キミの隣は譲れない②
「はい、じゃあわたしが教えたこと意識して滑って欲しいです」
柚子がお手本として隣でポイントを教えてくれた。教えて方が上手いし、頭に大体入っていった。
あと、柚子のスキーウェアとインストラクターのように教える姿が様になっていて、ついずっと見てしまった。
「ん、そんなにじろじろ見ないで……涼夜ぁ。恥ずかしい……」
視線を感じて柚子は、恥ずかしそうにもじもじする。内股になり、太ももをすり合わせながら腰をくねらせて……。
「いや、柚子らしくないから」
「ああ、やっぱりそう?」
やっぱりわざとだったか。
「柚子はむしろ何事にも動じず、自分から相手を照れさせにいきそう」
「よく王子様って言われます」
「だろうね」
容姿に加えて振る舞いも落ち着いていて大人っぽくカッコいいし。
「でも……」
「?」
柚子が僕の背後に回ってきた。背後から熱っぽい息遣いが聞こえる。
「そんなわたしでも、どうしようもなく、動揺して、ドキドキして、普通に話すことが難しい時があったんだよ」
「え……」
「それは……ふふっ……"恋に落ちた瞬間"」
「……っ」
僕は柚子に好きと言われた。だからその瞬間は、僕に対して。
顔が赤くなることが分かる。
生暖かい吐息で耳に囁かれたのではなく、その言葉が、事実が僕を照れさせる。
振り向くと柚子は、頬を赤らめて微笑んでいた。
2人見つめ合う。
と思えば、柚子は手をたたき。
「さぁ、練習再開しよう。涼夜、かっこいいところ見せてよ」
今までただの女友達だと思っていた彼女は、なんかズルい……。
◆
「うん、上手くなったよ涼夜!」
柚子の指導のおかげで滑り方が分かってきて、なだらかな坂をゆっくりと曲がったりと、練習を積みコツを掴んできた。
「はぁ、はぁ……疲れた……」
「この調子なら明日は、みんなと同じ高いところから滑れそうだね。連続して滑ったから疲れたよね。もうすぐお昼だしここまでにしよっか」
「う、ん……」
スキーは一見滑るだけで楽そうに見えるが結構体力を使う。
……お腹、空いたなぁ。
レストハウスに入り、席はどこかと探していたが……すぐに分かった。目立つやつがいたから。
「おーい涼夜、美咲遅いぞー! 俺は腹が減ったーーっ!!」
食堂に着くと翔吾がブンブン手を振っていた。翔吾はどこにいても目立つなぁ。
「……どこの席に座ったかわかりやすくて助かるねぇ」
「柚子、うるさいって顔してるよ」
「あっ、バレた?」
「おい、お前ら! 今絶対悪口言っただろ!!」
「翔吾うるさい」
翔吾とは反対側に柚子と座る。
テーブルにはすでにカレーが用意されていた。お肉と野菜ゴロゴロの王道カレー。スパイスの香りが食欲を掻き立てる。
全員着席すると、手を合わせて食べ始めた。
「くぅぅぅ! やっぱ大人数で食うカレーって美味いよな!」
翔吾が大袈裟な反応をしていたが、大人数で食べるカレーは美味いというのは同意である。
「この後は自由だよな! ソリ遊びにでも雪合戦でもなんでもできるよなぁ!」
遊びのラインナップが小学生みたいだな。
「そういえばアレもあったね。確か名前は……スノーモービルだったけ」
「スノーモービル?」
日常ではあまり聞きなれない単語に僕も翔吾も首を傾げる。
「なんて説明すればいいんだろう。うーん、分かりやすく言うと、雪の上を走れるバイクみたいなのに乗って、雪原を走行できるんだよ」
「なにそれ! 絶対楽しいじゃん! うおぉぉぉ! 乗るぅぅぅ!!」
「翔吾落ち着いて……」
口の端にカレーソースをつけながら立ち上がる翔吾を落ち着かせる。
「わたしは犬ぞり体験に行きたいな。大型犬にソリを引っ張ってもらう……一度はやってみたかったし、自分が乗ってるところを記念に残したい。涼夜。良かったら一緒に行かない?」
「いいね、楽しそう」
「あとさ」
「ん?」
柚子は僕に身体を寄せ、静かに言う。
「……夜は一緒がいい」
「っ!?」
思わぬことを言われて身体を離す。
「え、あ……」
「ごめんね、困らせて。わたしは正直なことしか言えないんだ。それに最初に言っただろう? "キミの隣は譲れない"、って」
ニコッと笑う柚子に僕は反応に困る。
なお、翔吾は、テーブルに頬杖をつきながらニヤニヤ笑っていた。
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