「あなたって最低のクズね」と罵倒された最低ラスボスに転生してしまったので原作にない救済ルートを探してみる

水都 蓮(みなとれん)

序章

プロローグ このゲームバッドエンドしかないじゃん

「あなたって最低のクズね」


 ヒロインのミレイユは心底、嫌悪した表情で言い放った。


 なんだこのエンディングは……


 俺は今、この【アルトシア・ファンタジア】というゲームの真のラスボスを撃破した。そして、主人公達の生まれ育った街へと帰還した。

 しかし、そこで明かされたのは、ヒロインがラスボスの子を孕んでいたという最悪の事実だった。


「フ、フハハハ……どんな気分だ、クライド? お前の最愛の女を奪われた気分は?」


 今にも絶命せんとするラスボス――ジークが勝ち誇ったように吐き捨てた。


「ジーク、貴様はどこまで堕ちれば気が済むんだぁっ!!」


 激昂した主人公のクライドがジークに斬りかかろうとする。

 その時、ミレイユが急に苦しみ始めた。


「クライド、逃げ――」


 直後、ヒロインのミレイユの身体が内側から引き裂かれた。


 ――おぎゃぁ!! おぎゃぁ!!


 絶望する主人公をあざ笑うかのように〝誕生〟したのは、翼を生やした赤子の姿をした魔獣であった。

 それも一匹だけではない。無数の赤子が次々と〝誕生〟すると、空を覆い尽くし始めたのだ。


 やがて、虚ろな瞳を浮かべた赤子が赤黒い光を解き放った。もはやそれを止める術のない主人公は絶望に膝を折る。

 滅んでいく世界を眺める主人公をバックに、スタッフロールが流れ始めた。


 ――Thank you for playing !!


「やかましいわ!!」


 ふざけんなとい思いながら、コントローラーを放り投げた。


「ようやく辿り着いた最後のエンディングがこれかよ……」


 このゲームには、隠しエンディングと呼ばれるものがある。

 全てのエンディングを見たうえで、隠しボスを撃破する、特定のレアアイテムをコンプリートする、敗北イベントで全て勝利をするといった厳しい条件を乗り越えて突入するルートだ。


 この物語の真の黒幕であるジークの正体が白日の下に晒され、全ての元凶であるジークとの戦いに突入するエンディングだ。

 しかし、そこで待っていたのは大団円でもなんでもないバッドエンドであった。


「まさか隠し要素全部が、このバッドエンドのための伏線だったなんて嘘だろ」


 隠しボスを撃破し、レアアイテムを集めたことによって、ジークの真の狙いを妨害する要素はなくなり、ジークの死を持って世界の破滅の準備が整ってしまったという展開だ。

 つまり、俺はずっと黒幕のための下準備を一生懸命にやっていたのだ。


 他のエンディングではヒロインのミレイユが死亡したり、主人公のクライドが濡れ衣を着せられて処刑されたりと、後味の悪いものばかりであった。

 だから最終ルートでは大団円になるはずだ。この隠し要素は、それを盛り上げるための前座なのだと、そう思っていた。

 しかし、それは勝手な俺の思い込みだったのだ。


「これじゃ、マルチエンディングじゃなくてマルチバッドエンディングじゃねえか!!」


 バタリとベッドに倒れ込む。


「なんでハッピーエンドが一つもないんだよ!!」


 納得がいかない。


 バッドエンドがあること自体は良い。そういった掘り下げがあると、世界観がより深く感じられるし、俺も嫌いじゃないからな。だけど、それはハッピーエンドという救いがあってこそ輝くものだろう!!


 雰囲気は好きなゲームだっただけに悲しすぎる。

 なにせこれが最終ルートだ。これ以上の救いがないことが確定してしまったのだ。


「はぁ……だいたいなんで俺が好きになったキャラばかり酷い目に遭うんだよ……」


 これまでのストーリーを思い返す。

 メインヒロイン以外のキャラ達も軒並み酷い目に遭うというのがこのゲームの特徴だ。


 味方に裏切られて投獄、人体実験の素材にされる、記憶を操作されて無理矢理手籠めにされるなどなど。

 それなのに、味方を散々苦しめた敵キャラはちゃっかり生き残ったりするから余計腹が立つ。


「世界観もゲームバランスも最高だったのになあ」


 やっぱりゲームの中でぐらい、救いが欲しい。

 ネットの評価は上々らしいが、やはり疲れた俺には鬱ゲーというのはカロリーが高いのだ。

 ネタバレを避けるために、事前情報を断ち切ったのが仇となってしまった。


「はぁ……明日から仕事か。いつになったら借金を返せるんだか」


 現実なんてろくなことがない。

 俺は先の見えない人生に疲れを感じながら眠りにつく。


*


「こんな稼ぎで足りるわけねえだろ!!」


 その翌日、久々に実家に帰った俺を待ち受けていたのは、父の怒鳴り声と共に鼻先に叩き付けられた鈍い一撃だった。

 一切の加減のない強打に、鼻からどくどくと血が流れる。


「俺がどれだけお前に投資してきたと思う!! なのに、こんなカスみたいな仕送りしか出来ねえのかこのクズが!!」


 地面に倒れ込んで動けなくなった俺を、父は執拗に殴り続ける。

 まるでサンドバッグのように。


 あぁ……また、始まった。


 本当にクソみたいな人生だ。

 俺の人生は、このゴミみたいな父親によって支配されている。


 ろくな教育は受けられず、家のために働けと命令され、稼ぎが低ければ殴られる。もう限界だった。


 今日の父親はとても不機嫌で、いつもよりも苛烈な暴力を浴びせられていた。

 しかし、反論する訳にはいかない。

 そうすればこいつは一層不機嫌になり、今度は母にその矛先が行く。


「なんとか言ったらどうなんだ、このタコが!!」


 しかし、その日は運が悪かった。

 俺が黙っているのが気に入らなかったのか、父は手元の酒瓶で俺の頭を思い切り殴打したのだ。


 あ……これ、もう死ぬな……


 頭の中はやけに冷静だった。

 もう、俺の身体は限界だと分かっていたが、恐怖も苦しみもそこにはなかった。


「これでようやく解放される……」


 頭にあったのはその想いだけだった。


 来世があるなら、普通の家に生まれたい。良い親でなくて良いから、悪い親でないことを願う。

 それと、人生は穏やかで起伏のない人生が良い。普通に学校に通って、何気ない青春を送って、そこそこのところで働いて、いい人と結婚する。

 そんな、ささやかな幸せというものを味わってみたいものだ。


「来世では幸せに死ねたらいいなあ……」


 次の生に思いを馳せながら、俺はバッドエンドを迎えるのであった。




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