第11話 身体測定
始業式の翌日。身体測定は午後が行われるようで、午前中は授業があった。
授業中にチラッと横を見てみると、真面目に授業を受ける生徒、ボーっとして聞いているのかいないのかわからない生徒、突っ伏して寝ているらしい生徒と、机の下に顔を向け何か忍ばせて見ている生徒、おそらく漫画かなにか読んでるのかな。
などなど、懐かしい教室の光景が広がっていた。
窓の外を見ると、グラウンドで体育の授業を受けているクラスが居た。体育を受けている生徒の中に、圭一君が居るのが見える。
(朝から体育なんて大変だなぁ……。ん?)
彼らの様子を見ていると、あれっと疑問に思った。
圭一君は赤いジャージを着ている。男子は赤いジャージを着るようだ。そして逆に女性の集団に目を向ける。そこに居た女子達は、青いジャージを着るようだ。
そんな中、青いジャージを着ている男子が見える。
(あれ? あの男子、青いジャージ着てるけど……)
「……さん、……佐藤さん」
「うえっ、はい!?」
先生に呼ばれているのに気付いて、窓から目を離す。
机の前に、この世界では女性としては珍しい僕と同じ150cmぐらいの低身長な先生が立っていた。だけど、低い身長に対して胸がすごく大きかった。
さらに、かなりきわどい服で胸の谷間もしっかり見えている。近づかれたことで、よりはっきりと分かる胸の形。
吸い込まれそうな目線をなんとかそらして、先生の顔を見る。
「あのっ、佐藤さん。……授業は、ちゃんと聞いてくださいね」
「はい。ごめんなさい」
弱々しくお願いしてくる先生に対して素直に謝り、その後の授業は真剣に聞くことにした。
午前中の授業が終わり、昼食を挟んで午後。
午後は、身体測定だけ行うようだ。身体測定は体育館で実施されるということで、クラスメイトが各々移動を始める。僕は、その後に付いて行くことにした。体育館の場所も、曖昧だから。
「佐藤さん、佐藤さんはあっちだよ」
ボーっとしながら付いて行くと、不意に女子生徒から声をかけられる。
「え?」
その女子生徒は、体育館の別の出入り口に向かっている男子達を指さして言われる。
「こっちは女子」
「あっ、ごめんなさい」
それは当然だ。女子の中に男子が入るなんて駄目だろう。適当に後をついて行ったことを後悔して謝った後、走って男子生徒達の方へと加わる。
(あれっ、でもあっちにも男子が居るけど……)
よくよく思い出すと、男子の後に付いて歩いてた筈だけど。男子達に加わった後、先ほど注意してくれた女子生徒の方を見る。確かに、女子の中に男子が加わっているのが見えた。見間違いでは無いはずだ。
(おっかしいなぁ)
男子の一人に聞いてみる。
「あの、男子達があっち行ってるけど良いの?」
「ん? 何いってんの?……女子しか居ないよ?」
チラッと女子と男子達の方を見て、答えてくれる男子生徒。僕はもう一度、確認をした。
クラスメート達の中で、170cm以上はあるだろうか、もしかしたら180cmを超えているかもしれない。めちゃくちゃデカくて厳つい顔をした、その男子を指さし聞く。
「……でもっ。あの人とか明らかに、おとこ……」
「あっ、
「え、あっ……。うん」
もう一度、その慶子さんと呼ばれた人物をしっかりと見てみる。
制服の上からでもわかるような筋肉の付いた太い腕に太い体、足も丸太にズボンを履かせたように頑強そうだ。
顔も日に焼けており黒光りしていて眉毛が濃く太く、加えて短髪だ。大きな鋭い目に大きな獣を思わせる口。完全に屈強な男だ。僕には男にしか見えなかった。
彼女の他にも、男子と思われるような人たちが女子に混じっている。彼女たちは、体育館へと入っていった。慶子さんと呼ばれた人も、女子たちの中に混じって体育館に入って見えなくなった。本当に、女子なのか。
そういえば、と思い出す。確かに、先ほどの男子達はズボンを履いていたような。スカートではなかった。自分が履いているスカートを見てから次に、横に立っている男子達のスカートを見る。
(スカートを履いているのは男子で、ズボンを履いている男子も実は女性で。着ている服で判断するしかないけど、見た目は男のように見えて……。えっと?)
男子がスカート履いているのが当たり前で、男子がズボン履くのはおかしいけど、男子にしか見えない人がズボンを履いていて、それは女子……。
混乱する頭で、今度はちゃんと男子の後に付いていく。間違えないようにしないといけないけど、服装で判断するしかないよな。僕には、どう見ても男性だったから。
身長と体重、視力検査をする。先ほどの疑問について考えていると、いつの間にか身体測定は終わってしまった。あれ? もう終わり?
「終わった人から、保健室へと移動してください」
(場所を移動して、まだ何かあるようだ)
クラスメートの男子が固まって移動している。保健室の場所がわからなかったが、後ろから一緒について行くことで何とか到着した。
保健室の前には、先に別のクラスの生徒達が並んでいた。その後の順番に加わり、名前順に並ぶ。保健室から出てくる生徒は、なぜか喜んだりうなだれたりしている。
(これは、一体何の検査だろう)
一人、扉から出たのを見てから自分も保健室の中に入った。部屋の中では、二人の男子が備え付けられた椅子に座っていた。
(僕も、ここに座ればいいのだろうか)
空いている席に座った。名前が呼ばれて、先に座っていた男子の一人が立ち上がり仕切りの向こうへ行ってしまった。仕切りの向こう側で、何が行われているのか。
服を脱いだりしていないので、聴診の検査とかでは無いようだが。仕切りがあるので向こう側が見えず、何をやっているのかわからない。ボソボソと話し声もするが、声は小さく内容は聞き取れない。
時間もそんなにかからない検査のようで、すぐ男子は戻ってくると扉を出て行く。なんの検査かわからないので、だんだんと不安になってくる。
自分の番になって、名前を呼ばれる。仕切りを超えると、机の傍らに更に仕切りがあり、その近くに白衣を纏った女性が立っていた。
女性医に四方5cmぐらいの紙を受け取る。
(なんだろう、これ)
「あの、すいません。これってなんですか?」
「えっ? い、いや。 ……君、去年やらなかったの? その授業も受けたでしょ。本当にわからないの?」
なぜか白衣の女性が焦りながら言う。慌てるのは、分かっていない僕の方なのに。彼女の慌てる様子を診て落ち着いた僕は記憶を遡ったが、やっぱり分からない。一体何の検査なのか
「ん……、あ、そうか! 君が佐藤さんね。入院していたと連絡は受けているけど、困ったなぁ。生殖検査の方法がわからないなんて。男性の保険医も他の学校へ出てるから。どうしましょ」
手に持っていたカルテだろうか、確認してむむむと悩みだす先生。彼女が言った、生殖検査という言葉は最近、聞いたような気がした。どこでだろう。
「えーっと、その紙はペニスに押し当てるだけでいいんだけど。……もう一度保険の授業受け直した後に検査したほうがいいのかも……」
「あ!」
その言葉に、思い出した。入院中に色々行った数々の意味のよくわからない検査の中にあったものの一つだ。
あの時は、まだ色々と混乱していて言われるがままにやっていた。その中の一つに紙をペニスに押し当てると言ったものもあった。生殖検査と言っていたけど、これがその時と同じものか。
頭に浮かんだ瞬間、顔から火が出る思いだった。
「えっと、やり方思い出しました! 入院中にやったのを思い出しました」
「そ、そう。よかったぁ。じゃあ、早速そっちでお願いするわね」
早口でまくしたてて、素早く仕切りを超える。スカートをたくし上げて、パンツを下ろして下半身の一部を出した。
ちらと顔を後ろへ向けると、ジーっとこっちを見ている女性医と目があった。すぐ女性医は目を逸らしたが、見られていたようだった。
背の高い仕切りだったけど、女性医も背が高く仕切りの上からでも少し覗くことが出来るようだった。これじゃあ、あまり意味がないような。
仕切りを背にしていたので、下半身は見られなかっただろう。だけど、お尻は見られてしまったか。医者だろうから、やましい気持ちはないと思うけど。顔が熱くなるのがわかる。さっさと終わらせて、出ていこう。
視線を下に戻して、紙をペニスの亀頭に押し付ける。それから、脱いでいたパンツとスカートを元通りに履き直す。深呼吸して、顔の火照りを取った。これでよし。
「終わりました」
「は、はい」
仕切りから出て、女性医に紙を渡す。女性医は何事も無かったかのように紙を受け取り、机の上にある機械に紙をセットしてボタンを押した。
機械の液晶モニタに、89%と表示されるのが見えた。女性医は、画面に表示された数字を手に持っている物に書き込むと言った。
「はい、お疲れ様です」
これで検査は終わりのようだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます