第52話 誰にも言えない(西条目線)

ややバツが悪そうに答えたミツキを前にして、私の眉がピクッと条件反射で動いた。


だけど、私は感情を抑えて、


「……それキャンセルできないの?」


「無理言うなよ。今更無しとか言えないって」


「……そ。じゃ、もういいわよ」


私はそこで話を打ち切って、着席した。


だけど、今日最後の4限目の授業が始まっても、完全に何も入ってこなかった。


なんで。


どうして。


おかしい。


ただでさえ頭の中がぐちゃぐちゃでおかしくなりそうなのに。


ミツキが私の誘いを断るなんて今まであったけ?


無かった。


ミツキはいつだって私の言う事を何でも聞いてくれたのに。


そう、何だって。


断るなんてあり得ない。


何より、一瞬目にしたミツキの表情が脳裏に焼き付いて離れない。


(気のせいじゃない。……アレは)


耳がキ――――ンってする。

地面もグワングワンって揺らいでいる。吐きそう。

ここが教室じゃなかったら、誰も居なかったら、ワ―――――――!!!って腹の底から叫んで――。


★☆★


朦朧とする頭の中で、延々と再現されるは昨日のアイツとのやり取り。


必死に詰め寄る私を鼻で笑って、こともなげにアイツは言い放った。


「君、ええかっこしいやん? なーんもかーんもええ所ばっか見せたいやろ? ないものねだりやでそれ? 惨めで見るに堪えへんかったから、一回肩の荷下ろしてあげようかと思って撮ったんやん」


「うるさいっ!!  アンタ、マジであり得ないからっ!  犯罪だからっ!」


「……そないガンガン耳元で怒るなやぁ……。まあでも今の方が、いつもの君より素直で僕は好きやで」


「うっさい!  死ね! いっぺん死ね!」


「……なら、君周りの大人に言う気か? 驚くやろなぁー。まさか学校一のアイドル、超超優等生の西条みどりちゃんがスキャンダル何て……。皆、泣いてまうで。親も先生も君の友達もみ――んな見る目変わるで。」


「……アンタ、まさか私を脅している気?」


「ちゃうちゃう。只の未来予測やで。怖いで、皆の目が180度変わってしまうんやから。耐えられへんと思うで、きっと」


「……」


押し黙る私に、アイツは肩をポンと叩いて、


「なあ、お互い賢く生きようや。君も今の立場守りたいやろ? それは僕もや。今までも楽しくやって来たんやし、これからも一緒に楽しく遊ぼうや。な? 工藤って子にはちゃんと僕から言っておくから、な?」


「……サイテー」


そう言って、アイツを非難するのが精一杯だった。

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