2人っきりの空間

「じゃあ乾かすよ」

「うん、お願い」


 ブォーン


 ドライヤーのスイッチをオンにして、まず温風で乾かす。

 希華の部屋に来て、僕は彼女の髪を乾かしていた。風呂から上がったばかりで髪は若干濡れているものの、ちゃんとタオルで髪の水分を絞っていて、10分くらいドライヤーすれば……乾くと思う。


「女の子は髪乾かすの大変そうだね」


 少し大きめの声で話す。


「そうだね。でもドライヤーしないと次の日、髪が痛んだり、ボサボサになるから」

「ほんと、大変だな」

「スーくんはドライヤー使ってるの?」

「一応、僕も使ってるね。前は自然乾燥で済ましていたけど、希華の言う通り、次の日に響くからな。僕もドライヤーは使うようになった」

「スーくんの髪、確かにサラサラだよね」


 ドライヤーすると、寝癖も付きにくく……なるはず。たぶん。


 数分後。ドライヤーを止める。


「次は冷風。確か、仕上げにドライヤーの冷風をすると良いって言うよね」


 最後に冷風にすると、髪の毛が乾いているか濡れているかの判断がつきやすいから、乾かし過ぎによる髪へのダメージを軽減できたする。


 と、いうのを知るきっかけになったのは……


「希華が子供の頃、教えてくれたよね」

「え? そうだっだっけ?」

「うん」


『おかあさんがね、ドライヤーの冷たいは、髪をサラサラにしてくれる魔法だって言ってたの!』


 僕が今日みたいに希華の髪を乾かしていた時、笑顔で教えてくれたもんだから、今でも覚えている。


「子供の頃のこと、覚えてくれてるんだ……嬉しい」

「そりゃ子供の頃はよく一緒にいたしね」

「………一回は関係が途切れちゃったけど、今はまた、スーくんと一緒にいる……」

「うん……」

「嬉しいなぁ、えへへ」


 希華が僕の顔を見上げて頬を緩める。その姿にドキッとして、顔が少し赤くなるのが自分でも分かる。

 

「………ドライヤー、終わったよ」

「ありがとう、スーくん」

「あ、うん……」


 これで希華が僕に言った、ドライヤーで髪を乾かして欲しいという用は終わった。僕が部屋に戻ってもいいはず。はずなのに、なんでか身体が固まった。


「ねぇ、スーくん。今2人っきりだね」

「そうだな、2人っきり……」

「じゃあ、2人っきりの時しかできないこと……してもいいよね?」




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