特例魔術師のリベンジ~卑護者で魔術師になった俺が唯一負けたあいつに絶対勝ってやる~

メガネザル

第0章 誠人と炎華

0話 虹と太陽の決勝戦

倭国魔術決闘祭は将来の日本を守る高校生魔術師の頂点を決める祭典である。


 魔人と呼ばれる人類の外敵と戦う中で優秀な魔術師は必要不可欠であり、それらを決める決闘祭は重要視されてきた。

 しかし、今年の決闘祭はある一人の男が出場し勝ち上がっていたことより別の意味で注目されることになった。


 卑護者ひごしゃでありながら魔術師となった男、橘誠人である。


 卑護者ひごしゃとは、魔力が魔術師としての規定量に満たず、魔術師としての訓練を受けれない者の蔑称であり、魔人との戦いにおいて庇護されるしかない存在である彼らの事を一部の魔術師が揶揄して呼ぶようになったものである。

 だが、そもそも魔術師になれるほどの魔力を持つものは1割にも満たず、ほとんどの人が魔術師ではないため、この呼称が使われることは滅多にない。


 では何故橘がこのような蔑称で呼ばれるのか?それは彼がある意味で特例であるからであろう。


 彼は魔力が必要とされる量を満たず、魔術師としての訓練を受けれなかった不満から、独学で修行を行い、17歳という若さで魔人の単独討伐を成し遂げた。

 その実績が評価され、卑護者ひごしゃでありながら特別にB級魔術師の資格が与えられた。彼は魔術師になり魔人を倒すのではなく、魔人を倒すことで魔術師に認められるという因果関係を逆転させた存在なのである。

 そんな彼が決闘祭に出場し、勝ち上がっている事実が他の魔術師の反感と嫉妬を買い、卑護者ひごしゃと揶揄されることになったのだ。


 そして今、卑護者ひごしゃである橘誠人は、決勝戦の舞台で戦っていた。

 相手は決闘祭に1年生で優勝し、現在2年生の聖王学園代表、天才少女珠視炎華たまみえんか

 赤みがかった長い髪をポニーテールにまとめた美少女で、その可憐な容姿とクールな性格から人気の高い人物だ。

 その反動か、橘誠人の評判は最悪であり、観客席には彼の敗北を期待する生徒たちの罵声や嘲笑が飛び交っている。


 だが、当の本人たちはそんなことなど気にも留めず、ただ目の前にいる対戦相手を見据えていた。


「……」


「……」


二人の間に言葉はなく、ただ己のすべての力を出し切らんとばかりに集中している。

先に仕掛けたのは珠視炎華の方だった。


「『日の玉サン』」


彼女の手から放たれた太陽を模した小型の火の玉が真っ直ぐ橘に向かっていく。

それ一つに込められた魔力は一般的な魔術師一人分の魔力量を軽く超えている。

対する橘も迎え撃つように右手を前に出し、魔術を使う。


「『反射鏡ミラーリング』」


すると、彼の前に2メートルはある大きな鏡が現れ、火の玉を飲み込み、そのまま跳ね返す。

 これもまたA級魔術師にしか使えないようの上級魔術であり、高校生レベルで使える魔術ではない。

 火の玉はそのまま炎華に向かうかと思われたが、彼女は冷静に避けていた。


反射鏡ミラーリングは一度しか返せない。」


 そう言って再び同じ技を放つ。先程よりもスピードが上がり、今度は10個同時に放つ。

彼女は軽くやっているが魔術を同時に発動させるのは簡単な話ではない。2つの魔法を同時に発動させるだけでも難しいものであり、10の魔術を同時に行うなんて芸当は不可能に近い。


「一度返せれば十分さ。」


彼はそう言うと、すべての火球の軌道を読んでいたかのように避けていく。


(『日の玉サン』の軌跡がすでに計算されている……)


 魔術のよる遠距離攻撃はどのような軌跡を行うか、その魔術に込められた魔力を見れば、解析することができる。しかし、それを戦いの中で解析することは困難であり、使う側も意識すればすぐにパターンを変えれるものであるため、そんなことをいちいち行う魔術師はいない。

 だが、橘は彼女の『日の玉サン』の軌跡を一度目の攻撃だけで、読み切ったのだ。


 炎華はその思考能力に驚く。そしてここでパターンを変えて撃った所で、橘はその変化を読み切ってくることを理解し、別の魔術に切り替える。

「『天照剣アマテラノツルギ』」彼女は巨大な炎の剣を作り出し橘に高速で近づく。


「くっ!」橘はそれを見て焦る。


(遠距離戦でもう少し時間を稼ぐつもりだったけど、切り替えが速い。)


今までの攻撃とは比べ物にならない速さで迫りくる炎の剣に対して彼は避けることを諦め、


「『水渦鉾スプリングランス』!!」


 また新たな上級魔術を展開する。右手から水の槍を作り出しそれを炎の剣に突き刺すと、そこから水が溢れだし炎を飲み込む。

 だがそれでも勢いは止まらず橘を襲う。


「ぐぅッ!」


 橘は咄嵯に槍を離し、後ろに飛びながら両腕を交差させ防御の姿勢をとる。さっきまで橘がいた場所に炎の剣が直撃し爆発が起こる。

 その衝撃により橘は大きく後ろに吹き飛ばされるが、なんとか踏ん張り体勢を立て直す。


「次は当てます。」


 彼女はそう呟き、再び炎の剣を作り出しながら近づく。炎の剣も先程の倍以上の大きさに膨れ上がる。


「これはさすがに受けれないな……。」


 橘は苦笑いを浮かべながら呟く。


(けど、は打った。)


 しかし、すぐに真剣な顔になると、両手を地面に付け、また別の魔術を使う。


「『森琳天しんりんてん』!!」


 次の瞬間、炎華を包みこむように森が現れ、炎華を襲う。


「!?」


 突然現れた木々に驚きながらも炎華はそれを切り刻む・・・が、中々消滅しない。

彼女がはっとして下を見ると、そこには大きな水たまりができていた。


(さっきの魔術みずのせいで成長速度が速くなってる。)


 彼女は周りの木を切り続けるも、木々の成長には追い付かず、彼女を包んでいく。

そしてついに木々が完全に覆うと、彼女の攻撃の音が消える。


『嘘だろ、卑護者ひごしゃが勝っちまうのか。』


『そんなばかな。天才と呼ばれたあいつでも勝てないのかよ。』


 観客は彼女が負けたのかと動揺し始める。


「これで終わりだったらうれしいんだけどね。」


 彼が冗談のつもりで言ったその時、森の中心から巨大な火柱が生まれる。

それは橘が作った森すべてを飲み込んでいく。


 そして、その中心には無傷の炎華の姿があった。


「あなたの術は。それがあなたの全力なら私には勝てない。」


 彼女は何事もなかったかように冷静に呟くと、自身の左手に今までの攻撃とは比べ物にもならないほどの魔力を集中させる。

 それは彼女が最初に放った火球に似ていたが根本的に違うものだと見るだけで分かる。

あの火球が太陽を模したものならば、これは『太陽』そのものと言えるほどの力を纏った業火の塊である。

 魔術師ならばその『太陽』の力に絶望し、対抗しようとする気も起きないであろうものに橘はただただ睨みつける。


「なら見せてやるよ。俺の全力ってやつをね。」


 そう言うと橘は炎華を森に閉じ込めていた間に右手に貯めていた魔力を開放する。

それは5色の光を放ち、彼女の魔術に匹敵するほどの力を感じさせる。


「これが俺の『■■■■』だ。」


 そう言って彼は右拳を前に突き出す。

右手に赤、青、緑、白、黒それぞれの色をした光が混ざり合う。


「……」


 それを見た炎華は何も言わずに構えると、二人の間に静寂が訪れる。


そして、


「はぁあああ!!!!」


 二人の雄叫びと共に魔術がぶつかる。

炎華の『太陽のごとき業火の塊』が会場全てを焼き尽くすかのように広がり、 橘の『5色の光を纏う右手』は炎華の太陽そのものを破壊する。


 二つの力がぶつかり合い、そして―――

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