありそうだ。


「ヴァイン殿。我らで黒幕を捕まえましょう」

「勿論です、カラバス殿。主人たちの決闘を邪魔する無粋な輩には相応の罰を与えねば」


 どちらにせよ、この場に居ても決闘に加勢することは出来ないのだ。従者兼護衛役の二人は視線を交えて小さく頷いた。

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