第25話 対策についての相談
圭一と一緒にご飯を食べて、その後を喋りながら過ごしていると田中先生が戻ってきた。手には、購買から買ってきたのかサンドイッチを持っている。
昼休みの時間ぎりぎりまで保健室で田中先生を交えて、他愛ない話をして過ごす。
チャイムが鳴った後にすぐ、僕と圭一は保健室を後にして教室に戻った。そして、普通に授業を受けた。
授業も終わって放課後になり、帰ろうかという時。それは聞こえてきた。
「2年2組の佐藤優さん、2年2組の佐藤優さん、至急職員室まで来てください」
「ん?」
圭一の方を見ると、困ったような顔をしている。多分、今朝の件に関する話だろうと思い、圭一には先に帰ってもらうように伝える。
「遅くなりそうだから、圭一は先に帰ってて」
僕が言うと、圭一が頷いて答える。
「分かった。待っていたいけど、今日は先約もあるから帰るわ。バイバイ」
「うん。また明日ね」
圭一と別れを告げて、僕は呼び出された職員室へ向かう。
どのくらい時間がかかるかな。遅くなるようだったら、部活も寄れないし、夕食の準備もしないといけないから早く終わってほしいけど。そんな事を考えながら歩いていると、職員室に到着した。
「失礼します」
職員室の扉を開けて中に入ると、始業式の時に少しだけ話したメガネを掛けた女性の先生と目が合った。確か、日野先生と呼ばれていたっけ。
その名前は、入院していた時に担当してくれた日野原女医のことを思い出す。あの人は今、どうしてるかな。そんな他愛のないことを考える。
そんな事よりも今は、職員室に呼び出されたことを思い出して日野先生に尋ねた。
「今、放送で呼ばれたんですが」
「あー、はいはい。ちょっと待っててね。加藤先生、優君が来ましたよ」
席にタイミングよく戻ってきた、担任の加藤先生に声を掛ける日野先生。
僕に気づいて近寄ってくる加藤先生。相変わらず迫力ある身体をしているな。身長差もあり、ちょっと怖い。その高身長は羨ましいけれど。
「おおっと、お待たせ。わざわざ来てもらって申し訳ないね」
「いえ、大丈夫です」
一言謝られる。気にしないでいいですよ、という返事をして何故呼ばれたのか聞こうとすると、すぐに加藤先生から次の言葉が投げかけられた。
「とりあえず、来客室に人を待たせてるから。そっちに行こうか」
「あ、はい」
来客室? 人が待っている? どういうことか分からないけれど、加藤先生の後について行くことにした。
「さぁ、中に入って」
「失礼します」
来客室の扉を開けて中に入ると、そこには見知った顔がいた。というか、香織さんだった。
「ゆうくん」
僕の名を呼んで、ソファーから立ち上がる。そして僕は、抱きしめられた。
「あ、あの……。ごめんなさい」
「いいの。本当に、無事で良かった」
頭上から聞こえてくる、香織さんの弱々しい声。
どうやら、また心配させてしまったようだ。この頃ずっと心配させてしまい、抱きしめられるまでがパターン化しているような気がする。こんなに何度も心配させてしまうなんて、本当に申し訳ない。
数分後、落ち着いた香織さんと加藤先生とで話が始まる。内容は、今朝の女性に関する問題だった。
「授業中、学園側は不審人物を招き入れないように警備員の巡回を増やして対処しようと考えています」
「登下校は、どうしたら良いでしょうか?」
すかさず香織さんが質問する。僕以上に真剣になって、色々と考えてくれている。暴行罪となった女性に襲われたのは僕だけど、自分自身に起きたことなのかと現実感が無くて、どうもそんなに深く考える事かと本気になれなかった。まだ危機感が少ないのかもしれない。周りの皆は、とても真摯に対応してくれているというのに。
僕も、もっと真剣に向き合わないとダメだろうな。他人事のように考えちゃダメだ。
そんな事で悩んでいる間に、香織さんと加藤先生の話し合いが続く。
「そうですね。今週か来週ぐらいの短期間については、不自由になるでしょうが私か他の先生が付いてお家まで送り迎えします。ですが、一人の生徒をそんなに長く特別扱いできないですね。長期となると、生徒の中で佐藤さんと同じ方向に家がある生徒たちと時間を合わせて集団下校することで、一人だけにすることを避けるとか……。もしくは、ご家族の方どなたかに付いてもらうぐらいの方法しかありません」
「姉妹が居るので、その子達に付き添ってもらうとか」
「そうして頂けると、助かります。ただ、皆さんの都合もあると思いますから、無理強いはできないのですが」
話し合いが続き、二人はいくつかの対策を考えてくれている。
また、負担を増やしてしまうことになりそうだ。僕は男なのに、一人だけで生きて行くのが困難な世界なんだと、改めて感じていた。女性の皆に助けてもらわないと、生活もままならないなんて情けない。
今朝の出来事で、本当に身に染みて理解できた。僕は弱い。
話し合いが終わった頃には、既に外は夕暮れ時になっていた。そろそろ、夕ご飯の準備をしないと間に合わないぐらいの時間。
加藤先生と別れて、香織さんの運転する車に乗って僕は家へと帰ることになった。
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