明日枯れる花

「あの花は、まだあるか?」


『あるよ』


 あの花だけが、頼りだった。自分が、もといた場所に帰る、唯一の道具。


「彼女のようすは?」


『毎日をつまらなそうに生きてるわよ』


「そうか」


『あなたのことは思い出してない』


 それでいい。こっちでの任務が失敗したら、彼女は帰ってこない自分を延々と待つことになる。それよりは、記憶をなくしてしまったほうが、気が楽でいい。


『でも』


「でも?」


『毎日、花を見てる』


「花か」


『あなたのことは思い出せなくても、花を見て、何か感じてるんでしょうね』


「そうか」


 彼女なりに、何か、感じているのだろうか。記憶はないけど、何か。


「わかった。彼女が思い出したりしないか、引き続き頼むよ」


『はいはい』


 見知らぬ場所、彼女も味方もいないところに。ひとり。また、任務の続きが始まる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る