第6話 思わぬ再会(1)
「さて、ある程度の装備は整えたが、オルトと事を構えるにはまだ心許ないな」
《炎帝》の力を継いだオルトは異様に高い戦闘力を持つ。
数十万はする防具だが、本気を出したオルト相手には紙切れ同然だ。
原作でも、加護の力を極限まで高めたオルトとジークの戦いは壮絶だった。
だからこそ加護を過信するわけにはいかない。
「加護を強化する必要もあるな」
加護を強化するにはいくつかの方法がある。
誰かが放った魔法を吸収すること。
誰かの傷口に触れて加護を複製あるいは簒奪すること。
相手の加護を直接奪うのが、もっとも効果的な方法だが、加護が全てを決める世界では、これを実行する相手はなるべく絞りたい。
引き続き十分な装備を整え、鍛錬を重ねる必要があるだろう。
「兄様、どうされましたか」
オルトとの決着について考えていると、リヴィエラが首をかしげながら声を掛けてきた。
「いや、リヴィエラの服、めちゃくちゃ似合っていると思ってな」
「そ、そうですか……? 兄様にそう言ってもらえると、とても嬉しいです」
リヴィエラが顔を赤く染める。
本当は別のことを考えていたのが、今思ったことは本当だ。
まだ幼いながら、リヴィエラの容姿はまるで妖精のように可憐だ。
教団に捕らえられておぞましい人体実験を施された彼女だが、その美しさは損なわれなかった。
そして、身体の傷を治癒し、汚れを落とし、衣服を整えた彼女は、一層美しさに磨きが掛かっていた。
「そうだ。そろそろいい時間だし、良さそうな店を見付けて昼食を摂ろうか? その後は蜂蜜集めだが、いずれは強力な防具を作るために幻獣狩りもしたいんだが」
ちらりとリヴィエラの方を見る。
「もちろんお付き合いしますよ。兄様の援護は任せてください」
リヴィエラは両手を握って気合いを入れてみせた。
少し心配だが、彼女は自分も冒険者としてやっていくと宣言した。
リヴィエラが立派にやっていけるように、成長を見守ることにしよう。
「分かった。いきなり、幻獣狩りとはいかないから、リヴィエラの訓練がてら手頃な依頼をこなしてみようか」
「はい!!」
さて、今後の方針は決まった。
俺たちは早速、良さそうな飲食店を探して街を歩き出す。
*
その後、食事を終えた俺たちは、冒険者協会へ向かおうと街の大広場を通っていた。
すると、怒号が響き渡ってきた。
「〝加護なし〟だ!! 加護なしがいるぞ!!」
「なんで〝加護なし〟がこんなところにいるんだよ」
騒ぎの中心で、首に鎖を付けられたみすぼらしい格好の少年が、複数の男達に暴行を受けていた。
「ここはな、お前がいて良い場所じゃねえんだよ!!」
「おら、さっさとテメエらの居場所に帰りやがれ!!」
大の大人二人組が、子ども相手に随分と乱暴な振る舞いをしている。
どうやら少年は〝加護なし〟のようだ。
「おいおい、〝加護なし〟に暴力を振るうなんてまずいんじゃないか?」
「構いやしないよ、所詮女神様から見放されたクズさね」
周りの人間達も止めようとはしない。
薄情に思えるが、この世界では当たり前の光景だ。
何故なら、彼らは女神から加護が与えられなかった忌み子だ。
だから、女神に愛された証である加護を持つ者がどんな扱いをしても構わない。この世界の人間のほとんどが、そう考えている。
「に、兄様……」
何か言いたげにリヴィエラが服の裾を引っ張る。
彼女も教団の実験によって、無理矢理〝加護なし〟にされた経験があるからか、目の前の状況を見過ごせないようだ。
「ダメだ。かばえば、リヴィエラまで酷い目に遭わされる」
当然、俺の価値観でも見過ごせる光景ではない。
しかし、この世界における〝加護なし〟に対する迫害は、女神への信仰と結びついているものだ。
下手な行動に出れば、どんな目に遭わされるか分からない。
「俺が行く。リヴィエラは一度、宿に戻ってくれ」
このまま放っておけば、俺もリヴィエラも後味が悪いだろう。
「え、でも……」
「大丈夫だ。影から助けられるように隙を窺うから」
そう言って俺は人波をかき分ける。
「なんとか言ったらどうなんだ、このクズが!!」
「まったく。こんなドブネズミが、街中をうろついているなんて度しがたいな」
そこでは苛烈な暴力が振るわれていた。
少年は無駄だと分かっているのか、抵抗する素振りも見せない。
「あいつらは……」
暴行を加える男達の顔を見て、俺はそっとため息をついた。
そこにいたのは、昨日リヴィエラに絡んできた金髪と大男の二人組の冒険者達だった。
こんなところで何をやっているんだと呆れ果ててしまう。
俺は少年から引き離そうと、二人の元へ向かう。すると……
「あなた達、何をしているの?」
そこに現れたのは、赤いポニーテールのすらりとした少女だ。
「え……?」
その少女の顔を見て、俺は呆気にとられる。
――あなたって最低のクズね。
前世でプレイした時の記憶が蘇る。
「ミ、ミレイユ……!?」
そこに居たのは、原作で俺が最低の行いをして、地獄の底に叩き込んだヒロインであった。
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