第121話 今を大切に……
透はレアティス山の中腹から、ドラゴンに乗ってフィンリスまで戻ってきた。そのおかげで、本来一日はかかる道のりを一時間ほどまで短縮出来た。
遙か格上のクエストということで不安だったが、蓋を開けてみればすべての行程を無事に終えることが出来た。そのせいか、ここへ来て初めて透に難題が降りかかった。
「ええと、エステル。一旦家に戻ろうと思うんだけど」
「……」
「ギルドへの報告は明日でいいよね?」
「……」
エステルが口をきいてくれなくなった。
ドラゴンに乗る前までは普通に話せていたはずだが、ドラゴンから降りてから話しかけても答えなくなった。
(そういえば、ドラゴンを降りた時に肩を叩かれたけど、あれはなんだったんだろう……?)
彼女が口を閉ざす原因にまったく心当たりがない透だった。
プリプリと頬を膨らませるエステルが先導し、透は自宅へと戻ってきた。
たった二日ほどの冒険だったが、一週間は離れていた気がする。格上の魔物の討伐に万年炎の攻略、ペルシーモ採取、そしてドラゴン襲来にドラゴンに乗って帰還と、かなり濃密な二日間だったからだ。
その証拠に、いままでにない速度でレベルが上がった。
○ステータス
トール・ミナスキ
レベル:41→51
種族:人 職業:剣士 副職:魔術師
位階:Ⅲ→Ⅳ スキルポイント:30→130
○基礎
【強化★】
【身体強化★】【魔力強化★】
【自然回復★】【抵抗力★】【限界突破★】
【STA増加+7】【MAG増加+7】
【STR増加+7】【DEX増加+7】
【AGI増加+7】【INT増加+7】【LUC増加+7】
○技術
〈剣術Lv5〉〈魔剣術Lv1〉〈魔術Lv5〉〈法術Lv9〉〈弓術Lv5〉〈合気Lv5〉
〈反撃Lv1〉〈対抗魔術Lv2〉〈回避Lv2〉〈察知Lv5〉〈威圧Lv5〉〈思考Lv5〉
〈異空庫Lv4〉〈無詠唱Lv4〉〈言語Lv4〉
〈鍛冶Lv4〉〈料理★〉〈調教Lv3〉〈騎乗Lv1〉NEW
〈断罪Lv2〉〈口笛Lv4〉〈物真似Lv5〉〈アドリブLv5〉〈登山Lv5〉
【魔剣Lv2】
○称号【ネイシスのしもべ】
たったの二日間でレベルが十八も上昇した。とてつもない上昇速度だ。それにスキルも自然上昇した。調教スキルが一気に三まで上がった。これはドラゴンと命がけで対話を試みたからだ。またドラゴンに乗って移動したからか、騎乗スキルも生えた。
以前、リリィからスキルを素早く上げる方法を教えてもらったが、たしかに命を賭ければスキルは素早く上昇する。しかしどれだけパフォーマンスが良くとも、天秤に載っているのはこちらの命だ。同じ経験は二度としたくない。
夕食のあと、透は庭でくつろぐリリィの姿を発見した。いつ購入したものか、庭には木製のリクライニングチェアが置かれていた。その上に座ったリリィが、静かに空を見上げていた。
「リリィさん、少しいいですか」
「……なに?」
「実は、こっちに戻ってきてからエステルが口をきいてくれなくて。どうしたらいいのかわからないんで、助言を頂ければと思いまして」
透はぽりぽりと後頭部を掻く。
家に戻って夕食を食べても、エステルはまだぷりぷりと頬を膨らませていた。和解しようと試みようとは思ったのだが、一体何に謝罪すれば良いのか見当もつかず、言葉を探しているうちにエステルは自室に戻ってしまったのだった。
彼女の異変に気づいていたのだろう、リリィが得心したように顎を引いた。
「あったことを、詳しく」
「ええと、まずレアティス山でペルシーモを採ったところからなんですけど――」
透はエステルの様子がおかしくなった少し前から、状況をかいつまんで説明した。その説明を受け手、リリィの表情がだんだんと険しくなっていく。
「――ということで、夕食を食べても機嫌が戻らなくって……。一体、何が悪かったんですかね?」
「トールが悪い」
ぴしゃり。断罪の言葉が透の脳天に落下した。リリィの冷たい瞳が突き刺さる。
「ぐ、具体的に、何が?」
「まずドラゴン。これに乗るなんて、頭おかしい」
「えっ。いやでも……」
日本において、ドラゴンへの騎乗は特段奇抜な行動ではない。むしろ、昔話の『よい子のぼうや』だって乗るくらい、ありふれている。
(いや、あれは竜だっけ?)
「エアルガルドでは、ドラゴンは神に次ぐ存在。神聖な生き物。不敬」
「そ、そうだったんですね……。でも、ドラゴンが乗っていいっていうから」
「それ。ドラゴンの飛翔速度は速い。しがみつくのも大変。下手をすれば落ちてた」
「うぐっ」
「エステルは魔術がほとんど使えない。落ちたら終わり。怖かった、はず」
「うぐぐ……」
ドラゴンはジェット機並の速度が出ていた。透が〈風魔術〉で風を防いでいたおかげで快適な空の旅を楽しめたが、それがなければすぐに吹き飛ばされていたに違いない。
言われてみれば、たしかにあの時、透の後ろでエステルが声を上げていた。てっきり『初めての飛行に喜んでるのかな』なんて思っていたのだが、あれは恐怖の悲鳴だったようだ。
「たぶん、ドラゴンの背中に乗ったのは世界でトールが初めて」
「……リリィさんも乗ってみます?」
「ちっとも懲りてない」
「なんでもないです、すみません」
リリィの雰囲気が急に尖り、透は即座に前言撤回。両手を挙げて降伏の意図を示すのだった。
「エステルに謝るべき」
「わかりました。明日、顔を合わせたら謝ります」
「いま行くべき」
「えっ」
「別れは急に訪れる。次があると思ってても、ないかもしれない。冒険者として生きるなら、今を大事にするべき」
「…………はい」
その言葉の重みに、透の胸がぎゅっと締め付けられた。
エステルに謝りに行こうと玄関に足を向けたとき、透はふと言づてを思い出した。悩みを相談した直後に話すのはどうかと思ったが、リリィの言葉がある。
――今を大事にするべき。
透は再び庭に戻り、意を決して口を開く。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます