第5話 おやすみ
「無理をせずにおやすみしましょう。声が出ないのにコミュニケーションをとるのは大変でしょう?旦那さんに頑張ってもらいましょう。今までよく頑張りましたね」
遠かった病院を近くの病院にかえ、夫婦で共に診察に行って君が言われた言葉がそれだった。
「この病気には特効薬はありません。効果的な治療法もありません。リラックスして、自然に声が出るのを待つのみです」
新しい主治医は優しそうな人だった。
「いつ声は出るようになりますか?」
「声帯に異変はありませんから、きっと出るようになりますよ」
幸いにも僕の仕事が決まった。君ほどの額は稼げないけれど、それでも社会保険のついた職場だったからやっと君を扶養に入れることができた。
最初は君は寝てばかりいた。随分と心身が疲れていたようで、負担をかけすぎていたのだと改めて認識した。
ご飯も作れず、君は食べようともしなかったので心配して食べなよって言ったら、作るのも食べるのもしんどいと答えて、拒食も併発している状態だった。
僕はひたすら卵かけご飯を食べていた。
前みたいに文句は言わないから、君のご飯が食べたかった。
僕は君に甘えていた。料理が得意な君はなんでもリクエストを聞いてくれたから。僕は野菜が嫌いで、なんとかして野菜を食べさせようとする君に怒ったこともあったし、肉に飽きたとかこれを食べる気分じゃないとか今思えば酷いことを言っていた。
そう。君は食事に対してノイローゼを起こしていたのだった。
仕事をしながらご飯を作るのは大変だった。卵かけご飯ですら面倒だった。忙しい中、君はいろいろ考えて作ってくれていたんだと思うと申し訳なくなった。僕も君を追い詰めていた要因だった。
「チャーハン食べる?」
冷凍だけど、君に聞いてみた。僕は冷凍食品やカップラーメンなら負担が少ないと思って作ってもらっていた。だけど、楽だと思うのなら自分ですれば?と言われて、君を怒らせてしまった。
そんなことがあったから、僕は君に何か食べてもらいたくて、簡単だけど聞くようにした。
それなら食べるとようやく君は言ってくれ、ようやくご飯を食べてくれた。
僕は君が自力でご飯を作れるようになるまで、簡単なものや好物を作った。
ありがとうと言って食べてくれたのが嬉しかった。
“だいぶよくなったから、ご飯作るし、働くよ”
だいぶ回復した君はそう笑っていた。
“仕事先見つけるの大変だけど、ひとりで頑張るのはしんどいからね。だから、頑張るよ。声が出たらなんでもできるんだけどね”
そう決めて、君はすぐに新しい仕事を見つけてきた。
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