2話・闘技場《コロッセオ》

 ブリムンド王国の王都郊外に建つ円形闘技場は、かつて周辺諸国との諍いが絶えなかった時代に作られた軍事施設である。定期的に手入れがされており、いつでも利用が可能。現在は主に屋外での式典や王国軍の訓練などに利用されている。


 これまでにも他国の代表と戦う親善試合は幾度も開催されてきたが、王子同士の決闘は前代未聞。しかも、相手はアイデルベルド王国の王位継承権第一位の王太子。彼から申し出たこととはいえ、血を流すような怪我を負わせれば問題になってしまう。


 そこで、決闘で使用する武器は木剣となった。万が一の負傷を防ぐため、防具はしっかりと身に付ける。打ちのめすのではなく剣先が身体に当たれば有効打とし、その数で勝敗を判定すると決められた。


 決闘を申し込んだ側……ローガンは鍛え上げられた肉体を持つ青年である。本人の豪快な性格も相まって強そうに見える。実際剣技の授業でも好成績を収めており、かなりの実力者ではないかと噂されている。


 決闘を申し込まれた側……ラシオスはすらりとした細身の青年で、性格は冷静沈着。剣技の型は完璧だが、スタミナ面で不安がある。最初の数撃でカタが付けば問題はない、長引けば不利となるだろうというのが周りの評価だ。


 とはいえ、負ければ婚約者を奪われてしまう。何としても勝たねばならない。国の威信よりも大事な男のプライドを賭けた決闘である。万全を期すため、ラシオスは従者と特訓を開始した。

 ローガンも自国から連れてきた護衛と朝晩剣を交わし、勝利をより確実なものとすべく汗を流した。


「呆れた殿方たちですわ。フィーリア様を戦利品のように賭けるとは!」

「陛下もまさかお認めになるなんて」

「ラシオス様もあんな申し出など突っ撥ねればよろしいのに」


 憤る令嬢たちに囲まれながら、当事者のフィーリアは落ち着き払っていた。婚約者であるラシオスを信頼しているのか、それとも……。

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