第14話

「どうぞ。熱いので気をつけてください」


 広報部のオフィスの前にある会議室で男性社員がお茶を出してくれる。広報部唯一のオメガらしい。日本人の平均身長よりやや低い背丈の彼を眺めながら、「ありがとう」と呟くとお盆を抱えて出て行った。ふわふわとした睫毛が印象的だった。岸本とは比べものにならないほど体が薄く、弱々しい。


「小鳥遊さん。お待たせしました」


 広報部の末広すえひろが書類を片手に部屋に入ってくる。机を挟んで向かいに座ると、備え付けのテレビで仮のコマーシャルを流し始めた。後半のテロップにキジマ鉄鋼の文字が映る。一通り目を通してから、小鳥遊は末広に向けて資料の一点を指で叩いた。


「ここに入れた方がいいんじゃないのか? 後半すぎるとインパクトが足りない」


「たしかに……まだ仮のものなのでこれから改良していく予定ですが、すぐに変更させます」


 末広は素早くスマホを開いて部下にメッセージを送る。その様子を見ながら小鳥遊はもう一度コマーシャルを見た。4人家族が一軒家の前で楽しそうに庭で遊ぶ様子が映っている。2人の子どもが成人して家を出ていき、両親の2人で暮らすようになる。将来性を見据えてバリアフリーになっている玄関に車椅子の女性が入っていく。父方の母親だった。自宅で介護をしながら時が経っていく。コマーシャルの後半に近づくと、さらに歳をとった両親を家で介護する娘の姿が映された。「世代を越えた住まいづくり」と宣伝文句がナレーターによって発される。その直後、詳しい説明として丈夫な建材の紹介と春の相談フェアの案内が放送される。その建材紹介の部分にキジマ鉄鋼の文字が映るというのが元のコマーシャルの流れだった。

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