第30話 家庭裁判所での話し合い

 少しばかり時間が流れた。その間、香織さんと小池さんは連絡を密に取って、僕の親権を奪われないように綿密な準備を進めていた。当事者である僕も、小池さんとは何度も会って、話し合いを行った。


 ある日突然、家庭裁判所から訴訟の呼出状が届いた。どうやら都築が動き出した。小池さんに知らせてから、香織さんと僕の2人で家庭裁判所へ向かった。


「どうなるかしら?」

「大丈夫だよ、香織さん」


 待合室で待っている間、心配する香織さんに僕は言う。


 小池さんも、おそらく大丈夫だろうと予想していた。専門家のお墨付きなので、それを信じれば大丈夫だと思う。


 しばらくして、香織さんが呼び出される。先に調停室へ入っていき、僕は待機することに。待合室に一人だけ残されて、少し不安になる。


 一人で待っている間、不安を紛らわせるために考え事をする。今日の夜ご飯は何にしようか、食材の残りが少ないから買い物にも行かないといけないかな。何が必要か、どんな料理を作ろうか考えていると、ドアが開いて香織さんが戻ってきた。


 部屋に入ってきた時の彼女の表情は、明るかった。どうやら、良い結果だったようだけど。僕は聞いてみた。


「どうでした?」

「うん。少し話しただけで、予想していたよりも早く終わったわ。親権については、今後の話し合いでどうなるか分からないけれど、多分大丈夫だって」


 その言葉を聞いて僕も安心する。小池さんの予想していた通りだな。あまり不安に思う必要は、なさそうだ。


 それから次に、僕が調停室へ呼び出された。


「行ってくるね」

「何かあったら、部屋の中から呼んで。すぐ駆けつけるから」

「わかった」


 香織さんに見送られて、部屋の中に入った。そこには、女性が一人と男性が一人。テーブルの向こう側に座っていた。彼らが、調停委員なのだろうか。


「どうぞ、そちらにお座りください」

「失礼します」


 女の人が、目の前の席に座るよう促す。椅子を引いて座りながら、僕は相手の顔を見た。優しそうな顔をしているけど、どこか威圧感を感じる。大人の迫力というものだろうか。男の方は、無愛想だった。観察するような目つきで、じっと見つめてくるだけ。落ち着いた雰囲気の人だった。


「それでは、幾つか質問させてください」


 女性に質問されたのは、僕が倒れたときのこと。正直に、倒れた前の事を話した。記憶があやふやだったり、記憶のない部分があること。それから、起きてからのことなど。記憶が失われていて、姉妹が増えたと思ったこと。それが、嬉しかったこと。


 毎日僕は、家族の皆に料理を作って食べてもらう。美味しいと言ってもらうのが、とても嬉しいということ。学園でも、色々と気遣ってもらって楽しい日々を過ごせていること。そんなことを、ありのまま話す。


 真剣な表情で話を聞く女性に、途中で何度か質問される。


「母親のことについて、どう思いますか?」

「家事を任されて、辛いと思うことは?」

「姉妹との関係は、良好ですか?」

「家庭内で、不満に思うことはありませんか?」


 そんな質問に、素直に答える。今の生活には十分に満足しているし、不満はない。生活していて、辛いと思うことはない。とても充実した毎日を送っている。


 僕が質問に答えていくと、初めて男性の方が口を開いた。彼から質問される。僕は彼の顔を見ながら、質問内容に耳を傾ける。


「私からも質問を。貴方は、父親と母親、どちらと一緒に暮らしたいと思いますか?」

「母親です」


 事前に想定していた質問。答えも決まっていた。だから、その質問に即答する事ができた。すると、僕の答えを聞いた男性は頷いてから再び口を開いた。


「わかりました。本日は、お疲れ様でした。お気をつけてお帰りください」


 それで話し合いが終わり、部屋から出る。感触は悪くなかった。質問されたことにバッチリ答えることが出来たから。小池さんに今日のことを報告しよう。香織さんと合流して、その日は帰った。


 それから数日後、次回の調停期日が決まった。


 どうやら相手側がゴネて、話し合いが進んでないらしい。解決するまで、まだまだ時間が必要そうとのこと。面倒だけど、ちゃんと解決しておかないと後々問題になりかねないから仕方ない。


 香織さんには頑張ってもらって、小池さんにも助けてもらって、どうにか解決してほしい。早く、この問題を終わらせたいと思っていた。

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