第5話

 今日も閉店間近にカランコロンとドアベルが鳴る。


「気まぐれ二つ」

「リーヤ、お腹すいた!」


「いらっしゃいませ、ワカさん、セト君。いま用意しますね」


 わたしの"気まぐれ定食"を食べに来てくれた。食後のコーヒーを運んだ後、ワカに感想を聞くのが日課になっている。


「ワカさん、どうでした?」


 今日のメニューはオムライスとカボチャのスープだ。彼はコーヒーを一口飲み渋い顔を浮かべた。これは注意点を言うときのワカの表情だ、何か失敗したんだとわたしは緊張した。


「リーヤ、チキンライスの味が薄い。みじん切りにした野菜の水分が抜けるまで炒めてないね。味見して、それでも味が薄かったら、塩胡椒、ケチャップかソースを大さじ一杯加えるか、コンソメを入れるといいよ。後、卵も焼き過ぎて硬いかな」


「……はい」


 ワカはお世辞を言わずに的確な指示をくれるので、料理の勉強にもなって助かっている。わたしはメモ帳を取り出して、ワカの言ったことをメモった。


「しっかり野菜を炒めなかったから、水分が飛んでなかったんだ……これから気を付けます」


「でも、前よりはいいよ」

「そう、前よりはいい」


 と、お父さんの口真似をするセア、彼の耳と尻尾が揺れた。モフモフなナサとアサトには出来ないから、ついついセアの頭を撫でてしまう。


「リーヤ、僕を撫でるなって、いつも言ってる」

「ごめん、つい可愛くって」


「僕、可愛いの? ふうーん。じゃー、いいよ」


 二人が帰るまでセアはモフモフな頭を撫でさせてくれた。





 ワカ達が帰り店の札を"close"に変えて厨房で流し台でお皿を洗っていた。そこに封筒を持ったミリアがいつもと違う服装でやって来る、何処かに出かけるようだ。


「リーヤ、いまから南区の叔母の家に書類を届けに行ってくる。私が帰る前にアサト達が来たらすぐ戻るって言って」


「わかりました、ミリアさん」

「じゃあ、行ってくる」

「気を付けて、行ってらっしゃい」


 わたしはミリヤを見送ると、厨房で残りの洗い物を始めた。店の時計が鳴る時刻は午後二時。休憩中の札を出した店に、北区を夜な夜な危険な魔物から守ってくれる、亜人隊のみんなが来る。


 カランコロンとドアベルを鳴らして、店に入りボフッとナサはトラの姿に戻る。その後をリザードマンのロカさんと竜人のカヤとリヤが続いた。

 

 みんなは入り口に武器を置くと、各々好きな場所にと座り、決まって彼らはこう言うんだ。


「ミリアさん、私はミディアムステーキ」

「俺はレアステーキ、飯!」

「僕はよく焼けた肉!」

「僕もよく焼けた肉!」


 いつもの様にみんなが注文し始めた。わたしは洗い物を途中で止めて、厨房からみんなに伝えた。

 

「ごめんね、ミリアさん。南区に用事で出ててお肉は待ってて欲しいの。わたしも洗い物すぐに終わらせるから!」


 カウンター席から、奥の流し台で洗い物をする、わたしの姿が見えたのだろう。


「慌てるな、急いでないからゆっくり洗えばいい」


「ありがとう、ナサ。もう少し待ってね」

「いくらでも待ちますよ。うむ。洗い物をする後ろ姿も良いものですね」

「あーロカ、リーヤのお尻見てる」

「リーヤのお尻見てた)


 リヤとカヤのお尻発言に驚き、手元が狂いガチャンとお皿が鳴る。


「おい、ロカ、リヤとカヤも変なこと言うな」

「なんですか? あなたもリーヤのお尻を見ていたでしょう」

「見てねぇ。オレはリーヤの背中を見ていただけだ」


「ここは素直になりましょう。見ていましたよね、リーヤのお尻を」


「見てた、見てた!」

「ボクも見てるよ、リーヤのお尻」


「ちょっと、カヤ君、リヤ君まで言わないで」


 わたしの後ろで楽しく話すのはいいけど、お尻は恥ずかしいからやめてほしい。洗い物を済ませて厨房から出ると、みんなをまとめる隊長の姿が見当たらない。


「あれっ、アサトさんはいないの?」

「アサト隊長は宿舎でお昼寝中です」


「お昼寝中?」


 そうだよー、とカウンター席のリヤとカヤが頷いた。


「シッシシ、そうだ。アサトは昼寝中だ」


 シッシシと癖のある笑い方でナサも笑った。

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