13話・第二試合終了

 ハルクが貴賓席へと戻ると、護衛対象である青年が椅子から立ち上がって出迎えてくれた。


「ご苦労でした。見事な演武でしたよ」

「は、ありがとうございます」


 緩く編まれた長い白髪はくはつを揺らし、青年は柔らかく微笑む。自分の隣の席に座るよう手招きするが、ハルクはそれを断って彼の横に立ち、護衛の役目に戻った。

 白髪の青年はハイデルベルド教国の高位聖職者、大司教ルノーである。数日後に執り行われるブリムンド王国第一王子ルキウスの結婚式で祝福の聖句を捧げるために招かれている。


「どうやら場内に悪しき考えを持つ者が居るようです。事前に諦めて下さると良いのですが」


 見た目はおっとりした優男だが、大司教ルノーは国のトップに近い立場である。決闘騒ぎに乗じて何かが起こるのではないかと彼も危惧していた。

 だから、ハルクに出場依頼が来た時も二つ返事で了承したのだ。力を見せつけて不要な争いを未然に防げという無言の指示である。


 現在、闘技場には一般国民以外に多くの王侯貴族が居り、貴人を護衛するための猛者は更に多く控えている。破落戸ごろつき程度の相手ならば身の程を弁えて退くだろう。だが、それ以外の輩となれば話は別だ。


 闘技場内に張り詰める緊張感。

 その中に一筋の悪意が混ざっている。

 勘の良い者は何となく感じ取り、周辺を警戒するが、誰もまだ原因を突き止めるまでに至っていない。

 護衛のいない貴人の件だけではない。

 貴賓席の更に上、主催であるブリムンド王国の王族専用のブースには日除けの薄絹が掛けられ、外からは中の様子が見えない。開会の挨拶に顔を見せて以来、国王を始めとした王族は姿を現していないのだ。


「そういえば、次の試合に出る御方は貴方のご友人のお仲間だとか」

「ええ、魔術を使う方だそうです」


 ハルクの言葉にルノーはにっこりと微笑む。


「では、私の出番のようですね。貴方が気に掛けていたことが分かるやもしれませんよ」

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